表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
88/127

オリビア

村長の家に着くと家の前で暗い表情のグレイスがいた。


こっちに気付いて駆け寄ってきてそのまま抱き着いてくるグレイス。


目からは涙があふれている。


抱きしめ返すが時間がないのですぐにグレイスを体から離す。


家の中に入り泣いている2人に声をかける。


「こんな状況になってすまないが、今すぐに決めてくれ。

今からここにギルドから派遣された傭兵がやってくる。

その2人に保護してもらうこともできる。

もしくは、俺たちと一緒に旅に来ることもできる。

追い詰めるようで申し訳ないが今すぐに決めてくれ。」


マヤが涙がこぼれている目でこちらをにらんだ。


「なぜあなたたちについて行くと?」


「それがナディアさんからの頼みだからだ。

君たちのことを頼まれた。」


そう一言だけ言って振り返って


「来たければ来ると良い。」


歩き始める。


グレイスは少しためらって彼女たちを見た後に歩き始めた。


泣きながら歩くグレイスの手を掴み両親の冷たくなった体を抱えている2人。


グレイスとの2人旅が再開しようとしていた時、村の周りに無数にある気配に気が付く。


「グレイス!

悲鳴を上げろ!!」


とっさに叫ぶ。


一瞬戸惑ったグレイスが高く響く金切り声を上げた。


村の周りの気配が音に向かって歩き始める。


グレイスの手を引き再び村長に家に入る。


「悪い。

やっぱり今連れていく。」


身体を魔力で強化して2人を抱える。


泣きながら暴れる2人を無視しながら外に出る。


生気のない多くの人々がこちらに向かって歩いている。


そのうちの1体が炎を放つ。


その炎をよけて体勢を整える


悲鳴を聞いたギルドの2人が駆けつけて、こちらに向かってくる。


「行くぞ!」


その場で叫びすぐに走り始める。


生気のない人々から続々と魔法が放たれる。


その中には炎だけではなく水、土魔法なども含まれている。


「ゲルの街まで走れ!」


グレイスに叫ぶ。


抱えている2人は恐怖で固まっている。


2人組の傭兵は周囲にいた人々を蹴散らしこちらに向かってくる。


グレイスが付いてきていることを確認しながら走る。


前からくる魔法を背中で受ける。


「2人とも走れる!?」


叫ぶが返事が返ってこない。


このままじゃ逃げきれない。


振り向くとグレイスはもう息が上がってきている。


あきらめて足を止める。


2人を下ろして、周りを見渡す。


「グレイス、土の壁を作って3人で入ってろ。

できる限りこっちに来ないように戦うが、もしやつらが来たら何とか逃げるか倒してくれ。」


グレイスの返事を聞かずにとびだす。


前から歩いてくる3体を大剣で薙ぎ払う。


後ろから飛んでくる魔法を体で受ける。


熱風に包まれるがすぐに魔法を撃ってきた男のほうに飛び出し大剣で真っ二つにする。


遠くでは傭兵2人組はより多くの敵に囲まれている。


大剣を肩にのせて傭兵のほうに走る。


男が近づいてくる敵を持っている剣で切っていく。


女はナイフで攻撃をしていくが男よりも力がないのか少し押され気味だった。


近くにあった家の屋根に飛び乗りそこから高く飛び上がる。


女の後ろに着地して大剣で敵を3体薙ぎ払う。


女が振り返りつつ蹴りを放ってくるがそれを掴んで受け止めて、先ほど土台にした家に向かって投げる。


女は屋根に体を強くたたきつけられる。


男は前にいた2体を斬ったあと振り返りこちらに突きを放つ。


それをしゃがんでよけ、女のほうに走る。


男は掴みかかってきた敵を斬って後を追ってくる。


女を掴んで、5体の敵が群がっているグレイスの土の壁まで走る。


「グレイス!

しゃがめー!!!!」


全力で叫び、女を鎧の男のほうに頬り投げ、大剣を両手で持って体を回転させながら土の壁ごと斬る。


すぐに斬りかかってきた男の剣を受け止めて、距離をとる。


「状況が分からないのか!?

今は協力しろ!!」


男は聞く耳を持たずに斬りかかってくる。


「うるさい!

誘拐犯め!!」


話がこじれているようだが、今は説明する時間がない。


もう一度斬りかかってきた男の腹を蹴るが、鎧がありあまり効果がない。


男の鎧を掴み後ろから襲い掛かってきた敵に投げつける。


男の下敷きになった敵にとどめを刺して男の剣を拾い首筋にあてる。


「今はそれどころじゃないだろ。

状況をよく見ろよ。」


そう言って飛んできた水の球を左手で叩き落とす。


「お、お前・・

何者だ・・・」


男が見上げてつぶやく。


答えることなく、先ほど斬った土の壁の一部を拾って敵に投げる。


止まることなく出てくる敵を少しづつ倒していく。


時々魔法が飛んでくるがそれを体を使って受け、グレイスたちに届かないようにしていく。


男は少しして立ち上がって敵に向かっていった。


急にあたりの空気が重くなる。


強い気配がしてその方向へ向きを変えると、筋肉隆々の男がこちらに歩いてきていた。


「うそだろ・・・」


真っ赤な目でこちらを睨んでいる男は周囲にいる敵には見向きもせずこちらに向かってくる。


それに気づいた鎧の男はその男に斬りかかる。


しかし、その刃は筋肉の鎧を貫くことができずにはじかれる。


その男が鎧の男を殴ると、鎧の男の上半身が吹き飛び血があたり一面を染めた。


「グレイス!

