7話
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ミヤが店に降りてくると、もう二人は揃っていた。
「おぅ!待ってたぞミヤくん」
「岡さん、早いですね」
「はは、でも今さっき来たところだ、だから今からが一杯目だ、揃ったんで、乾杯しよう」
「そうですね」
「乾杯!!」
みんなゴクゴクと、中ジョッキで飲み始める、一気に半分くらいになって、ジョッキから口を離したところで、岡田が話し出す。
「いやぁ、今回のこのピンチは、浩クンの発案と、ミヤくんの貢献で、余裕で乗り切る事が出来た、ホントに感謝しているよ、お二人さん」
「いやいや、たまたまウチの工程に余裕があって、それにたまたまミヤにも余裕が出来ていたんで、タイミング的にも良かったです」
「おかげで、明日の金曜日の作業内容がスカスカになって、困っているんだ、どうしてくれるんだ?ミヤくん?、君のOオペレーターの腕が良すぎて....、はははは!」
「嬉しい事を言ってもらえて、ありがとうございます。なんか、べた褒めみたいで、くすぐったいです」
「いいんだ、その分作業員を、他の忙しい現場に廻せて、そっちからも、感謝されているんだ。大いに助かっている」
うまい酒と、和気が合い、楽しい時間になっていく。
色んな事を話していくうちに、お互いの事を以前よりも、良く分かり合えた。
ココで、岡田が不意な一言を言う。
「ところで浩クン、嫁さんはいるのかい?」
突然の事で、浩二はハッとするが、すぐ答えた。
「まだいません。ちなみに彼女も今はいません」
「....って事は、以前に付き合っていた娘が居たって事かな?」
少し俯き気味になる浩二。
「はい、そうです」
「今 いくつになるのかな?」
「もうすぐ29歳です」
「そうか、もう君くらいなら嫁さんが居てもいいんじゃぁないかな?」
少し寂しそうに。
「そうなんですが、あまり彼女とかは....」
「そうか。何か理由があったんだな、いや、悪いことを聞いてしまったな、スマン」
浩二からの“何か”の雰囲気をを感じ取った岡田が、小さく謝罪した。
「いえいえそんな、もう過去の事ですし、そろそろ自分も変わらなくてはとは思ってはいるんですけど」
「そうか、色々あって、やっと前向きになる事が出来た感じかな?」
「そうならなきゃって、思い始めているところです」
いいタイミングと思い、ミヤが聞いてみる。
「浩さん、実はその事なんですが......」
ミヤが話に入って来るとは思わなかった浩二が、少し意表を突かれた様に、ミヤに言い返す。
「何だ?ミヤ 何か言いにくそうな内容か?そんな感じに見えるが」
(そう.......。言いにくい。全くもって言いにくい。浩さんを好きな女の子が、岡さんの娘さんだなんで....、でも、それでも何とかしたい、なんとか.......。浩さんも、真由も出来ればこの先、幸せになってくれれば.......)
そうミヤが思っていると....。
「「こんばんは~」」
突然カワイイ声二つが店内に響く。
「真由!」
「真由ちゃん!」
岡田と浩二が降りてきた二人を見て声を発した。
ミヤが。
「どうしたんだよ、降りてきて」
ミィが。
「真由が、何か待ちきれなくって、行くっていうもんだから」
と、小声で言う。
「浩さんこんばんは、お父さんココ座っていい?」
と言って岡田の隣に座った。
「真由、そういえば、友達だったなココの娘と」
「うん、そうだよ」
浩二とミヤは、4人掛けのテーブルに隣同士で腰かけているので、岡田の隣が空いていた。
ミィは、そろそろ店に出る時間なので、着替えて来るっと言って、一旦その場を離れた。
△
スローペースで和気あいあいと4人で楽しい時間が過ぎていく。
岡田がまた切り出す。
「浩クン、....で、理想の結婚像ってのはあるんだろう?」
この岡田の発言に、真由がハッとなり、浩二を見つめた。
「ミヤはどうなんだ?ミィちゃんと、結婚の話はそろそろ出ても良いんじゃぁないか?」
「ずるい!浩さん、こっちに振った.....」
「はは、バレたか」
(浩さ~ん、オレたちのことは内緒だって言ってるのにぃ.......(ミヤ))
