4話
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明けて火曜日。
今日は午後から”岡さん”たちの現場に出向いて、クレーン作業をする日だ。
各作業員はそれぞれ作業用に身支度を整え、毎朝恒例のラジオ体操、朝礼を終え、各現場に散っていく。
今日のミヤたちは、午前中は大型ダンプに、砕石を積んで、おなじ作業ヤード内でそれを下ろし、その砕石の敷均しを重機で行う作業だ。
結構な量なので、大型ダンプの運転手も
「こりゃ、午前中に終わらないかもしれないかもな....」
と、不安そうに言う。
「とりあえずやってみましょう。それでも終わらなければ、早い時間に、なにか対策を立てましょう」
そうだ、とりあえずやってみない事には、先の見通しはきかない。
「じゃぁ、お願いします」
といって、作業が開始した。
△
暫くは順調に進んでいたのが、次第に大型ダンプの通り道に、色んな業者から頼まれた、運送会社のトラックが数台荷下ろしをしていて、なかなか思うように進んでいかない。
これでは午後からの”岡さん”達の現場へ行けるのは、いつ頃になるのか心配になってきた。
荷下ろしのための、フォークリフトが多く、ダンプの通り道を時々塞ぐのを見て「もう一台ダンプを増やしましょう」
と、ミヤが浩二に提案した。
「そうだな、たしかウチの4トンダンプが空いてたな、それを使おう」
「そうですね、運転手は季節従業員の浜田さんがいいですね、元トラック運転手だったですし」
「あぁ、そうしよう」
浩二が浜田さんを呼んで、ダンプに乗るように指示をした。
その後、作業は意外と早く済み、砕石運搬作業は11時過ぎには終わった。
午後からはその運んだ砕石を、浩二が均す作業なので、ミヤが空いてくるのだ。
昼までもう少し時間があるので、ミヤは午後からの作業の手伝いをする”岡さん”の作業ヤードを見に行くことにした。
浩二に”岡さん”のところに行って、状況を見てきます、と言って自分たちの現場を離れた。
△
やって来た”岡さん”たちの現場は、10人くらいで一台のフォークリフト使い、一階から二階の荷揚げ用踊り場まで、荷を揚げている最中だった。
現場作業責任者の”岡さん”のところに寄っていき、午後からの作業合流のOKを言い伝えた。
「岡さん、予定通り、オレ午後から来られますんで、よろしくお願いします」
「おぉ、わざわざ言いに来てくれたんだな。ありがとう、午後から頼むぞ」
「はい!」
「あのフォークリフトの隣にある、クレーン付きトラックで頼むが、操作したことはあるのかな?」
「はい、自分も会社にこのようなクレーン付きのトラックがあって、何度も操作はしているので、いけます」
「はは、頼もしいな」
と言った後すぐに
「実はな....」
と、岡 が急に話をしてきた。
ミヤは、一体なんだろうと思ったが、そのまま聞くこ事にした。
「実は、俺の娘の友人に、お前と一緒の名前の友達が居てな、その娘も 雅 っていうんだ、お前も 雅 って同じ漢字だろ?だから、先日あんな風な会話になってしまったんだ」
(あ、そうだったんだ....)
「へぇ、そうなんですか。岡さん 娘さんがいたんですね、しかも、その友人がオレと一緒の名.....って、え?え?えぇ...!!」
「も、もしかして、今更ですが、岡さんって、苗字 ”岡田”さんですか?」
「おう、今更だな。そうだが」
岡田に少し笑われた。
「もしかして、娘さんって、”真由”さんって言います?」
「なんだ、知っているのか。もしかしてミヤくん、うちの娘を狙っているのか?」
「あはは、違います。 オレの彼女の友達なんです」
(あ!言っちゃった....)
