薬
俺とルドルフは再びあの店に来ていた。
今度こそ使える情報を手に入れなければいけない。
「いらっしゃいませ。」
昨日と同じ女性が入店と同時に声をかけてくる。
「お待ちしてました。」
明らかに邪な目で俺を見る女性。
「悪いね、こいつが酔っぱらって。」
そう言ってルドルフの肩を掴む。
女性に席まで案内される。
歩き始めてすぐに左手の扉が開く。
そこから出てきた男はこちらをみて固まる。
「タイガさんじゃないですか。」
ルドルフが声を上げ、とっさにタイガが出てきた部屋を見る。
長い黒髪が見え、その向かいにはシオンも座っている。
タイガは扉を閉めて、こちらをにらんだ後どこかに歩いて行った。
席に案内されて、女性に昨日と同じものを頼む。
タイガとシオンと座っていた男はどういう関係なんだ。
大きくため息をついて、女性から水を受け取る。
女性はそのまま俺の横に座る。
「さっきすれ違った人が、昨日言っていた人よ。」
無駄に近くに座る女性をうっとうしく思いながら、水を一口飲む。
女性は俺のコップを凝視しながらさらに距離を詰める。
「そこに座っていた人たちは?」
「頻繁に来るけど、何者なのかはわからないわ。」
「挨拶はしておいた方がいいと思う?」
少し考えた後うなずく女性。
「詳しくは知らないけど、すごい人なんじゃないかしら。」
それを聞いて水を飲み、立ちあがる。
ルドルフも俺に続いて立ちあがろうとしたので、首を横に振る。
少しめまいがしてふらつくが壁に手をついてその席に向かう。
汗をぬぐって扉をノックする。
「シオン、ユウキだけど挨拶できるかな。」
「入ってください。」
シオンの声がして中に入る。
長髪の男はいなくなっており、シオンが1人でいた。
「どうしましたか?」
笑顔で微笑んだシオンを見て急にめまいがする。
「大丈夫ですか?」
心配して近寄ってくるシオン。
その美しい顔を見て、足に力が入る。
手が自然に動き、シオンの肩を掴む。
「あの・・・?」
シオンに襲い掛かるように押し倒す。
「きゃっ!」
シオンから小さな悲鳴が漏れる。
目の前の美少女を目の前にして、頭が真っ白になる。
目を閉じたシオンの顔をひたすら見つめる。
急に体が動かなくなって、吹き飛ばされる。
壁にたたきつけられ、タイガの声が響いた。
「何やってんだ!?」
壁に背中を預けたまま、シオンを見る。
音を聞いたルドルフも駆けつける。
「どうしましたか!?」
タイガがシオンに寄り添って、座らせる。
まだ、体は動かず、ひたすらシオンを見つめる。
「待って。
タイガ。」
タイガがシオンの顔を見てうなずいたシオンを見た。
体の自由が戻り、シオンに近づいていく。
「ユウキさん!」
ルドルフの目を見て首を横に振るシオン。
シオンは両手を広げて俺を受け入れる。
俺の両手はシオンの肩を掴んで再び押し倒す。
シオンが俺を抱きしめた。
急に眠気に襲われそのままシオンの胸で眠りに落ちる。
目が覚めると、遠くに天井が見えた。
上半身を起こして周りを見ると、全裸で腕が縄でベッドに縛られていることに気付く。
「起きましたか?」
格子越しに俺に優しく笑いかけるシオン。
「急に私を襲おうとしたんですよ?」
「俺が?」
信じられないことを言われて納得ができない。
「おそらく、薬でも盛られたんでしょう。」
そう言って、格子をすり抜けてくるシオン。
俺の目の前に立ち止まって、俺を見下ろす。
「だから、ほら・・・」
そう言って、俺の体に触れる。
冷たいシオンの手に触れられて、体がビクついてしまう。
「やめろよ。」
シオンの腕を払いのけると、嬉しそうに笑うシオン。
俺に向けて両手を出す。
急に肩を何かに掴まれたようにベッドに押し付けられ、動けなくなる。
「遠慮しないでいいんですよ。」
そう言って再び体に触れるシオン。
俺の胸に手を置き、ゆっくりと下にずらしていく。
「んんん・・・」
何かに塞がれている口で必死に抗議する。
「何を言っているのかわかりませんよ?」
そう言って微笑んだシオンは薬の影響が顕著に出ている部分を握り優しく刺激を加えていく。
指一本動かせず、目の前の少女への恐怖で叫び声をあげる。
「んんー!!!!!!」
次第に刺激を強くしていくシオンは俺に微笑んだ。
その瞬間、形容しきれない快楽と疲労感に襲われる。