じぃ~....っと浩二を見つめる真由。
浩二がその真由の目線に気が付いた。
「なに?真由ちゃん」
顔を赤くしながら、慌てて目線をミヤの方に逸らす。
「なんでオレに向くんだよ、真由」
そうしたら、いきなり真由が。
「こここここ....、浩さん....」
「「「???????」」」
「すすすすすす...」
それ以上言葉が出てこない、真由。
「どうしたんだ真由、なんか変だぞ」
と岡田。
「きききききき....」
またおかしくなった真由である。
「おい!真由」
「でででででで....」
「真由ちゃん、とりあえず水飲んで」
と、浩が飲んでいたコップの水を差しだすと、真由は一気に飲み干した。
そして。
「す~~~~~....」
っと、真由が言った瞬間に、えらいことに気づいた。
「こ、これって、浩さんのコココココ、コップですよね?」
「あ!ごめ...、イヤだった?スマン」
「あ、いえいえ、そんな...、ラッキーでしたから....」
「はい!??」
娘の様子に何となく気が付いた岡田が
「何だ?真由、お前、浩クンの事が好きなのか?」
真由の心臓が どっき~ん!!と跳ね上がった。
「お、とととと、とうさん!なななな、なにを言ってるの?」
(何故ストレートに聞いてくる、父よ....(真由)))
真由の顔がさらに赤くなり、目線がキョどる。
そんな仕草に岡田が。
「分かりやすいな真由、何時からだ?」
「そそ、そんな....」
あまりにも見ていられないミィが、しゃしゃり出た。
(いつから居た?)
「もう!観念しなさい。バレバレよ真由!」
「あわわわわわわ.....」
真由が壊れはじめるが、続けてミィが喋り出す。
「えっと.......、かれこれじきに半年くらいは経ちますか....。最初 私に相談してきたのが3か月くらい前です。その頃は、浩さんてカッコいいなぁ....、なんて言っていたのに、さらに半月くらい経ったら......」
「もう許してミィ....」
「だめよ!ココまできたら、もうこの際だから“公開処刑”します」
「ひゃぁぁぁぁぁ~.....!」
真由から悲鳴が上がった。
そんなのは一切見向きもせずに、ミィが浩さんに向かって。
「今では浩さんの事、好きで好きでたまらないんですこの娘。今まででも、それとなく分からなかったですか?浩さん」
暫くあっけに取られていた浩二が口を開く。
「以前はよく話しかけてくる娘だな、とは思ったんだけど、最近は、距離が若干近くなったかな?と思っていたんだ。なので、真由ちゃんの気持ちは なぁんとなく、うん、なぁンとなくだけど、そうかな?....、とは思っていたんだけど」
「ほほう、浩クン、うちの娘の気持ちには、気が付いていたと言う事なんだね」
「そ....、うですね。....は、はい。はっきり言ってそうです」
なるほど、と、納得したように岡田が言う。
「俺も、もうじき25になる女が、今まで彼氏の一人も連れて来ないなんて思っていたんだが、もしかして、男に全く興味がないのかと、心配していたところなんだ」
「私も、大学時代のころには、何度か真由は、男子に告白されていたみたいです。でも、みんな断っているので、おかしいなとは思っていたんです。.....ん?真由!まさか、もしかして、その頃から浩さんの事を.....」
大学時代の事までミィにバラされ、その事で、緊張と羞恥が真由がとうとう失神させた......。
(ブクブクブクブク....、なんて、カニみたいだぞ真由(作))
◇
殆どの客が帰った後、真由が落ち着いたのを見て、ミィが。
「浩さん、こんな真由ですが(どんな?)気持ちを受け取ってもらえませんか?」
「ミィ、岡田さんもいるんだぞ、そんなホントに 公開処刑 みたいな事を.....」
「何なら家内も呼ぼうか?」
岡田が娘をいじる。
「お、お父さぁ~ん.....」
(岡田さん。真由がかわいそうですよ (作))
さらに少し間を置いてから岡田は、真剣に願望の気持ちを込め、愛娘の想いを叶えさせようと、浩二に向き直り。
「浩クンさえ良かったら、ウチの娘の事を考えて欲しんだが、どうかな?」
(あれ?もしかして、キューピットって、岡さん?)
