1最弱と最強
夜和斗視点
「あんたバカぁ?」
そう反論するように言ったのは日堂知渡子だった。
「バカじゃないよ最弱のバカだよ」
と、諭すように言ったのはぼくこと世輪背川夜和斗だ。
「バカじゃなかったらカバね」
「カバでもないよ、ぼくは人間だ」
「人間ならチートくらい使いなさいよ! 役立たずになりたくないならチートで世の中に貢献しなさいよ! このバカ!」
この口喧嘩の始まりはほんの些細なことだった。
<記録・いつもの口喧嘩の始まり方>
ぼくはいつものように山で柴刈りをしていた。うんとこしょどっこいしょ、それでも柴は刈れません。
チートを使えば簡単に柴の耐久力を減らせるのだけど、ぼくにはチートを使う勇気はなかった……使いたくもなかった。
ノコギリを片手にギコギコ何時間たったのか……もうそろそろ夕方だ。今日も何もできなかったけど、それでもいい。
家に帰って犬のポチと散歩してご飯にしよう。
と、帰り支度をするため荷物を取りに行こうとするぼくに、
「ちょっとあんた! 今日も何もやらないで帰るつもり? チートを使いなさいよチートを!」
「何回も言っているけど、ぼくのチートは弱いんだよ」
「うっさいわね! チートくらい使えるでしょ! 使えって言ってるの!」
「チートチートって、ぼくが使わなくても他のヒトがチートを使ってくれるじゃないか」
「だったらわたしがチートを使わないであげるからあんたがチートを使いなさいよ」
「ぼくはチートを使わない」
</記録・いつもの口喧嘩の始まり方>
そこから始まった口喧嘩だ。
チートそれ則ち何なのか、ぼくにはよく分らないよ。
「社会に貢献したいけど、ぼくのチートは社会貢献や復興には向いていないんだよ」
「だったら何? 仕事しなくていいっていうの?」
「そんなんじゃないけど…………そんなこと言ってないだろ」
「言ってなくても行動で分かるでしょ! このあんぽんたん!」
そう言って林の方へと向かう彼女は、
「見てなさい! チートっていうのはこう使うの!」
と、「斬!」
これはお見事、という感じで林全体の耐久力をゼロにしてしまった。
なぎ倒された木々は他の作業員の背中を襲ってしまう。
<HP/瀕死>の表示が次々に出た。
//ひとつ言っておこう、このセカイはVRゲームではない。ステータスの表示は常にされているというセカイ法則らしい。誰が決めたのか分からないが、それがセカイの法則だ。
「どう? これこそがチート、分かる?」
「ヒトを巻き込むようなチートはチートとは言わない。それは不正だよ」
「強いチートを使えない弱者は必要ない。今の時代は復興時代、分かる? あ、ごめんなさいね、あんたには分からないでしょ」
彼女とは昔からの縁だが、縁を切りたいくらいに意見が合わない。
ぼくにだけどうしてこんなにもあたりが強いんだ? そんなにぼくのことが好きなのか? 悪いけどぼくは君のことが嫌いだ。
「分からないよ。ぼくは帰る、後始末も君の仕事だ」
林の方から声が聞こえる。
「助けてくれ!」「もう瀕死だ、ポーションを!」「知渡子のバカ!」
叫べるくらい元気なら大丈夫だろう。と、ぼくは彼ら彼女らを無視して帰路へ立つのだった。
「ちょっと、待ちなさいよ! あんたも助けるの手伝いなさいよ!」
ぼくは振り返らなかった。
チートを使えるならチートでみんなを助ければいい。