ねぇ、母さん
その夜、おれは夢をみた
また昔の夢だった
俺はどうやら小学生、高学年くらいか?の頃だった
夢のくせにやけにリアルな授業を退屈にやりすごして、放課後にサッカーをして、泥んこになって、家に帰る
『ただいまー!』
と勢いよく玄関をあけると
『おかえり!』
と懐かしい声がした
リビングから姿を見せてくれたのは、少し若い姿の母さんだった
懐かしい母さんの明るい声、すこしお茶目なしぐさ、そして甘さ控えめの手作りクッキー
その全てが懐かしくて、愛おしかった
これが夢だと思えない
思いたくない、が正解かもしれない
そこにはまだ小学校に上がったばかりの妹もいた
俺は夢から覚めるまえに、この時間をすこしでも満喫しようと、クッキーをたくさん頬張り、母さんにあれこれと話しかけてはその笑顔を目に焼き付けるのだった
ああ、そうだ、これは夢だ
夢だけど…夢でも母さんに伝えたい事があるんだ…
『ねぇ、母さん』
『ん?なぁに?』
『あのね、母さんにお願いがあるんだ、きいてくれる?』
『あら、そんな改まって、どんなことかしら?お母さん、ドキドキしちゃう』
『あのね…母さん、これから毎年…健康診断に行って欲しいんだ、体調が悪くなくても、絶対に、毎年。俺のお願い、きいてくれる?』
その言葉を言うなり、いつものスマホのアラームに叩き起こされるのだった