満足そうに笑ったシオンは彼女の手をなめて、再び格子を通り抜けて出ていく。
「また来ますね。」
そう言って扉を開けて出ていくシオンを目で追いながら俺は意識を失った。
目が覚めると、椅子に縛られていた。
「おはようございます。」
目の前に座っているシオン。
「安心してください、今日は服を着せてあげましたよ。」
そう言って微笑んだシオンの背後に3人の男が立つ。
筋肉の目立つ金髪の男と、フードをかぶっている顔の見えない男、そして赤い髪の男。
「あなたは、ギルドから来たみたいですね。」
そう言って立ち上がるシオン。
「俺は旅の商人だ。」
そう言うと金髪の男が歩いてきて俺を殴る。
椅子ごとその場に倒れる。
これくらいの拘束ならすぐにちぎれるはず。
魔力を体に流し、縄を切ろうとする。
「いい考えですが、無駄ですよ。」
そう言いながら俺に向かって手を伸ばしているシオン。
急に椅子が起こされる。
「もう一度聞きます。
あなたはギルドから来たんですよね?」
笑顔で聞くシオンに笑顔で答える。
「ハンカチまだ返してなかったな。」
それを聞いたシオンは男2人を連れて部屋を後にする。
「ちょっと待てよ!
2人になるなら女の子がいい!」
そう叫ぶと、部屋に残った金髪に殴られる。
再び椅子が倒れて視界も横になる。
「これ、椅子固定した方が効率よくない?」
男を挑発する。
少しでも集中する時間が稼げれば魔力で体を強化して逃げ出せるはずだ。
男は何も言わずに椅子を起こす。
顔の痛みに耐えながら、姉のことを思い出す。
今まで関わってきた人たちを頭に浮かべて口を割らないことを心に誓う。
気が付くと口の中は血の味がして、頬はずっと痛みが続いていた。
「ギルドのリーダーは今どこにいるの?」
シオンが俺の肩に手を置いて囁く。
「俺がリーダーだ。」
再び男に殴られる。
固定された椅子は倒れることなく、効率よく俺に苦痛を与える。
「ほら、やっぱりこっちのほうが良いだろ?」
今度は2回殴られる。
うつむくと口から血と唾液が混ざったものが滴る。
唇には力が入らずそれらを口の中にとどめることはできない。
「今日はここまでにしてあげるわ。」
そう言ってシオンが俺を抱きしめると、再び眠気に襲われる。
目が覚めると再びベッドに縛られていた。
すぐそこに置かれていた食料を見て口に運ぶ。
傷跡だらけの口の中に痛みが走る。
痛みをこらえるために拳を強く握り、ベッドを殴りつける。
ベッドは少し音を立てただけで壊れもしない。
苦痛とともに栄養を補給していく。
助けが来るのかもわからない状態で、姉、グレイスやルドルフなどのことだけを頭に残して生き延びようと必死に耐える。
目が覚めると椅子に縛られていた。
目の前には机がありそこに置かれた器には水が張られている。
何が起こるかを理解する。
頭に浮かぶ誰かの面影を必死に思い出そうとしていた。
後ろから歩いてきた男が俺の頭を掴む。
そして水の中に押し込まれる。
縛られた体をできる限り動かして顔を水から出そうとする。
しかし、男の力は強く俺は呼吸ができないまま30秒ほどたって、解放される。
思いっきり息を吸い込み、脳みそに酸素を送る。
だんだんぼやけていく視界にはうれしそうな顔でこちらを見つめるシオンがいた。
もう何日たったのかも忘れてしまった。
永遠のように続く拷問を耐えている。
なぜ俺がここにいるのか、何のためにこの痛みに耐えているのかすらもう思いだせない。
「そろそろ飽きないの?」
シオンが俺の肩を掴んで耳元で問いかける。
爪の亡くなった右手でシオンの手を掴む。
シオンの目を睨み、微笑む。
シオンは奥の部屋からきれいな銀色のナイフをもって現れた。
そのナイフで俺の太ももを刺す。
俺の悲鳴が部屋に響き、シオンはそのナイフを抜いた。
骨すらも軽々と切り裂くナイフをもって俺の身体を切り刻んでいくシオン。
俺が死にかけると、謎の光で俺の傷をいやして再び拷問を始める。
「あなたたちのリーダーはどこにいるの?」
すっかりと雑になってしまった繰り返されてきた質問だが、もう何もわからない。
何も答えずにボーっとしていると
すぐに鋭い痛みが肩に走る。
肩に刺さったナイフをシオンが抜いて、そこから大量の血があふれる。
何度目かもわからない出血多量が原因の気絶。
ベッドで寝ていた俺を起こすシオン。
「起きて!