逃げろ!!」


そう叫び男に斬りかかる。


全力で振り上げた大剣に体重を乗せて振り下ろす。


大剣は男の腕に食い込み、骨にあたり止まる。


「何してんだよ!!

フィン!!」


死んだはずの男が目の前にいる。


「娘に手をだすなぁ!!」


腕の傷など気にする様子もないフィンは両手を振り上げて地面を殴る。


地面がへこむ。


何とか直撃はよけたが、バランスを崩してその場にしゃがみ込む。


横目でグレイスをみるとマヤとベラを連れて逃げようとしていた。


心の中で"振り返るな"と祈りながら大剣を杖にして立ち上がる。


フィンは右こぶしを握り大きく振りかぶる。


大剣で受けるが、フィンの力が強すぎて大剣もろとも吹き飛ばされる。


グレイスが作った土の壁に激突して、一瞬意識を失う。


グレイスの叫び声ですぐに起き上がり、大剣を再び握りしめる。


グレイスと一緒にいる2人がフィンを見る。


「お父さん!!!」


どちらかの叫ぶ声が聞こえる。


こっちに向かって歩いていた足を止めてグレイスたちのほうを向くフィン。


「早く行け!!!!!」


グレイスに向かってもう一度叫ぶ。


しびれる手で何とか大剣を掴み、立ち上がる。


フィンに向かって走っていく女の子が見える。


両足に魔力を集中して右足で地面を蹴り飛ばす。


フィンと女の子の間に入って剣を構え、フィンの拳を受ける。


女の子もろとも吹き飛ばされ、俺だけがグレイスに受け止められる。


「やめろおおぉぉぉ!!」


フィンが叫ぶ。


剣が無くては立てないほどのダメージを受けて、やっとの思いで立ち上がる。


気が付くと、生気のない敵まで集まってきている。


グレイスを押してもう一度フィンのほうを向く。


手についていた血がグレイスの腕に着く。


遠くなりそうな意識を何とか手繰り寄せてもう一度立ち向かう。


もうスピードが出ずに、ほぼ魔力のこもっていない素の力で走る。


一瞬姉の幻覚が見えた気がして足が止まってしまう。


膝からその場に倒れこみ、叫びながらフィンやってくるを睨みつけていた。


突如目の前で爆発が起こり、フィンが吹き飛ばされる。


剣を地面にさしてもう一度立ち上がろうとするが、すぐにめまいがして倒れそうになる。


バランスを崩し前に倒れそうになった時に誰かが体を抱きしめた。


「馬鹿。」


そう一言だけ呟いてすぐに地面に寝かされる。


「オリ姉・・・」


目の前に現れた姉は一度微笑むとすぐにフィンのほうを向く。


首を動かしてフィンを見ると無傷で立ち上がる。


フィンがこちらに向かって走ってくる一方姉は目を閉じた。


フィンの前に半透明な壁が突如現れてフィンの動きを止めた。


その瞬間にフィンの足場が崩れて穴に落ちる。


そしてそこに注ぎ込まれる赤い液体。


フィンの悲鳴が周囲にこだまする。


グレイスのほうに目をやるとグレイスも壁に阻まれているようで必死に何かを叫んでいた。


痛む体に何とか魔力を通して立ち上がる。


姉はすでにフィンから目を離していてこちらに向かって歩いてくる。


やっとの思いで立ち上がり涙を流しながら歩いてきた姉を見ていると、頬に強い衝撃が走り気を失った。





目が覚めると小さな建物の中で寝ていた。


すぐ横の部屋から鳴き声とどなり声が聞こえる。


起き上がる以前に指一本動かない。


首を動かして横を見るとグレイスが手を握って寝ていることが分かった。


「グレイス。」


声をかけたが起きる気配がない。


すると扉が開いて姉が入ってくる。


「目が覚めたようね。」


冷たい目で俺とグレイスを見る姉。


「グレイスは悪くないんだ。」


それを聞いて一段と怖い顔になる姉。


グレイスの横に椅子を置いた姉は腰を曲げて額同士をくっつける。


村一番の美人の姉の顔が目の前にあり、鼓動が高鳴る。


さらに、姉は額をくっつけるために腰を曲げているので胸元が見えてしまう。


身体に痛みが走り、まかれていた包帯が赤くなる。


「なに考えてんのよ。」


不機嫌そうな顔のグレイスが握っている腕をつねる。


しかし、まったく痛みを感じることはなくつねられていることすら気付かなかった


元気そうなグレイスをみて安心したのか急激に眠くなる。


「元気そうでよかったよ。」


笑顔でそう言って目をつむる。


少しづつ遠くなっていく意識。


「駄目よ、起きなさい。」


姉の声がして頬を叩かれる。


「眠いです。」


「駄目よ。」


グレイスを部屋から追い出す姉。


「何があったの?」


そう言いながら体に手を当てて何かをしていく姉。


姉のふれた場所はとても気持ちがよく痛みが和らいでいく。


