過去
テントの入口を俺のために抑えるルドルフの横を通って中にはいる。
中には14人ほどの男が立って俺を見ていた。
そしてテントの奥に手を繋いで立っている男女を見つめる。
「久しぶりだな。」
そう言った父親の顔を睨みながら手を大剣に伸ばす。
周りの男たちが武器を手にして、ルドルフは俺をかばうように周りを見る。
「すまないが、出ていてくれ。」
優しい顔で男たちに言った父親を睨みながらその場で固まる。
ルドルフは父の言うことを聞かずにその場にとどまる。
テントの中に4人だけ残って全員が外に出る。
右手で大剣をゆっくりと歩いてくる父親に向けて構える。
港町のギルドで手入れをしてもらったことで、切れ味の増した大剣はテントの屋根を切って父のほうをさす。
「隠していることを話せよ。」
震える手と声を必死に抑えながら言葉を絞り出す。
父は大剣の前に止まり、俺の目を見た。
左手で手記を出して父の前に落とす。
泣きそうな目でこちらを見ている母が目に入り、少し動揺する。
「いったいどういうことだ。
いったいあんたたちは何をしたんだよ!!」
ルドルフは杖を強く握って俺と父を交互に見ていた。
父は俺から目をそらすことなく口を開いた。
「俺たちは、エイコーン教国をつぶさなければいけない。」
そう言った後、しゃがんで手記を拾う。
中を見て驚いた顔をして、母に渡す。
「いったい何を隠してる!
いったいみんなして何を隠してるんだ!?
グレイスの父親に何をした!?」
父親は眉をしかめてこちらに近づいてくる。
「グレイスってあの女の子か?
あの子の父親って、」
そこまで言って勢いよく振り返る。
そして母のほうに走り出し、肩を掴んで何かを囁いた。
母がうなずくと、父は力なく椅子に座り込んだ。
「座って。」
母が悲しそうな声で俺に言う。
大剣を地面に刺して、ダガーを取り出し握りながら椅子に座る。
そのダガーを見た2人はうれしそうな顔をして見つめ合った。
「いいか、今からお前に話せることだけを話す。
信じられないかもしれないが、今から言うことはすべて真実だ。」
そう言って父が真剣な表情で話し始める。
母はルドルフを見てうなずき、ルドルフも俺の横に座る。
「15年前、お前がお母さんのおなかにいた時のことだ。
ある男が村を訪ねてきた。
その男は不気味な長髪を揺らしながら現れて、俺の大切な人を殺したんだ。」
母の顔が怒りと苦痛で歪む。
「そして、ある提案を俺にした。
しばらくした後、俺がその男の計画を邪魔する、もし邪魔できたら俺の大切な人達を生き返らせてくれると。
しかし、もし失敗したら、この世界を滅ぼす。」
言っている意味が分からない。
「世界を滅ぼすってどういうことだよ!
第一そんなのできるわけないじゃないか!」
机をたたきながら叫ぶ。
しかし、父の顔は真剣そのものでふざけている様子はなかった。
「来る途中にティアさんにあっただろう。
あの人は昔俺をかばって死んだんだ。」
「かばって?
あんたが殺したんだろう!
あんたは女神のうち2人を殺してそしてエマさんの父親を殺したんだろ!!」
父親が机をたたき静かにつぶやく。
「その人たちが俺のせいで亡くなったことは事実だが。
ティアさんは・・・・ティアさんは俺が殺したわけじゃない。」
拳を強く握りながら言った父の背中に手を置いて何かをつぶやくと父が立ち上がりテントから出ていく。
母が父の代わりに話し始める。
「私たちは旅をしていたの。
私と、その3人の女神、そしてお父さんの5人で。
長髪の男は女神のうちの1人の命を狙っていた。
そしてその男は人の心を操る力を持っていた。
その力でエマちゃんのお父さんを操って私達と戦わせた、そしてその戦いに巻き込まれてティアは命を落としたの。
その戦いでエマちゃんのお父さんを殺したお父さんは、その長髪の男に操られてもう一人の女神と言われている女性、ミキちゃんを殺したの。」
「そんな力あるわけないだろう!
魔法で人の心を操るなんて!!!!」
母は目をつむり動揺する俺に言った。
「魔法じゃないの。
異なる世界の力よ。」
「異なる世界?
何言って?」
体から力が抜けて、椅子の背にもたれる。
「お父さんが魔法を使えないのは、他の世界から来たから。
そして、あなたが魔法を使えないのはお父さんの血を引いているからなの。」
怒りと混乱でめまいがする。
怒りを吐き出そうと口を開けるが、何も言えずに口を開けたまま固まってしまう。
「な、なんで。」
やっとの思いで絞り出した言葉も何に対しての言葉なのかはわからない。
「なんで、なんで言ってくれなかったんだよ!
