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前編(毒杯を賜った公爵令嬢)

外は激しい雨が降り、雷が鳴り響くそんな夜。

メガンデルク公爵家に、王家の使いが訪れた。


若き宰相アレクト・シュルデルトと、3人の騎士達である。

メガンデルク公爵夫妻は王家の使いの4人を青い顔で迎え入れる。


客間で夫妻と共に、応対したのが一人娘のエルディシア・メガンデルク公爵令嬢。


美しき銀の髪のこの令嬢は、17歳。宰相アレクトと、騎士達に怖がるでも無く青い瞳で真っすぐに見つめた。


宰相アレクトは公爵夫妻とエルディシアに向かって、


「王家の決定は毒杯です。フォルト王太子殿下の婚約者サミーニャ様を害そうとした罪は大きい。」


エルディシアははっきりとした口調で、


「わたくしは、サミーニャ様を殺そうだなんてした事はありませんわ。再三申し上げておりますのに、証拠もなく毒杯とは…余程、わたくしが邪魔なようね。」


メガンデルク公爵も、


「我が娘を婚約破棄した上に、冤罪で毒杯を賜るとは…私は断じて受け入れませんぞ。」


公爵夫人も、アレクトを睨みつけながら、


「わたくしも、夫と同じ意見ですわ。愛するエルディシアを守るためなら、わたくしは…

王家に反逆する覚悟でございます。」


メガンデルク公爵も頷いて、


「妻の言う通りだ。私達の覚悟は出来ている。領地の兵、全てを集めて…我が娘の為に…」


アレクトはニヤリと笑いながら、


「待って下さいよ。私は貴方達の味方です。」


エルディシアがアレクトに食ってかかる。


「信じられないわ。貴方はフォルト王太子殿下の従兄に当たる王族の血筋…。それなのに、何故、わたくし達の味方なのです?」


「王族の血筋だからこそです。毒杯は…こうしてしまえばいい。」


客間の水槽には銀の魚が優雅に泳いでいた。


そこへ、アレクトは持ってきた毒薬の瓶を取り出し、中身を垂らす。


魚は苦しむ間もなく一瞬にして、浮かび上がった。


アレクトは3人に向かって、


「エルディシア嬢は毒杯を飲んで命を落とした。私達4人はそれを確認した。

貴方達はエルディシア嬢の葬式を上げる事ですね。」


エルディシアは浮かび上がった魚を見つめながら、


「わたくしが死んだ事にするのですね…貴方に何の得があるのです?」


「私の得?勿論、得が無ければ、貴方の命を助けたりはしない。復讐するのでしょう?勿論。」


「ええ。復讐したいわ。」


「それなら、協力しますよ。なんせ、貴方達一族は得意でしょう?変装と言う物が…」


メガンデルク公爵は頷いて、


「七色の変装技術を持つ我が公爵家の事を良くご存じで。先々代の王家の頃は、我が祖父も王家の為に働いたものだった。いつの間にか王家に疎遠にされてしまったが…」


アレクトはメガンデルク公爵に、


「私なら疎遠にしませんがね…役立って貰いますよ。七色の変装技術。

復讐したいなら、協力しますから。私とエルディシア嬢の敵は一緒ですから…。」


エルディシアは、サミーニャ・レストニカ公爵令嬢を害そうとした罪で、毒杯を賜った(ことになった)。

そして、その葬式をメガンデルク公爵家は翌日に執り行った。いかに罪人とはいえ、公爵令嬢。葬式を執り行うのは必要だったのだ。


エルディシアは復讐を誓った。

フォルト王太子に、サミーニャ・レストニカ公爵令嬢に。



元々は、エルディシアがフォルト王太子の婚約者だった。


メガンデルク公爵家は先々代の頃と比べると勢いは衰えてはいるものの、名門で、王太子の婚約者として申し分なかったからだ。


エルディシアは幸せだった。

フォルト王太子は黒髪碧眼の長身でエルディシアより2つ年上。

そして、博識で色々な事を教えてくれた。


王宮の庭を散歩しながら、


「私はこの国を良くしていきたい。だから、色々と父上について勉強しているのだ。

近隣諸国とも上手くやっていけるように、外国語も覚えるのに忙しくて。

良い王になりたい。そのためにもエルディシア。君に支えて貰いたい。」


「解っておりますわ。わたくしも、王妃として先々、フォルト殿下を支えて行きたいと思っております。だから、一生懸命勉強に励みますし、外国語も覚えますわ。」


フォルト王太子はエルディシアの手を優しく取り、その甲に唇を這わす。


エルディシアはフォルト王太子の整った顔に見惚れながら、


「フォルト王太子殿下はまつ毛が長いのですわね。」


「そうか?」


「それにとてもお顔が整っていらっしゃいますわ。」


「母が美人だからな。似たのだろう。この顔も、国王として見栄えがするのなら、大歓迎だがな。不細工な国王よりも、見栄えがする国王の方が国民受けもよいだろう。」


「では、わたくしは如何です?」


「エルディシアは美しい。私にふさわしい王妃になるだろう。」


「嬉しいですわ。」


そんなやりとりの中に、フォルト王太子への恋心を募らせていくエルディシア。

3年間、エルディシアが14歳から17歳までそんな日々が続いたのだが、

急接近してきたサミーニャ・レストニカ公爵令嬢にあっさりとフォルト王太子は乗り変えたのだ。


「エルディシア・メガンデルク公爵令嬢。サミーニャ・レストニカ公爵令嬢を殺害しようとした罪は明白である。よって私はそなたと婚約を破棄して、改めてサミーニャと婚約を結ぶこととする。」


とある夜会ではっきりとフォルト王太子に明言されたエルディシア。


「わたくしはサミーニャ様を殺そうだなんてした覚えはありませんわ。」


「証拠はあるのだ。騎士団が捕まえた者達がエルディシアに命じられたと言っている。」


「なんですって?」


金の髪で目鼻立ちがくっきりした美人のサミーニャがにやりと口端を歪めて笑っている。

はめられた。レストニカ公爵家に陥れられたのだ。


フォルト王太子はエルディシアに、


「残念だよ。エルディシア。そなたには謹慎を申し付ける。」


「あああ、フォルト王太子殿下。わたくしは無実です。信じて下さいませ。」


「聞く耳持たぬな。」


エルディシアは騎士達に拘束されて連れ出された。




自分を信じてくれなかったフォルト王太子が憎い。

あんなに信頼し合って、共にあった3年間は幻だったのか。

恋していたのは自分だけだったのか???


そして、毒杯を宰相アレクトに命じて届けさせるなんて。


エルディシアの心は冷え切った。


フォルト王太子に復讐を誓ったのであった。






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