「なぁ、隠してることを教えてくれよ。」


姉の質問には答えずに質問を返す。


「駄目よ。

私たちじゃあただの足手まといよ。」


姉は少し悲しそうな声だった。


「あんなに強いのに、なんで・・・」


姉に救われたことを思い浮かべ、涙をこらえながらつぶやく。


「私達は村にいるべきだったわ。

あの時私が止めるべきだった、ごめんなさい。」


姉の声から姉も行きたいのを必死にこらえていることが伝わってくる。


何も言えなくなってしまい気づかれないように涙を流す。


姉はそんな自分の額にくちづけをして何も言わずに部屋を出ていった。


するとすぐそのあとに男が入ってくる。


「元気そうで安心しましたぁー」


聞いたことある声に体が反応して立ち上がる。


激痛が走るが、体が動かせることが分かりすぐに構える。


「落ち着いてくださいよぉ。

私ですよぉ、ルドルフですよぉ。」


前回とは違う衣装で現れた赤い鼻の男は白と赤のもこもこした服を着てひげを蓄えている。


すぐ後に恐ろしい顔をしたエマさんが現れる。


「どいていてください。」


冷たい声で呟いたエマさんの命令に従い、部屋から出ていくルドルフ。


構えたままの自分を睨み気が付くと体が凍っていた。


「頭を冷やしていてください。」


そう一言だけ言って部屋を出ようとするエマさん。


「ちょっと待ってくれ!

いったいどうなっているんだ!!」


エマさんはこちらを振り返りため息をついた。


「ルドルフに聞きました、あなたは話も聞かずにルドルフに襲い掛かったようですね。

それが今は話を聞く気があるのですか?」


「そりゃ警戒して当たり前だろ!!

あんな怪しい奴が急に話に入ってきたんだぞ!!」


そう叫ぶと向こうの部屋からこちらを覗いてくるルドルフ。


「それは、まぁこちらの落ち度でもありますが・・・

とにかくあなたたちには村に帰っていただきます。」


それだけを言って部屋を出ていくエマさん。


するとルドルフが部屋に入ってくる。


「大丈夫ですかぁ?

私は気にしてないので安心してくださぁい。」


わざとらしく跳ね回る目の前の男へ不快感が募っていく。


「私が、村までの道中とあなたが村にいる間護衛することになりましたぁ!

よろしくお願いしまぁす。」


それだけを言って部屋を出ていくルドルフ。


するとグレイスが荷物をもって震えながら部屋に入ってきた。


「大丈夫?」


体が氷漬けにされてる俺に心配そうに尋ねるグレイス。


「大丈夫。

こう見えてあんまり冷たくない。」


周りを警戒しながら小さな声で話す。


「あの2人は?」


マヤとベラのことを尋ねる。


「私たちと一緒に村に来るみたい。」


少しくらい顔で呟くグレイス。


「どうした?」


「私、帰りたくない。」


グレイスは村の人たちが苦手なので、帰りたくないのうなずける。


「エマさん!

少し話がしたい!」


そう叫ぶと真っ先に飛んでくるルドルフ。


そのあとにいやそうな顔で部屋にやってくるエマさん。


「お願いがあります。

村に帰ったらグレイスが家に泊まることを許可してください。」


「なぜですか?」


無表情のままのエマさん。


「一緒にいたいからです。」


本当の理由は言えないので、嘘を言っておく。


部屋の向こうで大きな音がして、ルドルフは大げさに両手を口元にあてる。


そして誰よりも驚いているのはすぐ真横に立っているグレイスだった。


エマさんはグレイスの様子を見て微笑んだ。


「いいですよ。

あの2人もあなたのところに行くことになっているのでちょうどいいでしょう。」


「それとあと一つ・・・」


柔らかい表情のうちにもう一つのお願いもする。


「ルドルフが護衛をしてくれるのなら、ついでに鍛えてほしいです。」


ルドルフはぴょんぴょんと飛び跳ねている。


エマさんは特に考える間もなくすぐに返事をする。


「いいですよ。

怪我が治ったあとなら。」


「ありがとうございます。」


礼を言うと”それでは”と言って部屋から出ていくエマさん。


すごい形相の姉が入ってきてグレイスを連れ出していく。


ルドルフと2人部屋に残される。


「怪我が治ったら、仲良く遊びましょうねぇ!!」


嬉しそうに言ったルドルフを蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが、凍っていて動けない。


「これ、いつといてくれるんだろう・・・」


そう呟くとルドルフは凍って動けない俺の周りをスキップし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