11仕事と真犯人
ザコさんから言われた仕事は――【清浄チート教団支部を内部からぶっ壊す】
という反チート組織の仕事だった。
どうやらザコさんは教団に入り込んだスパイらしい。そこで新入りのぼくが反チート組織にスカウトされたのだ。
スカウトされてその波に乗ったのはぼくが悪い。
「ザコさん、ぼくがチートを嫌っているのをどこで知ったんですか?」
「反チート組織には教団でも得られない情報が山ほどある」
「え、あの、じゃあぼくの村で起こった――その、最近田畑を荒らした犯人とか分かりますか?」
「最近田畑を荒らした……それはわたしだな」
「えぇ!?」
何やらかしてくれてるんだこのヒト。あんたの所為でぼくは村から追い出されそうになっているんだぞ……いや待て、ぼくは村のヒトから嫌われていたからこのまま出ていった方がいいのでは?
冒険者になっていた方がいい暮らしが出来るのではないか? 知渡子もいるし悠々自適な生活が出来るのでは?
「わたしは反チート組織の一員だ。あの村の作物はチートに汚染された汚らしい食い物だぞ、そんな物で商売されては困る」
「やって良い事と悪い事がありますよ」
「何が悪い?」
あぁ、このヒトは反チート組織に毒されている。チートそのものだけではなくチートで作られた物すらも憎んでいる。
「チートを使っていても、作物は簡単には育ちません。もし作物を実らせるチートを使える人がいれば、それは大国の上層で優雅に生活をしている人です」
と、ザコさんは首を傾げた。ぼくの言ってることが分からないらしい。
「チートはチートだ! どうせ作物に水を与える時にチートを使っているはずだ! わたしは悪くない! 悪いのはチートを使った奴らだ!」
ザコは批判を浴びるのが好きではないらしい。
「はぁ、もういいです。真犯人を見つけられただけでぼくは満足です」
「真犯人? わたしは悪人ではない! 世の中を良くしようとしているだけの一般人だ」
「その一般人に人生壊されそうになっているぼくって……」
「大丈夫、人生は自分で選ぶものだ」
その人生の選択肢を滅茶苦茶にしたことを許さなくていいのだろうか。
「ところでザコさん、教団の支部を潰してどうするんです?」
「さんは付けなくていい、ザコと呼べ」
「じゃあザコ、どうして教団の支部を潰すんです?」
「いい質問だワトソン君」
「ぼくヨワトです」
「わたしたち反チート組織――名を【ケンタテ】と言ってだな。〝世の中にある矛盾を取り払いたいんだ〟」
「チートの矛盾ですか?」
「チートを使わなければ人は弱体化していく、それはこの世界の法則だ。しかしチートを使わなくても人は強くなれる――そういう法則もある。わたしたち反チート組織は後者を支持する者たちだ」
そっか。ぼくの見ている世界よりもこの人の世界は広いんだなぁ。
「じゃあ、チートを使わないんですか?」
「使うよ――使わないと負けちゃうもん」
これは矛盾している組織に入ってしまったぞ。
ぼくの人生大丈夫か? 変な方向に向かってないよね?
「それで、ぼくの最初の仕事って具体的に何をやればいいんですか?」
ニヒヒ、と口角を上げるザコはとてつもなくいやらしい。
お父さんお母さん、ぼくは選択を間違えてしまったのかもしれません。
おじいちゃんおばあちゃん、こんなぼくに飴玉をくれてありがとう。