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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
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孤児院

「おはようございます。」


酔いがさめたルドルフに起こされ、目を覚ます。


目をこすって、涙を流していたことに気が付く。


「悲しい夢でも見たのですか?」


「いや、覚えてない・・」


ルドルフの問いに返事をして欠伸をする。


「昨日は何か情報を得られましたか?」


「赤い髪の男が軍関係者らしい。

誰かが酔っぱらってる間に聞いておいたよ。」


俺の皮肉を苦笑いで流すルドルフ。


「この後はどうするんですか?

その男を見張りますか?」


「いや、向こうもそれなりに手練れだった場合見張りに気付く可能性が高い、また、あの店に行くしかないだろう。」


起き上がり、出かける準備をする。


「少し町を見てくるよ。」


ルドルフも立ち上がり、あとをついてくる。


「来なくてもいいのに。」


「一応あなたの面倒を見なきゃいけませんから。」


笑顔のルドルフを連れて、孤児院などが多くある地区へむかう。


少し汚い建物が多い中、ところどころに教会が見えてくる。


ボロボロの教会だが、掃除などはきっちりとされている。


教会の庭に集まり何かをしている子供たち。


その様子を見て村のことを思い出す。


一緒に遊んでいた友達のことも。


「お姉さんのことが心配ですか?」


孤児院の中にいる女の子を見つめていた俺に話しかけるルドルフ。


「まぁ、少しね。」


笑顔を顔に張り付けて振り向く。


「でも、きっとオリ姉なら大丈夫。」


そう言ってルドルフを見て、そのどこかで見た人物を見つける。


「シオン!!」


シオンは両手で野菜が入ったかごをもって歩いていた。


その後ろでは赤い髪の男がさらに多くの荷物をもっている。


「あら、ユウキさん。」


おしとやかに笑ったシオンは荷物を抱えたまま俺とルドルフに会釈をする。


「これはどうも、

ご機嫌いかがですか?」


そう言って頭を下げるルドルフ。


「すまない、ハンカチを借りたままだった。

今はもっていないんだが。」


そう言いながら、シオンの持っている荷物を持ち上げる。


一瞬赤い髪の男が反応したが、害を加えるつもりがないことがわかって何も行動には起こさなかった。


「荷物ありがとうございます。」


そう言って笑顔で後ろの男を見るシオン。


「これどこに持っていくんだ?」


ルドルフは少し男を警戒しながら俺とシオンの会話を聞いている。


「少し先にある孤児院までお願いできますか?」


シオンが先頭を歩き、その横を歩いて行く。


「これは、孤児院用の食べ物?」


微笑んでうなずくシオン。


シオンは孤児院に入っていき、外で待っている俺たちを見てうなずいた。


赤い髪の男が俺の荷物をもって中に入っていく。


そのあとに続くように入っていく。


この男はかなりの整った顔立ちだが、表情が怖い。


さらに、無口なのも相まっているようで、子供は近くには寄ってこない。


一方のルドルフはすぐに子供たちのほうへ向かって行き、杖を使ってダンスをしたりしてすぐに子供たちと仲良くなっていた。


「どうもありがとうございます。」


丁寧にお辞儀をするシオンはルドルフをみて少し笑う。


「タイガ、あなたもあの方のようになれるといいのですけどね。」


そう言って男を見たシオンはルドルフたちのほうへ歩いて行く。


「初めまして、ユウキと申します。」


タイガと2人きりになった俺は挨拶をする。


名前を名乗って手を差し出すが反応しない。


タイガはルドルフへの警戒を緩めずに俺を睨む。


「何者だ。

何が目的でシオン様を狙う。」


「いや、狙ってはいないんですが・・・」


タイガは反応せずにシオンに向かって行く。


シオンがタイガが子供たちに近づきすぎる前に、タイガのほうに向かう。


何かを話した後、2人ともこちらに向かって歩いてくる。


「ここで出会ったのも何かの縁です。

もしよかったらお食事でも?」


絶好のチャンスを捨てるわけにはいかない。


「ぜひご一緒します。」


そう言ったシオンは孤児院の出口に向かって行く。


「ルドルフ!

