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三日坊主の恋文

作者: 朽無鶸

 久々に筆をとる。本当に久々に文章を書いている気がする。君を置いてきたのは四日前。部屋には一人になった。朝布団から出るのは時間ギリギリ。出る時間はいつもより五分程遅い。家に帰るのが億劫になる。仕事を終えても食欲がない。服と靴下を脱いでも洗濯機に持っていけない。汗を流しに風呂には入るがなかなか出てこられない。

 大学生の時一人暮らししていた時期を思い出す。社会人四年目になっても、あの頃から何か変われたとはあまり思えない。変われたと思っていたのに、今はそう思えない。

 いや少しは変われただろうか。あの頃は布団から出るのはトイレと近くのコンビニにご飯を買いに行く時くらい。あの頃は講義には出席なんてほとんどできていなかった。あの頃は帰るも何も家に引きこもっていた。あの頃は二、三日に一食程度しか食べていなかった。あの頃は洗濯もせず同じ服を着回していた。あの頃はシャワーを二時間も垂れ流していた。

 変わったかもしれないが、君がいないと僕はこの程度だ。君を置いてきた時は数週間は何とかなるだろうとも思っていたし、そんなに悲観もしていなかったし、落ち着いて迎えに行くのを楽しみにしていたくらいだ。実際は三日が限界だったようだ。

 三日坊主という言葉があるが、僕はまさにその典型だ。夏休みの予定は計画倒れが当たり前。大掃除は好きでも日々の整理整頓は出来やしない。思いつきで仕事のやり方を変えても次の週にはもう元に戻る。ドライブをしても衝動的に道を決める。僕は間違いなく三日坊主というタイプの人間だし、習慣化ができない自分に弱い人間だ。だからどちらかと言うと家事のような日常的なことは苦に感じるはずの人間であり、一人でいればそれができなくなるのも当然の話だ。

 ところが不思議なことに君が一緒にいてくれている時にそんな気持ちを感じることはない。そして、文章を書いていないのは君が僕の言葉をいつも受け止めてくれるからだろう。良い言葉も。悪い言葉も。本当にありがとう。

 僕は言葉で君を殺すところであった。あの時はどうかしていたというのは簡単ではあるが、僕は君を殺してもおかしくない言葉を受け止めさせてしまった。君が死にたくなるのは僕があの時死ねと言ってしまったからだ。

 だから僕は君が死にたいというのを否定する。死のうとするのを無理矢理止める。あの時の僕が間違っていたと心底理解したからだ。

 それひ僕は君の前では泣くわけにはいかないと心に決めた。泣きたいのはきっと君の方だから。でもなかなかそれを守れずにいる。やはり三日坊主だ。君が死にたいと叫ぶたびどれだけ泣いたんだろうか。人生で最も泣いたのは君が死なせてくれと叫んでいる時だ。死なせてくれと貴方が叫んだだけ僕は泣いた。

 思えば僕はほとんど泣くということがなかった。部活動で最後の大会に負けた時も。自分の嘘が原因で周囲から孤立した時も。悪事が明るみに出て親から怒られた時も。高校の時の彼女と喧嘩した時も。カミソリで腕を切っている時も。薬をオーバードーズした時も。泣けるほどそれらを、彼らを、彼女らを、自分を愛することができなかった。

 だとすれば君との違いは一体何だろうか。正直それを的確に表す言葉が見つからない。だから「好き」とか「愛している」と名付けるしかない。いや、僕はそう名付けたい。振り返ってもこの気持ちは三日坊主にはならず、何年間か続いているような気がする。

 これだけを言うためにまた話が長くなってしまった。本当に僕の悪い癖だ。僕のこの言葉を君は受け止めてくれるだろうか。

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