少し考えてから浩二が。
「岡さん。俺の事をそこまで思っていてくれるのは大変ありがたいです。でも俺、30が近いですが....」
「はは、昨今珍しい事ではないだろう。ま、こうして“父親が認めた男”と娘がもしも一緒になってくれれば、それはそれで、俺は安心出来るしな」
「ありがとうございます。そこまで信用してもらい、俺嬉しいです」
「では、まとまったって事で良いのかな?」
(あ!父親がやっぱりキューピットだった)
面持ちがフルフルしている真由を、浩二が見つめると。
「浩さぁ~ん、ホントに私でいいの?」
と、真由が浩二に訊いてきた。
そして、真由の涙腺の表面張力がもたない。
そして浩二が。
「俺オジサンだけど、いいのかな?....、真由ちゃん」
「な.......。そ、そんな事....、ない....、から...」
言葉がうまく出ない真由、しかしちゃんとした告白と、その返事をまだ貰っていない。
「こ、浩さん、ふつつかな私ですが、末永くおね.......」
浩二の人差し指が、真由の唇を塞いだ。その瞬間、真由がまた赤くなる。
「これから先は、俺から言わせて、真由ちゃん!」
浩二は一度深呼吸をして、まっすぐ真由に向かって言い始めた。
「真由ちゃん....、いや、岡田 真由さん、こんなおじさんなオレですが、これからの人生を、俺と一緒に居てください」
真由の涙腺が、決壊した。
「はい!、浩さ...、浩二さん。これから末永くよろしくお願いします」
周りのみんなからは、拍手が起こった。
何かに気づいたミィが
「真由、何かもう結婚する感じに聞こえたけど」
「俺もミィと同じように聞こえたけど、浩さんもですよね」
「あれ?何か俺、急ぎすぎた感があったか?」
「もう、婚約しちゃったような勢いでした」
事の成り行きと全容を見届けた頬が緩みっぱなしの岡田が。
「いやいや、丸く収まって良かった良かった。今の光景を家内に見せたかったよ」
すると、こっそりと、店の入り口から
「ジャ~ン!今の撮ってましたよ、しっかりと!」
と、美沙が出てきた、しかもスマホの録画モードで、決定的な瞬間を記録したみたいだ。
「えぇ!!撮ってたの?今の」
美沙が“てへっ”顔をした。
「いやぁ、入ろうとした瞬間に、面白いことが始まってる感じがしたので、つい....」
「ついかよ...」
ミヤがちょっと呆れた感じで言った。
「美沙ちゃん、それ消して。とってもハズいから」
と、赤面の真由が懇願した。
「でも、真由ねえちゃんの七面相が見れて、うふふ、楽しかったよ、だから、消さなぁ~い」
「美沙、それDVDに焼いて、岡さんにあげてくれ」
「ミヤまで何言うの?信じらんない」
色んなやり取りが進む中、岡田から。
「そうだな、後で家内とゆっくり見たいんで、え~と、美沙ちゃんだっけ、お願いしてもいいかな?」
「あ!初めまして。石仲 美沙って言います。今は大学の3年生です。 はい、出来上がったら、お兄ちゃんに持たせますので、奥さんと、ゆっくり堪能してください」
「はは、ありがとう、お願いするね」
「はい!」
まるで蚊帳の外に居るようだが、この主人公に該当する当人たちの 浩二と真由は。
「あの~...、さっきからそっちばっかり盛り上がってるんですが、この通り、いま真由ちゃんがまた失神しまして、そろそろ許して上げてください。ちなみに、俺もほとんどHPがありません」
店内のみんなが ドッと!笑った。
実は、さっきから真由はテーブルに突っ伏していて、浩二に頭を撫ぜられながら、失神していた。
(ま~うらまやしい........え? うらやましい、ですね(作))
△
真由、ホントに良かったね、やっと願いが叶って。(ミィ&ミヤ)
そうなると......。
『ねぇミヤ。私たちは?これからどうなるの?』
『う!!.......』
『ねぇ.........』
『と、とりあず、週末の公開は、延期にしようミィ...』
『そ....、そうね。さすがにこんな事があった週末はムリよね...』
(またも公開時期を逃す二人であった(作))