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第一話 死に戻り一回目



大勢の国民が大通りの両端にずらりと並ぶ。

圧巻な様に、人の隙間がないほど並んでいる。

そうだ。今は遠征からの帰りだ。

王からの勅命で古城に住う竜の討伐を終えたオプライトス王国騎士団の騎士達はオプライトス王国の王都ラティアに帰還。

騎士達は皆、疲労の顔色は残るものの剣を持ち、国を守り、王の命令を成し遂げた誇りと気概に満ちた表情を浮かべている。



だが俺はどこか違和感を覚えた。

これら全てに見覚えのあるような。

それに何かを忘れているような。

悲しみや怒りだけが残り、けれど何に対するものなのか分からない。矛盾した頭と心だけがズキズキし痛みが走っている。



「………あれは、夢?」

「おいアーベル」



馬に揺られながら進んでいると隣の馬から一声名前を呼ばれた。

オプライトス王国騎士団団長フロイド・アルバレスだ。短髪の髪と同じ色の灰色の髭を撫でながら、フロイドはアーベルを紫色の瞳で見て、次に国民を見渡す。



「あ、フロイド騎士団長」

「手を振ってやれ。待ってるぞ」



俺はおずおずといったように手を振る。



「「「おおおおぉぉぉおあああおおぉお!!!」」」



歓声の波が騎士達を叩いた。

全て祝福の言葉だ。

最強の騎士団。

竜殺しの英雄。

今回の遠征は過酷なものだった。

長旅に過酷な旅路。

出来るだけ防ごうともやはり死者も出た。

救えず死んだ仲間を思い出し悲しくなった。

けれど死んだ仲間も生き残った俺たち全員が国の為に闘った。

その結果、国民が喜び認めてくれたなら良かったんだ。



王城の門を潜る。

王城の王の間。

広い部屋に宰相や衛兵が王の玉座の近くで並び立つ。

玉座に座るオプライトス王国国王の横に王女と姫達が立っている。

騎士団全員は床に頭を下げて陛下の言葉を待つ。



「誠に大義である。王国の剣としてよくぞ命を成し遂げ帰還した」

「ハッ。光栄に御座います陛下」

「騎士団全団員へ一人金貨三百枚を褒美として渡す。土地でも家でも好きに使うがいい」

「ハッ! オプライトス王国と陛下の為に剣とこの身を捧げます!」

「「「オプライトス王国万歳! 万歳!」」」



退室側で俺を見て微笑んだエマが見えた気がした。



ーーー



「アーベル副団長! これから団員全員で飲みに行きましょうよ?」

「悪い。先約があるから。気にせず飲みに行ってくれ」



俺は部下の誘いを断って商人区に足を運ぶ。

エマと約束があるんだ。

王城のある王族区から王都の門へ向かって三つの区域目に商人区に飯屋がある。

俺は黒鹿亭と書いた飯屋に入る。

扉を開け中に入り予約した個室の扉を開く。

木造建てで壁板が張られており、四脚の椅子と机が置かれている。プライベートが守られる空間だ。

個室の扉が開きエマと目が合った。



「お待たせ! 待った?」

「今来たところだよ。腹減ってる? 注文頼んでおいたから。お、きた」

「もうペコペコだよ。わぁ、美味しそう!」

「早く食べよっか。ここの飯は美味しいよ。今日は俺の奢り」

「やった!」



エマは変装用にメガネと目深く被った帽子と町娘の衣装に身を包んでいた。




「ねぇ、アル。この服可愛いでしょ?」

「あぁ、かわいいよ」

「ふぇ……っ!?」



顔を真っ赤にし頬に手を当てて照れたエマ。

俺が見惚れてしばらくポーっと見ていたら。

フォークに刺した馬肉をスッと俺に向けてきた。



「アル、あーん♡」

「は、恥ずかしいなもぐもぐ」

「って食べるんじゃん。口膨らんでる〜やぁっ」

「ほ、頬を突くなって」

「良かったね〜、あーんしてくれる彼女ができて」

「あぁ、最高の彼女だよ」

「ふにゃ! まぁ、彼女として当然というか!」



個室は甘々な空気でいっぱいだ。

顔を真っ赤になりつつも嬉しさと幸せがごちゃ混ぜの笑顔を浮かべるエマ。

それが見れただけで俺は幸せで食事が進んだ。



夜の暗い大空の下、人が少なくなった大通りを二人で手を繋いで歩く。

手に熱が入り、もうすぐ冬に入る寒い季節でも暖かく感じる。



「私、こうしてアルと並んで街を歩くのが夢だったんだ」

「夢が叶ったな」

「………アル」

「……ん、どうした? 元気ないな?」

「私達、いつか別れなくちゃいけないのかな?」



震えたか細い声が聞こえた。

エマは王女だ。国民と王族の未来の為に貴族や他国の王太子と政略結婚の話をきていると聞いたことがある。

俺は騎士だ。

この国で騎士は国民から尊重されない。

オプライトス王国は王族区、貴族区、商人区があるくらいだ。つまり、王女であるエマと騎士の俺が結ばれるのは国が認めないと言うだろう。



俺はエマの問いに何も答えられなかった。

二人でこの先どうするか話し合わないといけない。

俺もよく考えないとダメだ。

繋いだ手にギュッと力が入る。

エマが愛おしくて気持ちが高まった。

近道の細道の角を曲がった所でエマの腰に手を回して強く抱き締めた。

エマは心が甘くとろけるような潤んだ瞳を瞑り、俺と口づけをした。

俺はエマの手を取ってまた歩き出した。



城の裏門を潜る。

広大な庭と庭師が整えた美しい花園が辺り一面綺麗に咲き誇る。

ここにきた理由はこの庭に城の中に繋がる隠し通路があるからだ。村娘の格好をしたエマが表門から出ると衛兵に見つかった時とかにバレるから。

メイド服に身を包んだ侍女がエマに一礼して衣服を持ってきた。

エマの傍付きメイドだ。

名前はアンナ。

無愛想でクールな女だ。銀髪の髪に青い瞳。鼻筋の通り鮮やかなピンク色の唇など一つ一つが美しいパーツを持つ。

そしてアンナは俺とエマの関係を知っている数少ない協力者だ。

アンナを信頼し秘密を話せると知っての行動だ。



「エマ様、お帰りなさいませ。衛兵の見回りの時間ですのでこちらに着替えてすぐお戻りください」

「ありがとう、アンナ。じゃあまたね、アル」

「あぁ、またな。おやすみ」



エマが微笑んで手を振るので手を振り返した。

隠し通路に姿を消したのを見届けた。



「この先、ね……」



エマは繊細なんだ。

俺との未来と自分の立場に板挟みされて苦しんでいた。

俺は俺のことで悲しんでくれるエマが大好きだ。

けどもっと好きなのはエマの笑顔だ。

俺はいつも隣で笑ってくれるエマがいてくれればいい。

けどそれを言ってしまったらエマが泣いてしまいそうだから。どうかこの先も笑っていてくれ。



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