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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
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秘密

あまり動けない体のまま馬車にのせられ村へと向かう。


馬車を御するのはエマさん、馬車のに座る俺の横には姉が陣取っていた。


グレイスと姉はケンカをしたようでいつもよりも雰囲気が悪い。


どうにかしろよと思いルドルフを見るが目を合わせる気が無いようだ。


姉妹は泣き疲れたのか時々鼻をすする音が聞こえるのみで何かを話すことはない。


1人もしゃべることなく村に向かっていく。


夜になるとルドルフとエマさんが交代する。


エマさんはすごい雰囲気の馬車を見て一瞬顔をしかめたがすぐに眠りについてしまう。


喉が渇き、いつもの癖でグレイスに頼む。


「グレイス、水を」


鋭い眼光でグレイスを睨む姉と、そんな姉のことは気にもせずに魔法で水を作り出すグレイス。


「2人とも、もう少し仲良くできないの??」


あまりの気まずさに口を出してしまう。


姉に睨まれて体がすくむが続ける。


「これからは一緒に住むんだからもう少し・・・」


姉に手を叩かれて口を閉じる。


時々休憩をはさみながら村へと向かっていった。


ギゼルの町によることなく村へと向かっていく。


もうすぐ村に着くところまで来ると、すぐ近くの川辺で夜まで過ごすことになった。


「エマさん、少しいいですか?」


1人で川辺に座っているエマさんに話しかける。


「どうかしましたか。」


「明日の朝、グレイスの親のところまで謝罪に行きたいと思っているんです。」


「やめといた方がいいと思いますよ。」


グレイスに預けてある大剣を遠目に見ているエマさんから予想外の回答が返ってくる。


「今回のことは、誰にも言わないことが最善だと思われます。

特にあの子もそれを望んでいないのでしょう?」


おそらくグレイスは目立ちたくないというだろう。


「あの村で起きていたことを聞きました。

村の人の行いを正当化する気はないのですが、人間である以上仕方ないことでしょう。

しかし、彼女はあの村にいた女性のようになってしまう恐怖を抱えて村で生きていきたいとは思えません。」


グレイスを横目で見て拳を強く握る。


「あの村はもともとゲルの街から追い出された犯罪歴のある人たちが興した村です。

そういう意味では少し村人たちが罪を犯すことに対して抵抗がなかったのかもしれません。


そう言って立ち上がるエマさん。


「あなたが罪悪感を感じていることもわかっていますが、今はあなたが満足できるかより彼女の気持ちについて考えたほうが良いと思います。」


そう言い残して去っていく。


ため息をついてその場に寝ころぶ。


グレイスの気持ち・・・


グレイスが好意を持ってくれているのはわかっているが、自分の気持ちはわからない。


寝転がって空に浮く雲を見ていると誰かが近寄ってくる。


「あの、少し話せる?」


大剣を両手で抱えるグレイスが覗き込んでくる。


座りなおして、グレイスのほうを向く。


「どうしたの。」


大剣を置いてその場に座ったグレイスは不安そうな顔でこちらを見ていた。


「ユウキはいつかまた村を出ていくの?

