3話
3
新しい一週間がやって来た。
今週からの業務内容は、先週までと違って、極度な多忙さはなく、結構落ち着いたペースで作業を進める事ができる。
今週から時々ではあるが、午後の業務開始前の現場監督たちと、その現場に入るいろいろな業者間での昼礼に、ミヤたちの会社からは、浩二と職長の他にミヤも暫くの間だが出席する事になった。
その昼礼も、終盤にかかってきていた所で、何か揉め出した。
何故か一人の職長が、監督の一人と言い争いを始めた。
「安全作業が一番だなんて言ってても、あんたたちの事を全部聞いていると、はかどる物も全然はかどらないぞ」(職長)
「そんな事を言われても、他の業者さんは、ちゃんと守ってやってくれているんです」(監督)
「特に、今この多大な荷揚げ作業だって、今週中にしておかないと、来週から入る業者たちが、遊んでしまうんだろ?」
「そうなんです」
「だったら、ここの週間工程表にあるラフター(クレーン車の種類)を、俺たちのために、小型でいいから、もう一台増やしてくれ、なら何とかしてやる」
「とりあえず今週は、各業者順番で時間通りにクレーンを使っているんで、そうはいかないです。それと、もう一台増やすって言われますが、ラフターがアウトリガーを張り出すスペースもありませんし」
(すみません、専門用語で(作))
「4トンのクレーン付きトラックを借りれば幅的には済むことだろ? 荷だって、1つ500kgくらいしかないんだろ?」
「そうも考えましたが、今どこもOPが不足しているらしく、機械はあっても、とても急にOPを頼むわけにはいかないんです」
「それじゃあ、あと2人作業員を増やさせてくれ、それなら何とかフォークリフトと手作業合わせて、今週中に終わらせる。一つの荷を解体すれば、1つづつが20kgになるんだ」
「今週末まで2人だと....、10人工ですか.......」
「何とかなるのか?」
「..........」
「申し訳ありません。それだと赤になるんで、無理です」
「そんなんは、どっかから削ってこい!」
「そ、そんな.....」
「って事は何も変わらないって事だな。じゃあ来週まで荷揚げはかかるな、話は以上だ、俺は現場に戻る」
言い合いをしていた職長が、席を立とうとした時に、浩二が話に割って入る。
「岡さん!」
と、そちらに向かって呼び止めた。(あの職長さん”岡さん”っていうのか)とミヤは思った。
「あ?....、あぁ、浩クンか、どうかしたのか?」
現場事務所を出ようとしていた“岡”だったが、浩二のよ呼びかけに止まった。
「今の話ですが、クレーンのOPが足りないって言いましたよね」
少し不思議そうな顔つきになる“岡”。
「そうだが」
「そう言う事だったら、ウチで良かったら出しましょうか?5トン未満の作業ですよね」
これには監督たちが「おぉ!」と言って声を合わせた。さらに浩二が。
「実は、今週のウチの工程で行くと、半日で3回くらい、計1.5日分の時間なら、なんとかウチは一人クレーンOPを捻出できますよ」
この浩二の意見に、監督側も浩二に視線を集中する。
「ほんとか!浩クン。そりゃ助かるが」
「良ければですが」
「いや、ぜひ頼みたい。でも浩クンが居なくなったら、そっちの現場はどうなるんだい」
「あ!すみません、俺じゃぁないんです。コイツです...、いいよな、ミヤ」
と、浩二はミヤに指をさして言った。
「おっけぃですよ」
ミヤは困った時の業者間の“助け合い”を、浩二が進んで行っている事に、横の繋がりを大切にしている人物という事に、尊敬を払っている。
「コイツは5トン未満の移動式クレーンの資格と、玉掛の資格も持っているんで、役に立てると思います」
これには監督たちも、岡さんも「あぁ、なるほど」 と、合わせて納得したみたいに、声を合わせた。
元請け監督達も、ミヤの仕事振りは十分に知っていて、安心できる人物なのは認識している。
監督たちが。
「浩さん、ホントにありがとうございます、助かります。これで、来週から来る職人たちに合わせられます」
「この 若い衆は?」
と、岡 が改めて聞く。
「石仲 雅 です」
と、軽く自己紹介をすると。
「石仲クンか....。ん?? 雅だって?」
「はい!そうですが...」
「う~ん........」
岡 が何か、考えている様子だ。が、しかし。
「ま、よろしく頼む、浩クン えっと雅クン」
「あ、俺〝ミヤ”でいいすよ」
「じゃぁミヤくん頼んだぞ」
「「はい!」」
と二人で返事して、元請け監督たちはホッとした気分で、昼礼はいつもより長めで終わった。
だが、(何だろうさっきの岡さんの間は....)と、少し疑問が残るミヤだった。
△
実はミヤは、あの”岡さん”と言う職長さんと少し前に、会っていた。
午後の休憩中に、現場の自販機あたりで会話している職人さんたちの中に”岡さん”がいたのだ。
ミヤが用事でその横を通り過ぎようとした時だった。
「おう!若い衆、コーヒー飲んでけ」
と言って、自販機にお金を入れてくれた。
そして。
「遠慮すんな、好きなの押せ」
ミヤは言われるがままに、飲料を購入し、すぐにお礼を言った。
「ありがとうございます。いただきます」
出てきた缶を手に取り、さらに。
「ご馳走様です」
と言って、ちょっとだけそのチームの人たちと会話をした。
少し前に、そんな事があったので、面識は初めてではなかった。
△
昼礼が終わり、話しながら、現場に向かうミヤと浩二。
「.....、そんな事があったんですよ」
と、浩二にミヤが言うと
「あの人、言い方はぶっきらぼうなんだが、結構イイ人なんだよな、おれは結構気に入っている人物の一人だ」
「そうですね、あんな感じの人だから、みんなが付いてきてくれるんですよね」
「そうだな」
と、浩二が言い、さらに。
「明日の午後がまず一回目だぞ」
と言って、ミヤの肩を叩く。
はい、頑張ります。 と言って、午後の作業に取り掛かった。
△
月曜日の作業も予定通り終わり、家路につこうとしていると、ミヤのスマホが鳴った。
『ミヤ、終わった?』
ミィからの、定期通信である。
『うん、今終わった、なに?』
『今日も店来る?』
『行こうかな~、どうしようかな~.....』
『何、その言い方、意地悪ぅ!』
『昨日、あの後、浩さんと真由ってどうなったんだ?』
『スルーしないで!』
『あ!分かった?』
『もう....!』
『後で行くからさ、その事は行ってから聞かせてくれよ』
『うん分かった。じゃぁ気を付けて来てね』
『おっけぃ、それじゃぁ』
なんて、日常の他愛もないやり取りをする二人だった。