よくわからないけど、俺は家族一緒にいたかった!」
何も考えられない俺から飛び出したのは心の奥底にあった願望だった。
「なんで置いて行ったんだよ。」
母を見つめる、泣きそうな顔で俺の顔を見ている母は立ち上がって近づいてくる。
「ごめんなさい。」
そう呟いて俺を抱きしめた。
久しぶりの母の感触にこらえていた涙があふれ出る。
「私たちはあなただけはこのことを知らずに生きてほしかったの。
あなたは私たちの希望だから。」
俺の鳴き声を聞いたのか父親がテントに帰ってくる。
座ったまま母の腹部にうずめていた顔を離して父を見る。
「じゃあ、グレイスはグレイスの父親は。」
「知ってるよ。
この大剣の持ち主だろう。」
そう言って刺さっていた大剣に手を当てる。
「自分たちはこの人の馬車に乗って移動していたんだ。
それがあるとき急に俺たちを裏切って攻撃してきた。
長髪の男に操られていたんだ。」
そう言って俺を見る。
「確かに自分たちはその人の家族を村に住まわせた。
それは自分たちが家族を奪ってしまったからだ、あのまま町で暮らすことはできないと思ったのと、その男から守りたかったから町に来てもらったんだ。」
なぜか妙に説得力のある父の話を聞いて言葉が出なくなりその場にうつ向く。
「今日は疲れていると思いますので・・・」
ルドルフが立ち上がり、沈黙を壊す。
父は何も言わずにうなずいて、ルドルフが俺をテントから連れ出す。
テントを出てすぐに母の泣き声が外に漏れだす。
遠く離れたテントに案内されて、中に入ったとたんに倒れこむ。
「どこまで知ってたの。」
「エイコーン教国を倒さなければ世界を滅ぼすということしか・・・」
「なんでそんな話を信じたの。」
「その男は、私の家族の仇ですから。」
とっさに振り返る。
「家族は助けてもらったって・・・」
ルドルフを見つめる俺に微笑んだルドルフ。
「助かったのは私だけでした。
妻と2人の子供は目の前で、その男に殺されました。
見えない何かに押さえつけられて動けない私の目の前で何かに握りつぶされるように。
最後まで子供を怖がらせないように笑っていた妻の笑顔を私はいまだに覚えています。」
あまりにも多くのことを聞きすぎて、頭がおかしくなってしまいそうだ。
笑顔のルドルフに何も言えずにそのまま寝てしまった。
「起きてください。」
そう言って肩をゆするルドルフ。
「食事にしましょう。」
聞いた話のせいか、寝起きのせいかボーっとしている頭。
目をこすりながらうなずいて外に出る。
テントの外には両親が立って待っていた。
「おはよう。」
いつもの優しい顔で俺を迎える両親。
なんといえばいいのかわからずにうつむく。
ルドルフが俺の背中を押す。
俺の手を掴んだ母は、焚き木の近くまで俺を連れていき、家族3人並んで食事をとる。
「オリ姉は、どこまで知ってるの」
左に座った父が手を止めてつぶやく。
「すべてだ。」
「いつここに来るの。」
「わからない。」
短く冷たい声で返事をする父をの声を聞きたくなくて、何も言わずに食事を続けた。
その日はそのまま母にもたれて寝てしまった
翌朝、焚き木が消えてしまい寒さに身を震わせ目を覚ます。
母の手が膝に乗った俺の頭を撫でていて、その心地よさに少しの間動けずにいた。
「おはよう。」
久しぶりに聞く母の優しい声。
体を起こしてうなずく。
「それで、何すればいいの。」
燃え尽きてしまった木の後を見ながら母に問いかけた。
「そんなことより」
母はそう言って元気よく立ち上がると俺の腕を掴み、原っぱに連れていく。
「どれだけ成長したか、お母さんに見して。」
そう言って構える母。
目を閉じて深く息を吸って俺も構える。
ルドルフと父が歩いてやってくる。
ゆっくりと目を開け、目の前の母を見る。
左足で地面を蹴って一歩で母に近づき、右脚で体を止めて左足で母のおなかに蹴りを入れる。
母は両手を体の前に交差してその蹴りを受ける。
蹴りの勢いを逃がすように後ろに飛んだ母、右脚で地面を蹴って再び距離を詰めて、着地する母の足を払い、その場に倒れた母の顔に拳を下ろす。
寸前で拳を止めた俺を見て固まる母。
自分自身でも何が起こっているのかわかっていない。
「いつの間にそんなに強くなったの?」
母が俺を見上げながら口にした。
ルドルフを見る。
口を開けて俺を見ているルドルフ。
俺の身体に何が起こっているんだ。