また、私を置いて行くの?」


「ん?」


「今回みたいに、また勝手に村を出ていこうとしたりしない?」


「さぁ・・どうだろ。」


これから先のことはよくわからないまま石を拾って握る。


「それなりに強いって思ってたけど、実力不足って現実を突きつけられたからね。

もう少しでグレイスを守れずに死ぬところだったし。」


グレイスがうつむく。


「しばらくは何も考えられないかな・・・」


グレイスに手を握られる。


「私がユウキの足を引っ張ってばかりだったから・・・」


うつむいているグレイスの頭を撫でて微笑みかける。


「そんなことないよ。」


そう言って反対側を向く。


グレイスは俺の背中の傷を撫で始める。


「痛む・・・?」


「少しな。」


背中越しに答え、足を水につける。


冷たい水が少し痛みを和らげてくれるような気がした。


グレイスは背後から抱き着き、頭を彼女の脚まで引き寄せる。


グレイスの脚を枕にして寝ころび、上を見上げると泣きそうな顔があった。


「せっかくの美人が台無しだぞ。」


「うるさい・・」


腕に力が入れて俺を強く脚に押し付けるグレイス。


「死んじゃうかと思った・・・」


「俺もそう思ったよ。」


少し笑ってグレイスの手を取る。


「約束して、もう置いて行かないって。

どんなに辛くても危なくてもいいから、私を連れていくって。」


何も言えずにグレイスの手を握っていた。



エマさんに起こされて起き上がる。


辺りはすっかり暗くなっていてルドルフの杖にもたれて寝ていたグレイスを起こす。


「あなたは変なところでお父さんに似ていますね。」


そう困ったような笑顔で言って歩いて行くエマさん。


グレイスが立ち上がり頭を下げる。


「ルドルフさん、杖ありがとうございました。」


「いえいえ、紳士のたしなみですから。」


赤と白に包まれたルドルフ、その格好に黒い杖は浮いているような気が・・・


エマさんは馬車に乗って町へと帰っていく。


残りの全員で立ち上がって村に向かう。


少し震えるグレイスの手を握って人に気付かれないように家に向かう。


6人はさすがに暮らせない・・・


「どうしようか?」


不機嫌な姉に話しかける。


姉は不機嫌になるとすぐ顔に出るのでわかりやすい。


眼つきが悪くなっていつも以上に無口になるのだ。


「私は違うお宅に泊まりますよ。」


そう言って何も聞かずに出ていったルドルフ。


正直安心した。


何も言わない姉の代わりに決めていく。


「マヤとベラは悪いけど両親の部屋を使ってもらおう。

グレイスは俺の部屋でいいだろ?」


無反応だった姉がこちらをにらむ。


「あなたは私の部屋で寝なさい。」


そう命令して部屋に帰っていく姉。


「オリ姉の部屋、床に寝るスペースないじゃん!」


抗議の叫びは無視されて部屋に入ってしまった姉。


ため息をついてグレイスを連れて両親の部屋に姉妹を案内する。


「ここで寝てくれ。

一応カギは閉まるから、不安だったら使ってくれ。」


うつろな目のベラが礼を述べる。


少し2人と話したそうなグレイスを残し1人部屋を出る。


姉の部屋はあまり好きじゃない。


きたないわけではないが、大量の本があり居心地が悪い。


中にはとても貴重なものもあるようで、昔触っていたところを父に怒られたこともある。


そんなことを考えていると、涙を浮かべたグレイスが出てくる。


「部屋に案内するよ。」


グレイスの手を引いて部屋に向かう。


「中にあるものは自由に使っていいから。」


そう言いながら扉を開けてグレイスを通す。


ついでに着替えなどを用意する。


おそらく縁側で寝ることになるだろうから、この部屋に帰ってこなくてもいいように少し多めの着替えを用意していると、部屋の真ん中で立ち尽くすグレイス。


「そこのベッドなら、好きに使ってくれていいから。」


そう言って荷物をもって出ていこうとする。


グレイスはベッドに倒れこんで深呼吸をする。


「多分すぐそこで寝てると思うから、なんかあったら呼びに来て。」


そう言って部屋を出ようとすると急に腕を掴まれてベッドに引きずり込まれる。


持っていた着替えは部屋の中に散らばってしまい、グレイスは俺の着ている服を掴み馬乗りになる。


「グレイス・・・?」


話しかけるが聞いている様子はない。


来ている服の裾を掴み脱がそうとしてくるグレイス。


「ちょっ・・・落ち着いて、グレイス!!」


何とか抵抗するもグレイスは笑顔で呟く。


「ただのマッサージだから。」


そして肩を掴み強制的にうつぶせにさせられる。


「ちょ、グレイス、力強いし。」


グレイスは服の裾を引っ張り上げて傷だらけの背中を露呈させた。


「マッサージだけ。」


グレイスは小さな声で囁くが、すでにズボンを脱がそうとしている。


「それは、マッサージ、関係、ないっ!」


何とかズボンを掴んで下ろさせないように抵抗するとグレイスは体を倒して密着させる。


いつの間にか何も身に着けてないグレイスの体温が直に伝わる。


グレイスは首筋に甘噛みをして、吐息を耳に吹きかける。


少しづつ息が上がっていくグレイス。


「ちょっと、グレイス、シャレにならないって!」


