独り
着替え終わった俺達は、授業をしているテニスコートに向かった。
テニスコートと言ってもグラウンドの隅に2つあるだけなので、ほとんどの生徒はコートの外でボールを打ち合ったり、壁当てをしたりしている。
俺たちはそのクラスメイト達の脇を通って先生のもとに向かう。俺はこの瞬間が大嫌いだ。
「あいつらまた遅刻かよ。 信じらんね〜」
「リサもよくあんな奴らに付き合ってられるよなぁ」
クラスの男共はそうやって口々に批判の声を上げる。 俺に気心の知れた友達がいないというのもあるが、昔からモテ男だったマモルも男子からは敬遠されている。 というよりはむしろ、マモルの方から避けているような気がする。
リサによると、昔、小学校のころはマモルにもちゃんと男友達がいたらしいが、表向きは仲良しの顔をしている彼らも陰ではマモルに嫉妬し、自分の株を下げないようにさりげなく不満を漏らし、そんな不満が根も葉もない噂となって学校中に広がった。噂というものは常に誇張され、悪い噂はどんどん悪くなっていく。噂は何よりも強い。いや、それを簡単に信じてしまう人間が弱いのだろうが、そんな噂によってマモルは耐えがたい攻撃をうけたらしい。
もともと、誇張された噂によってちやほやされていた面もあっただけに、その苦痛は大きかっただろう。
その反動からか中学校ではグレていた期間もあったらしいが、ある時から今のような状態に落ち着いたそうだ。
大勢で群れる不良達の薄っぺらい信頼関係に嫌気がさしたんではないかと、俺は思っている。
…リサも、歓迎はされない。
マモルと一緒にいるだけで、女子にはひがまれ、男子からも「うざいグループ」の一員として冷たい視線を浴びせられるのだ。
リサは容姿もよく普段から陽気な性格だから、それだけにこの冷たい視線が一層痛々しく感じてられてしまう。
それでも、二人がめげたところを俺は見たことがない。 だが俺は違う、この瞬間程気持ちが落ち込む瞬間はない。
―――俺は独りなんだ。
この瞬間ほどそう感じることはない。
俺は臆病だ。ある時を境に人と交わることが怖くなった。怖いから、逃げた。逃げて、逃げ続けた先で二人の友人に出会うことができた。二人とも俺と同じ、孤独を知る者だった。だが実際は少し違った。 独りなのは俺だけだったのだ。