精霊召喚(2)
話の分割文量の関係で短いですが本日も更新します。
次回はいつも通りに次の土曜日となります。
パリスが天幕外へと飛び出すと、ヒョオは天幕の前で頭を上げ虚空を見つめていた。
『ヒョオ……?』
戸惑い気味に、その背へ彼が声を投げかけた。
けれども、ヒョオからの反応はない。
黙ったまま虚空を見つめるばかり。
ヒョオはマナの揺らぎを感じていた。
どこからその揺らぎ、気配を強く感じるのか。
さわりと風が吹き抜けた。
刹那。ぴくりと身体が跳ねる。
あ。吐息が虚空にとける。
捉えた。
『――パリスよ』
ヒョオが後ろを振り返る。
『なに……?』
真剣さを帯びたヒョオの眼差しに、パリスに緊張が走る。
身構えるためか、身体が強張った気がした。けれども。
『精霊がいる』
それに反し、ヒョオから告げられた言葉はパリスにとっては聞き慣れたもの。
は。と、パリスの口から吐息がこぼれでた。
『……せい、れい……?』
ほるりと強張った身体から力が抜けた。
だが、染み込むようにその言葉の意味を理解したとき。
え、と。パリスは目を見開いた。
『なん、で……精霊が……?』
精霊の森といえども。
なぜ、こんなマナ溜まりが発生している地に精霊がいるのだろう。
マナ溜まりの地に精霊が降り立てば、いくら精霊でもその影響は受けるのに。
唖然とした様子のパリスに、ヒョオが言葉を投げかける。
『……我よりも上の位ゆえに、この地のマナ溜まりも浄化出来るやもしれん』
『上の位ってことは、上位精霊……』
『うむ』
ひとつ頷くヒョオに、パリスはひとりでに納得した。
なるほど。上位精霊ならば、この濃度のマナ溜まりでも影響を受けないのかもしれない。
『パリスよ』
ヒョオが真っ直ぐにパリスを見上げる。
『かの精霊を喚んでみるか?』
『……喚べるの、か?』
パリスに瞳が期待でゆらめく。
喚べるのならば、その精霊に助力を請いたい。
さすれば、この状況も打破出来る。
ヒョオがどうするのかと視線で問いかけてくる。
ごくりと唾を飲み込み、意を決して頷こうとしたとき。
「パリスっ! 何かあったのか?」
パリスの背へ隊長が声を投げかけた。
反射的に彼は振り返り、自分とヒョオとを交互に見やる隊長と目が合った。
ああ、そうだ。まずは隊長に報告だ。
上位精霊に助力を請う判断は自分ではない。
改めて隊長へと向きなおり、パリスは簡単に先程のことを説明する。
「なに、上位精霊が……近くに……?」
「はい。ヒョオが感知したようです」
「そうか」
隊長がちらとパリスの背後へ視線を投じる。
それを受けたヒョオはひょんと尾を振った。
天幕外へと出てきた他の隊員達も、上位精霊という言葉にざわつく。
「それでヒョオ殿は、喚ぶのかと訊いているのだな?」
「はい。助力を請うことが出来るのならば、この状況打破の近道になるのではと思います」
しかと自分を据えるパリスの瞳に、隊長は短く息をつくと。
「頼む」
と、厳かに一言告げた。
パリスは瞠目し、そして。
「ッスっ……!」
隊長へ普段通りの返事をしてしまったことにも気づかず、くるりと勢いよく振り返えった彼の。
『――ヒョオ、頼む』
ヒョオを見やる、パリスのその瞳は力強い光を宿していた。