魔力を使って体を強化し、ベッドに手をついて起き上がろうとする。


しかし、腕に激痛が走り思わず声を上げる。


「いっ」


そのままベッドに力尽きるように落ちると、グレイスは一度降りて痛みに悶える俺を仰向けにする。


そして、再び馬乗りになって顔を近づけてくる。


息があらく熱っぽいグレイスは俺の顔を掴み無理やり唇を奪う。


急に殺気を感じてグレイスが息継ぎのために顔を話したタイミングで扉を見るとスカートに着替えた姉が立っていた。


「こ、これは違」


釈明の途中で再びグレイスに唇を奪われる。


「んんっんんんんん」


何とか話そうとするも攻めてくる舌がそれを許さない。


姉が魔法で作り上げた水が2人を閉じ込める。


突然のことに驚いてもがくグレイスともうすでにおぼれかけている俺。


必死に水から出ようとしてもがくが遠くなっていく意識。


床に落ちた衝撃で目が覚める。


何度も呼吸をして、体中に酸素をいきわたらせる。


グレイスを見ると同じように息をしている。


びしょ濡れになってしまった姉が俺を掴み引っ張っていく。


姉の部屋に連れ込まれベッドに投げ込まれる。


恐ろしい姉の顔に何も言えずに震えていると、姉はすぐに部屋を出ていった。


少しして両手で俺の着替えを抱えて帰ってきた姉は着替えを近くのタンスの上に置いてこちらを睨む。


「あの人が家にいる限り、部屋には決して入らないでください。」


「はい」


姉の放つオーラで肯定しかできなかった俺はベッドに腰を掛けて床だけを見つめていた。


「早く寝なさい。

怪我人なんだから。」


いつもの声に戻った姉がうつむいている俺に声をかける。


これはバツとして床で寝ろってことなのか・・・


何も言わずに床に座り、寝転がる。


「何してるの?」


姉に声をかけられて上を向くと、スカートの中に目が行ってしまう。


それに気づいてとっさにスカートを抑える姉。


「あ・・・あの・・・ごめんなさい」


立ち上がりながら謝るが真っ赤な顔の姉にびんたされベッドに倒れこむ。


「早く寝なさい!!」


今度は姉の怒鳴り声が響き、ベッドの隅に隠れるように寝て目をつむる。




何かが体の上に乗っていて、その重さで目が覚める。


真っ暗な部屋で横を向くと、薄着の姉が寝ている。


心臓が口から飛び出るかと錯覚するほどの衝撃に襲われるが、すぐに口を手で塞ぎ声を出さないようにする。


目の前で寝ている姉はとても綺麗でつい髪を撫でる。


姉の瞳からは涙が流れていて、涙の跡を手で拭う。


細くきれいな姉の手は俺の右手を掴んで離さない。


こんなにか弱く見える女性が俺よりも強いんだから、魔法の才能は残酷だ。


少し目を下にやると、姉の着ている少し大きめなはずの服が豊満な姉の胸に押され、胸の部分だけが少し窮屈そうに見える。


「何見てるの?」


急に聞こえた姉の声に驚いて飛び起きる。


「いや、その、やっぱり床で寝るよ。」


そう言って立ち上がろうとすると、姉は掴んでいる右手を引き寄せた。


バランスを崩して、姉に覆いかぶさるように倒れる。


姉の顔が目の前にあり、つい生唾を飲んでしまう。


姉は両手で俺の頭を掴みそのまま抱き寄せた。


柔らかいものに挟まれ息ができなくなる。


「んんんん?」


しゃべろうとするが言葉にならなかった。


「もう、どこにもいかないで。」


そう言って手を離した姉はすぐに右手を掴み寝たふりをする。


姉に手を掴まれて動けないので先ほどの場所に戻り、姉の顔を見つめる。


何かを隠している姉だが、俺を心配して駆けつけてくれた。


しかし、姉やエマさんたちが隠していることとはおそらくあの手記に書かれていたことと何か関係が・・・


姉だけならともかく、なぜエマさんが父のことをかばうのだろう。


姉の顔を見つめながら考えているとうっすらと目を開けた姉と目があい、再び姉の胸に引き込まれる。


「もう寝る時間よ。」


姉の鼓動を聞きながら、目をつむった。




「起きて、もう朝よ。」


優しい姉の声が聞こえ、声がしたほうを見る。


姉の顔と胸が目の前にあり、驚いて飛び起きる。


「あ、いや、これは。」


寝ぼけていて何一つ言い訳が浮かばずただテンパる。


そんな俺を見て笑った姉。


「着替えるから出ていきなさい。」


と大人っぽく笑う。


「は、はい」


気の抜けた返事をして部屋を飛び出る。


久しぶりに村で迎える朝。


縁側に立って日差しを浴びながら欠伸をする。


「おはようございますぅ」


いつの間にか後ろに立っていたルドルフが挨拶をする。


「よく寝れましたかぁ?」


「今日は変な格好じゃないんだな。」


普通の恰好のルドルフに少し皮肉を言う。


「目立つ格好をするときは子供と遊ぶときですからぁ」


そう言って外に出るルドルフ。


振り返ると、姉がこっちに向かって歩いてきていた。


昨日の泣きそうな姉を見て決めた・


たとえ、何かを隠していても、たった1人の姉なのだから信じるしかない。


「いい天気ね。」


外を見てそう呟いた姉の手を握り晴れ渡る空を見て答える。


「本当にね。」

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