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もう一度、会いに行ってもいいかな。  作者: 白浜ましろ
第一章 精霊、まっさらな旅のはじまり
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魔物討伐(2)

更新日ではないですが更新します。

今週の土曜日も、通常通りに更新予定です。


この場をお借りしまして。ブクマありがとうございます。


 隊の前方では、ちょうど魔法騎士らが剣を鞘から抜き取り、それを構えたところだった。

 彼らの前を立ち塞ぐのは、鬱蒼と茂る緑。

 否。よく観察をすれば、茂った緑はうなうなとうごめいている。

 それが敵意に気付き、ざわざわと身を振るって騒ぎ出す。

 その中からしゅると伸びるのは、蔓。

 マナを取り込み、魔力許容量を超えてしまった生き物の成れの果て。魔物だ。

 魔物が伸ばした蔓が、剣を構えた魔法騎士達を狙いに定め伸ばしてくる。

 魔物は本能的に命あるものを襲う。

 その、刹那だ。

 剣の柄から伸びるように、剣先へ向かって光が走った。

 光を帯びたそれは淡く発光を始める。

 まるで剣に光の意匠が浮かび上がったようで。

 細かく施された意匠が繊細で美しい。

 静かに明滅を繰り返す光の意匠は、その実、魔法編込師の手により剣に編み込まれた陣の一種だ。

 陣は人が魔法を扱う上で必要なもの。

 魔法騎士らが剣を振り上げた。


「はあっ!」


 裂帛の声と共に振り下ろされた剣から放たれるは、風の刃。

 放たれたそれは鬱蒼と茂る緑を巻き込みながら、森の奥へと消えて行く。

 それが数度繰り返され、すちゃと魔法騎士らが剣を鞘に納めた頃には。

 前方を覆い、緑で塞がれていたものは切払われて拓かれていた。

 これで歩き進めることが出来そうだ。

 だが、これだけでは人はまだ進めない。

 魔力耐性のある魔法騎士らでも、この場に立っているだけで少々きついのだ。

 隊の後方に配置された騎士達がこのまま進めばどうなるかは、考えなくとも誰もがわかること。

 そこで次に出番となるのが。


「いっちょやるッスよ、ヒョオ」


 首に蛇を巻いた男が前へ出る。

 その後に続くように、数名の男達も前へと出た。

 その男達の周りにも、ふよふよと浮かぶ光の粒――下位精霊の姿が幾つ。

 騎士隊に所属する精霊結びの者達だ。

 精霊結びとは、文字通りに精霊と結びを得た者を指す。


『うむ』


 男の呼びかけに応えたのは、彼の首にとぐろを巻く蛇。

 淡紅色の鱗が妖しく光を弾く。

 男が片手を空をかざせば、蛇はちろと舌を出しながら、にょろと男のそれを螺旋を描いて上る。

 頭を上げしばし見はるかす。やがて蛇が顧みて。

 ふよふよと浮かぶ光の粒へそれぞれ視線を投じてから、声なき声で鳴いた。

 瞬間。応えとして、光の粒達が一斉に飛び出した。

 四方に散るようにして飛び去って行く。

 突然だったにも関わらず、精霊結びの者達に慌てた様子はない。

 しゅると男の首に再びとぐろを巻いた蛇を、お疲れさんと男は指先で頭を撫でた。


『うむ』


「では、奥へと進みましょッス」


 後方へと肩越しに振り返って呼びかける。

 それを合図に隊は歩みを再開させた。




   *




 四方へと散らばっていた光の粒達が隊へと戻ってきた。

 各々の結びの者のもとまで舞い戻る。

 明滅を激しく繰り返す様は、まるで頑張ったんだよと訴えているようだ。

 それはあくまで自分の想像だが、あながち間違ってもいないように思える。

 微笑ましい心地を覚えながら、隊長はこっそりと薄く笑った。

 と、そこで隊長はふと気付いた。


「……呼吸が楽になっているな」


 先程よりも深く息が吸える。

 咳き込むこともない。


「やはりすごいな」


 改めて精霊の力のすごさを感じる。


「ッスよね」


「ああ」


 と頷いてから、ん、と首をひねる。


「精霊達が魔力濃度を下げてくれましたから、耐性のない隊長も、もう安心ッスね」


 ねー、と。

 同意を求めるように笑顔を向ける男がいた。

 男の首にとぐろを巻いた蛇がちろと舌を出す。


「パリス、後ろに下がってきていいのか?」


 隊長がちらりと前方の方へ視線を投じる。


「だいじょーぶッスよ。この辺り一体の魔力濃度は、ほぼ正常値になったのを確認していますッスよ」


「そうか」


 ほぼ、ということは、まだ正常値ではないということ。

 だが、騎士隊が行動する分には問題のない値ということで。

 だから、パリスも隊の後方へと下がってきたのだろう。


「魔物は魔法騎士の彼らにまかせておけばだいじょーぶッスっ!」


 魔物はマナの影響で強くなっている。

 魔法を編み込んだ剣は、通常の物理攻撃に加え、魔法攻撃も足される。

 つまり、威力を足された剣の一振りの方が、討伐する上では効率的だ。

 ということである。

 パリスは精霊結びではあるが、魔法騎士ということではない。

 彼は魔法は扱えない。だが、誇りを持った騎士である。