行くぞ!」


ルドルフは子供たちに何かを言ってこちらに向かってくる。


前を歩く2人の後ろを歩く。


「いいご令嬢ではないですか。

とても面白い方でしたよ。」


そう言った笑顔のルドルフを見て少し不安になる。


できればあのタイガという男の情報を得たい。


今回の食事の目的としては、タイガとルドルフの勝負まで持っていきたいところだ。


シオンは別の孤児院に入っていく。


そこには数人の子供がいた。


「ぜひ、座ってください。」


そう言ってシオンは子供用の小さな椅子をさす。


何とかその椅子に座る俺とルドルフを見て笑う。


「本当に座るなんて変な方たちですね。」


少しづつ子供たちが席に座っていく。


奥から料理を持った女性が歩いてくる。


手伝おうと思い立ち上がろうと足に力を入れると椅子が壊れる。


「ご、ごめんなさい。」


みんなの視線を浴びて一瞬固まってしまった俺はすぐに謝る。


料理を運んでいる女性が少し声を抑えて笑い、シオンは必死に笑いをこらえている。


笑っている女性から料理を受け取って机に置く。


タイガがさらに料理を持ってくる。


手伝おうと手を出すが、よけられてしまう。


「さぁ、皆さん食べましょうか?」


そう言って手を叩くシオン。


タイガは奥から料理の盛られた皿を持ってきて、立ったまま食べる。


子どもが一斉に料理に手を伸ばし、シオンは近くにいた男の子に料理をとってもらってそれを食べ始める。


ルドルフは周囲の子供に料理を取り分けている。


椅子もないから戻りづらいし、料理もとりづらい。


少し気まずそうにルドルフを見ていると、シオンが立ち上がり先ほどまで食べていた料理を俺に差し出す。


「ぜひ食べてください。」


笑顔の彼女から料理を受け取り、机のスプーンを使い口に運ぶ。


少し薄味だが、優しい味がして思わず笑顔になる。


「よかったです。」


そう言ったシオンは一枚皿を女性から受け取り、元の席に戻っていく。


こちらを睨んでいる男と目が合って持っていた料理を差し出す。


一瞬固まったあとどこかに去っていく。


皿の料理を完食したところで、孤児院の庭に座り町を眺める。


「どうでしたか、この町は?」


横に座るシオン。


とても高そうな美しい白いものを身に着けているが、その服が汚れることを気にも留めないシオン。


「きれいだと思うよ。」


シオンは嬉しそうに微笑んだ。


「タイガの態度は許してあげてください。

少し気を張っているんですよ。」


「いえいえ、普通なら、警戒するところだと思いますよ。

とてもいい腕の護衛なのですね。」


シオンはうなずいて、少し離れたところに立っているタイガを見る。


「ええ、私にはもったいないほどの。」


シオンとタイガの目が合ってシオンが手を振る。


タイガは何も反応せずにシオンを見つめていた。


「とても強そうですし、うちのルドルフでも勝てそうにないです。」


「それはそうですよ。

私はあんなにしっかりとした身のこなしはできませんから。」


急に背後から入ってきたルドルフ。


「でも、ルドルフさんみたいに明るくはありませんから。」


そう言ってルドルフに微笑みかけるシオン。


「どうです。

少し手合わせをしているところを子供たちに見してみては?」


向こうで首を横に振るタイガ。


しかし、シオンは笑顔でうなずく。


「いいでしょう。

しかし、子供たちにも見せたいので、あまり全力でやらないでください。」


そう言ってため息をついているタイガに向かって行く。


子どもたちに声をかけ始めるルドルフ。


庭で向かい合う両者。


ルドルフは子供の黄色い声援を浴びて笑顔で手を振り返している。


一方のタイガはいやそうな顔で満面の笑みのシオンを見ている。


「魔法はなしでお願いします。」


2人に聞こえる声で言って、子供たちの近くに行く。


少しの間、互いに向き合って固まった。


最初に仕掛けたのはルドルフだった。


杖でタイガの腹部を一突き。


タイガは杖を左手で受け、右足で上に蹴り上げる。


杖を失ったルドルフは一歩タイガに近づいて足を払う。


バランスを崩し、地面に倒れたタイガは逆立ちの体勢へと移行し、体を回転させながら右足でルドルフに蹴りを放つ。


ルドルフは蹴りを受けつつ、横に飛んで衝撃を逃がす。


今度は立ち上がったタイガが責める。


すぐに距離を詰めて、ルドルフの腹部を右手で殴る。


ルドルフはタイガに対して斜めに立ってその威力を弱める。


タイガはすぐに左手でルドルフにフックを放ち、それを両手で受け止めたルドルフに蹴りを放つ。


タイガはその場から動くことなく、ルドルフを見ていた。


ルドルフは立ち上がると子供たちのほうを向いて手を上げた。


「負けちゃいました。」


子どもたちからの大ブーイングを受けながら笑っているルドルフ。


「さすが、騎士様はお強いですね。」


そう言ってみんなをなだめる女性。


タイガはシオンのほうに歩いて行った。


「あの方、相当強いですよ。

普通にやったら私じゃ勝てません。」


ルドルフが耳元で囁く。


「さすがでした。

子どもの人気ではこちらの圧勝でしたが。」


笑顔でシオンに話しかけるが、タイガは俺を睨んでいた。


「こんな強い護衛をつけているなんて、シオンはいったい何者なの?」


あくまで自然な会話の流れで軽く尋ねる。


「お父様が教会で働いているの。」


何の疑いもなく笑顔で答えてくれるシオン。


後ろで頭を抱えているタイガを見ると、これは言ってはいけないことなのだろう。


「とりあえず、私達はそろそろ行きますね。」


そう言って笑顔でタイガと去っていくシオン。


その2人に続いて孤児院を出る。


「お食事、とても美味しかったです。」


そう言ってお辞儀をしたルドルフは子供たちにまた来る約束をしてから俺とともに小屋に向かう。



「やっと一人か。」


小屋についてため息をつく。


しかも、今のところあのタイガの情報しかないため行き止まりだ。


「とりあえず、今夜またあの店に行くか。」


少しうれしそうな顔のルドルフを見て笑ってから瞑想をして眠りにつく。

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