「なんだ、あの店屋の娘と付き合っていたのかミヤくん」
「はい、でもあまり広めないでくださいね」
「悪いな、俺、晩酌やっちまうと、忘れるんでな....」
「えぇ...!」
「はは、冗談だ、人の不利になる様な事は、相手が悪者でないかぎりしねえよ」
ホッとするミヤ。
「....ってことは、うちの娘とも親しいのか?」
「はい、彼女経由で....」
「その 雅ちゃんとは結構仲良いみたいなんで、これからも、その彼女と二人でいい付き合いをしてやってくれ」
「いえいえ、こちらこそ真由に.....、真由さんには、雅がすごくお世話になってるんで、よろしくお願いするのは、こっちのほうですよ」
「まさか、こんな繋がりがあるとはなぁ、世間って意外に狭いもんだな」
「そうですね」
(驚いた。真由と岡さんが親子だったなんて。こりゃ、ミィに伝えなきゃ)
ミヤは挨拶を終えて、自分たちの現場に戻ってきた頃には、みんな昼食に入っていた。
◇
午後からは予定通りに、ミヤは岡田たちの作業現場で、滞りなく作業は終了した。
「いやいや、助かった。ミヤくんって、意外にクレーンの操作がうまいんだな、見ていて、とっても安心できた」
「ありがとうございます」
「この分なら。予定よりも早く終わりそうだな、助かるよ」
「どうだ、うちの会社に来ないか?」
「社長に殴られます」
「あ~っはっはっ....、冗談だ、ミヤくんくらいのOPがうちに居てくれたら、そうとう作業が進むがな....」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
そう言いながら、ほかの作業員さんと少し会話をして、打ち解けたところで、解散した。
◇ ◇ ◇
「そんなんで、びっくりだったんだ、今日は....」
「えぇ?、そうなんだ~。 真由のお父さんと、ミヤが今行っている現場の中の職長さんがねぇ...」
「あるんだな、こんな」
「ねぇ...」
恒例ではあるが、いつもの様にミヤとミィは、いつものコンビニのフードコートを喫茶店代わりに使いながら、いつもの時間帯に、たわいもない事を話している。
「そう言えば、真由のお父さんって、職人の親方って言っていたわね、真由の家には良く行ったことはあるけど、2度ほど挨拶したかな、やっぱ外で仕事する人って感じだったよ」
「何か親分肌で、気風が良くって、ハキハキしてて、喋っててやる気を出させてくれる、何かちょっと 浩さん と被るところもあったみたいな感じの人だったな」
「ふぅん、私も喋った時は、背筋がピン!としたもん」
「.....で、流れで、オレ口が滑って、ミィとの事バラしちゃった、スマン」
「えぇ、ダメじゃん! そこから広がっていかないか心配だよ~」
「でも、大丈夫みたい、口は結構堅い感じだし、余計なことは言わない人みたいだから」
「そう、なら安心ね」
「ま!バレてもいいけどな~....」
「いいの?...いいの?...い~のぉ?....」
「な、なんだよ、その眼は。....カワイイけど.....」
「うぅ...。ミヤ またそんな...」
「どうだ、まいったか」
「参りました、フニャ~...」
(ホンっとにミィって可愛いな....)
ミヤは周りに人がいないのを確認して、一瞬で終わるキスをした。
すぐミィの顔が ボン!!と爆発した。
(あぁ~....、ミィ、真っ赤っかだ)
△
コンビニを出て、いつもの様に会話をしながら、手を繋いで帰って行く。
「明日って、店休みなんだよな、ミィ」
「うん」
(まだ顔が赤い?)
「何かする予定があるのか?」
と聞くと。
「明日はハローワークに行こうと思ってるんだ」
「いよいよか。でも大丈夫か? 何か心配になるな」
「うん、でもそろそろ社会復帰をしないと、いつまでも家の手伝いばかりもしていられないし、心配もかけられないし」
「でもオレは....」
「もう、心配ないって。ミヤの気持ちはとぉっても嬉しいんだよ、でも、そろそろ自分で動き始めないとね」
「そうじゃぁなくって...」
「なに?はっきりしないわね、何なの?...」
「ん~........」
「何なのか言いなさい!!」
と言いつつ、ミィがミヤの脇を擽る。
「きゃはは........」
と、くすぐったいながらも。
(そろそろやっぱ決めないとな.......)
「ミィ、やっぱ近いうちに、オレたちの事、皆に公表しよう」
「えっ?」
「みんなにオレたちの事を知ってもらおう」
「なぁんか、この前みたいに今更って感じもするけど、何時かは言わなきゃならないよね」
「「ふぅ.....」」
二人で深いため息を出した。
「じゃぁ、一応の公表予定は、今度の週末で、場所は、”はまちゃん”でいいかな?」
「う...うん、分かった、お店の都合聞いてみる。わたしも覚悟することにしたから」
「よし!そうと決まれば、二人で赤っ恥かこうぜ」
「なに、その超恥ずかしい前提の言い方。もう今から緊張してきたじゃない」
「取りあえず、時間は何時にする?」
「午後9時だとまだ店やってるよな」
「一応聞いてみるけど」
という会話と共に、二人は今さなながら、公表が現実になる事に、緊張な気持ちが湧いてきた。
△
金曜日は稼ぎ時なので、期待はしていなかったが、少し早めに店を終了してもらい、午後9時に、双方の親たちのOKをもらい、その前で打ち明ける事を 一応 決めた。