「オレたちは、取り逃がされた魔物を討伐していきましょッス」


 そう意気込み、パリスが鞘から剣を抜き取った。

 彼がちらと視線を滑らせれば、既に隊長を含めた周囲の騎士達も剣を構えていた。

 ならば、自分は目の前のそれに集中すればいいと、パリスは身構えた。




   *




 きしゃああ、と。

 鈍い奇声を上げながら植物型の魔物が飛びかかる。

 パリスの首にとぐろを巻いた蛇――ヒョオがにゅっと頭を上げた。

 瞬間。淡紅色の鱗を舐めるように炎が巻き上がった。

 それはやがて炎蛇となって飛び出して行く。

 ごおと唸りを上げながら魔物へと迫る炎蛇が、くわりとあぎとを開いたかと思えば。

 炎蛇はそのまま魔物を焼き尽くす勢いでそれを飲み込んだ。

 やがて残ったのは、ぷすぷすと焼煙を立ち昇らせる炭だった。

 そして、それがごろりと幾つも。


「……なかなかえげつない光景だな」


 剣を鞘に納めながらこちらへ歩いてくる隊長の声にパリスが振り向いた。

 パリスの隣に立ち並んだ隊長は、ぐるりと周囲を見渡す。


「でも隊長。隊長もなかなかえげつないと思いますッスけどね」


 ちらりとパリスが後方を顧みる。

 転がっているのは、急所を一突きにされた魔物の果てだった。


「急所を突いた方が効率的だ」


「……まあ、そーッスけど」


「それに、一瞬でケリをつけた方が相手も楽だろ」


「うわあ……」


 少々顔を引つらせたパリスを、隊長は不思議そうに眺めた。

 とそこで。ん、まてよ、と。パリスは首をひねった。

 ぐるりと周囲へ視線をめぐらせてから。


「……いやでも、身を焼き焦がされるよりかは、マシか?」


 ぼそりと呟く。

 焼かれる痛苦を堪能しながら果てるか。

 ひと思いに、一撃での一瞬での痛苦で果てるか。

 そのどちらかとなれば。

 パリスがちらと隣の隊長を見やる。

 自分なら一瞬の痛苦を選ぶな。

 ぱちと隊長と目が合った。それが、だろ、と頷いているようで。

 そうですね、とパリスは同意の意で頷き返した。

 そんな通じ合う二人を交互に見やりながら、ヒョオが不思議そうに首を傾げた。


『何を頷き合っておるのだ?』


 ヒョオ――精霊が紡ぐ言葉は、人のそれとは違う。


「なんだって?」


 隊長がパリスへ問う視線を向ける。


「何を頷き合っているのか気になったみたいッスね」


 隊長へとパリスが答えたあと。


『えげつない手段だよなって話してたんだよ』


 それまでとは違った言葉でヒョオへと言葉を返す。

 ちらりとパリスの視線が足元へ向けられ、追うようにヒョオも視線を落した。

 転がる幾つもの炭。

 ヒョオがパリスの顔を見上げる。

 しばし彼を見詰めて。

 ちろちろと舌を出して。


『うむ』


 と、誇らしげに身体を反らした。

 人でいうと、胸を張った感じだ。


『…………いや、な』


『うむ』


 ぐっとさらに身体を反らすヒョオ。

 それはまるで、そう、まるで。


「……褒めろ、と……?」


 パリスとヒョオのやり取りを見ていた隊長が口を挟んだ。

 隊長に精霊の扱う言葉はわからない。

 人と精霊とでは、扱う言葉が違うのだ。

 精霊結びの者達は、精霊と話すために言葉を学ぶ。

 そうでなくとも、精霊という存在を知るために、精霊の言葉を学ぶ者も少なくない。

 だから、精霊の言葉を専門に学べる学科も存在する。

 パリスが精霊の言葉を扱えるのはそのため。

 隊長には精霊の言葉はわからない。

 だが、言葉がわからなくとも表情や動きで、何となく読み取れる場面もあるのだ。

 今のように。


「ええ、そのようッス」


 パリスが苦笑をもらす。


「……まあ、頑張ってはくれたからな」


「……ええ、そうッスね」


 炭がたくさん転がってるけれども。

 何だかちょっと、転がる炭たちに同情しちゃうけれども。

 警戒体制を解いた他の騎士らも、この場に転がるそれに気づき、頬を引つらせている気もけれども。


「……頑張ってくれたもんな」


「……ええ、そうッスよね」


 ぐぐっと。

 人でいうところの胸を張るヒョオ。


「……褒めてやれ、パリス。えげつないけど」


「……ええ、そうッスね。えげつないけど」


 ちらっと。

 期待に満ちた視線をパリスへ向けるヒョオ。

 そっと苦笑混じりのため息を落したパリスは。


『……ありがと、ヒョオ。助かったよ』


 伸ばした指先が、優しく蛇の頭を撫でた。

 ヒョオが嬉しそうに身体を小さく揺らす。

 その気持ちを示すためか、こつんと頭をパリスの指先に小突く。

 ヒョオはとっても幸せそうだった。

 精霊は魂に惹かれるから。

 精霊は惹かれたものに幸せを感じるから。

 だから、精霊は人と己を結ぶ。

 生きる時が違っても、近くに在りたいと思うから。思ってしまうから。

 だから、精霊はもう一度と願ってしまう。

 だから、時に人と精霊は巡る。


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