早く起きて!!」
いつもと違う話し方のシオンに驚いて飛び起きる。
いつものナイフを持っているシオンは慌てている様子だった。
「早く逃げなきゃ!」
そう言って、腕を繋いでいるロープを切った。
すぐにシオンの首を掴み、壁にたたきつける。
「いったい何を企んでいる!?」
涙を流しながらしゃべろうとするシオンはナイフをその場に落とした。
少し手の力を弱めると、咳込んだ後話し始めるシオン。
「急にフードをかぶった男に変な魔法を使われて拷問されていたの!!」
そう言って手についた縄の後を見せるシオン。
「ふざけるな!
お前がやったんだろう!!」
そう言って再び手の力を強める俺の体を叩くシオン。
その力はとても弱く、疲れ切っている俺ですら痛みを感じない。
急に頭痛がしてその場に倒れこむ。
咳込んでうずくまるシオン。
「行くぞ!!」
突然部屋に入ってきたタイガがシオンを抱えていこうとする。
「待って!」
シオンがタイガを止める。
「助けなきゃ!!」
頭痛で頭を抱えている俺を抱えて走り出すタイガ。
窓を蹴破って、外に飛び出す。
すぐに近くの家に飛び込んだタイガは俺とシオンを下ろした。
「ありがと、タイガ。」
泣きながら礼を言うシオン。
頭痛が治まって立ち上がった俺は2人から目を離さずにおぼつかない足取りで距離をとる。
「落ち着いて」
そう言って両手を広げながら近づいてくるシオン。
「大丈夫だから。」
混乱して何もできずにシオンに抱きしめられた俺はそのまま眠りに落ちた。
目が覚めて飛び起きる。
手足が縛られていないことを確認して周りを見る。
2人とも見当たらない、そう思ったがすぐに誰かが俺の体に触れる。
裸のシオンが俺の背中に触れて微笑みかけた。
驚いてベッドから飛び起きる。
シオンは少し悲しそうな顔で呟く。
「覚えていないのね・・・」
シオンのきめ細かな肌は窓から入ってくる光を浴びて、まるで宝石のように輝いていた。
小さな身長と、程よい大きさの胸が筋力を感じさせない細くしなやかな体を彩っていた。
ベッドの上のシーツを手繰り寄せ体を隠したシオンは俺を見つめた。
「私たちは昨日まで何者かにさらわれていたの。
昨日命からがら逃げだしてきたのを覚えていない?」
シーツを体に巻いて立ち上がったシオンは俺に近づいてくる。
窓から差し込む光が、シオンの体のシルエットを映し出す。
混乱した頭で何とか思い出した俺はうなづいた。
ゆっくりと歩いてきたシオンはうなづいた俺を抱きしめて、耳元で囁く。
「今タイガはここにはいないわ。
私達だけよ。
昨日みたいに私達2人だけよ。」
そう言って俺をベッドに座らせたシオンは部屋にあったコップをもってやってくる。
「これでも飲んで落ち着いて。」
手渡されたコップの水を一気に飲み干す。
冷たい水を飲み込むと、突然目が覚めたような気がした。
「もう大丈夫よ。」
そう言いながらコップを俺の手から取って机の上に置くシオン。
「もう大丈夫だから。」
言い聞かせるように呟いたシオンは再び俺を抱きしめた。




