プロローグ
俺は毎日この路地を通っている。
すでに夜も更けたはずだが、いくつもの街灯が路地全体を十分に照らしている。そうやって照らされた路地にはタバコの吸い殻や空き缶、コンビニのビニール袋など数えきれないほどのゴミがいつまでも掃除されずに散乱している。
それらから目をそむけて頭上を見上げても、そこに神秘的な星空などない。あるのは何本もの電線と10にも満たないほどの星が点々と散っているだけだ。
俺は星空が好きだ。別に星座とか星の名前を詳しく知っている訳ではないが、満面の星空は何よりも神秘的で、魅力的だと思う。
以前、小学生だった俺がオーストラリアに行った時に草原に寝っ転がって見上げた星空は最高だった。視野の中には到底おさまり切らないほどに広く、雲ひとつない星空はまさに自然のプラネタリウムそのものだった。
何百もの星がキラキラと輝く中、一瞬小さな赤い光が空を駆け抜けた。
「流れ星だ! きれいだなぁ… 俺初めて見たよ流れ星」
隣に寝っ転がっていたアキラが言った。アキラは小学校時代の俺の親友だ。
俺とアキラは小学校の修学旅行でオーストラリアに来ていた。
「俺も初めてだ… スゲーきれいだったなぁ …けど、流れ星ってあんな早く消えちまうんだな 願い事なんてデキねーじゃん」
俺は少しふてくされて言った。
「…それだけ願いをかなえるのは難しいってことだよ、きっと」
アキラは少し悲しげな表情で、悟ったようにそう言った。アキラは生れつき足が不自由でいつも右足を引きずって歩いている。一生治らないらしい。普段それを気にするような素振りは見せないが、たまにこんな表情になった。
こういうとき、俺はいつも黙ってることにしていた。
二人の間に少しだけ沈黙の時間が流れたが、ひとすじの青い光線がそれをかき消した。
「また流れ星だ! 今度は青っぽかった! いろんな色の流れ星があるんだなぁ…」
「っくそ! 見逃した〜!」
「はははっ、それはしょうがないよ こんなに広い空だもん」
「…よぉし、決めたぞアキラ! どっちが多く流れ星を見れるか勝負だ!」
「…へ?」
「いいから勝負だ! ちゃんと数えとけよ!」
……結局この勝負は10対7で俺の負けだった。
この修学旅行の後、俺達は小学校を卒業しアキラは他の県に引っ越した。ドコの県だったかは覚えてないが、小学生の俺にはまるで別の世界に行ってしまうかのように遠く感じた。それ以来アキラとは会っていない…
「…はぁ」
思わずため息がでる。俺は一体何を思いだしているんだ。こんな昔のことを…
もうアキラと会うことはないってのに……