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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
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祭り

グレイシーが寝返りをうち、自分は目を覚ます。


すこしうなされているグレイシーの髪を撫でて後ろから抱きしめる。


「ん・・?」


起こしてしまったようでもう一度寝返りを打ってこっちを見るグレイシー。


「起こした?

ごめん。」


そう言って先ほどのように髪を撫でる。


気持ちよさそうに目を細めたグレイシーは顔を胸にうずめて再び眠りにつく。


昼間に起きたことを思い出してしまい目がさえる。


おそらく、フィンが言っていたもう一つの村はすでにこの村を侵略し始めている。


フィンの村長としての手腕が足りていないため、確実にこの村はなくなってしまうだろう。


思っていたよりも早くこの村を出る必要がありそうだ。


明後日にでも出ていこう。


あまり長いするとこちらにも危険が及ぶうえに村同士のごたごたに巻き込まれてしまう。


ギルドなどが出てきてしまってはかなり状況が悪くなる。


結局周囲の音が気になってしまい、一睡もできずに朝を迎えることとなった。


「寝れなかったの?」


いつの間にか起きていたグレイシーが寝ぼけた声で呟いた。


「ちょっとな。」


そう言って頭を撫でる。


グレイシーとともに起き上がる。


「そうえば、言い忘れてたけどナディアさんは私たちのこと気付いているわよ。」


すこし目が覚めてきたグレイシーはいつもの口調に戻る。


「やっぱりか、あの人なんかすごいよな。」


うまく言葉にできずにグレイシーに笑われる。


部屋の扉がノックされる。


扉を開けるとそこにはフィンがいた。


「おはようございます。

俺たちは明日にでも出ていくので心配しないでください。」


朝の挨拶とともに出ていくことを伝える。


「そ、そうか。

すまなかったないろいろ。」


形だけ謝るフィンに近づいて耳打ちする。


「気を付けてください。

グレイシーにだけ目をつけるとは思えないので」


そう言ってフィンの背中越しのフィンの家族に目を配る。


「ご忠告感謝する。」


社交辞令の返事をするフィンと家族に礼を言ってグレイシーの手を掴み村長の家を後にする。


最後まで笑顔を崩さなかったが、それが逆におかしかったようでナディアさんにはじろじろと見られた。


「いつも通りの食事でいいか?」


グレイシーはいつもの笑顔でうなずいた。


2人で森に行く。


グレイシーがいつものように魔法を使い、森の中の生き物を探す。


しかし、いつもと違う表情で魔法を止める。


「向こうに人がいる。

何か話をしているみたい。」


身をひそめながら近づく。


見たことのない男と女が話していた。


村に女はいないはずでは?


そう思いつつ近寄っていくと2人の会話が聞こえてきた。


「・・・てます。」


男が女に報告をしているようだ。


耳を澄まして聞く。


「あの男の弱みさえ握れば後は簡単よ。

娘たちも自由にしていい。」


それを聞いた男は気持ち悪い笑みを浮かべる。


「あの男は今の私では勝てないからな。

しかし、あの男の力を使えればこれから先もかなり容易になろう。」


女は変な口調で話している。


「しかし、あの夫婦はどうしましょうか。」


ついに俺たちも話題に上がる。


「放っておけ、すぐに出ていくだろう。

あそこまでの問題を起こしたのだ。」


ある程度話も聞けたところで近くにあった小石を拾って遠くに投げる。


小石が葉にあたる音が聞こえ、それにおびえた2人はそれぞれ別々の方向へ歩いて行った。


この村に危険が迫っていることをグレイシーに知られてしまった。


危険な目に合わせたくないので無視していきたかったのだが、グレイシーは娘2人と仲がいい、きっと助けたいというだろう。


「どうするの?」


上目づかいで目を見つめるグレイシー。


ため息をついて歩き出す。


「相手の実力や規模も知らないで深くかかわるのは危険だから忠告するだけだぞ。」


安心した顔のグレイシーとまた、村長の家に向かい歩いて行く。


気まずい雰囲気の家につき、扉を叩く。


道中の村の静けさに悪寒がする、誰にも監視されなかった、何かをしようとしているのか?


「開けてくれ。」


娘さんが扉を開ける。


「どうしましたか?」


笑顔の娘さんにグレイシーが声をかける。


「お父さんいる?」


首を横に振る娘。


「村の皆さんとお話をするみたいで、母と出ていきました。」


グレイシーがこちらを向く。


早速面倒に巻き込まれる。


「わかった。

2人をよろしくな。」


娘にフィンの向かった先を訪ね、娘の指さした建物に向かう。


近づいたところで手を剣にかけながら扉をたたく。


「ごめんくださーい。」


呼びかけると扉が開かれて中に14人ほどの男が立っていた。


その中心には村長であるフィンとその妻であるナディアさんが座っていた。


ナディアさんに絡みつくような視線を送る男たち。


一部の男はナディアさんの身体を嬲るような眼つきで見つめていてこの場で明らかに浮いている俺を無視している。


「2人とも、話がある。」


建物内の異様な空気に包まれて、言葉を取り繕うともせずに話しかける。


ナディアさんが急に立ち上がり、怒鳴る。


「今すぐ帰ってください!

迷惑です!」


驚くフィンをよそに俺を睨むナディアさん。


「すぐに出ていくのであいさつをしたいんです。」


手を剣にあてながらナディアさんを睨む。


それに気づいたフィンは表情を変えてこちらを睨みつけてきた。


場の雰囲気を壊してしまって申し訳なく思いながらも2人を連れて建物を出る。


2人の後を歩いて村長の家へと向かう。


「入って。」


2人とともに中に入ると、グレイシーと仲良く話している2人がいた。


「いったい何なんだ!?」


声を荒げて掴みかかってくるフィン。


「奥さんに聞きな。」


今にも泣きだしそうなナディアさんを見つめるフィン。


「グレイシー、行くぞ。」


何か言いたげな顔で立ち上がるグレイシーの腕を無理やり引っ張って家を出る。


落ち込んだ様子で何も言わずに歩くグレイシー。


「助けられないの?」


急に立ち止まったと思ったらついに口を開くグレイシー。


近くの木の根に腰を下ろして手招きする。


「ちょっと話をしようか。」


首を傾げて横に腰かけるグレイシー。


「おそらくナディアさんは自身の身体を差し出すことで娘たちを守っている。」


グレイシーの表情が凍り付く。


「それを家族に隠し通して耐えているあの人の決意を無駄にするのか?

もし、もう一つの村の村長が俺たちより強かったら?」


ほぼ確実にそれはないが。


おそらくその村長とは森にいた女だろう。


あの女はフィンのことを強すぎると言っていた。


それならば確実に負けることはないだろう。


うつむき黙り込んでしまうグレイシー


「どうするんだ。」


うつむくグレイシーのあごを指で持ち上げ決断を迫る。


「私は、助けたい。」


泣きそうな顔で呟いた。


「わかった。

じゃあ行くぞ。」


そう言ってグレイシーの腕を掴んで村長の家に戻る。


ノックもせずに扉を開け中に入る。


中にいた4人は全員固まってこちらを見る。


「地図が欲しい。

村長なら持っているだろう。

あと少しの間、変な行動を起こさずおとなしくしていろ。」


グレイシーが娘から地図の場所を聞いてもめている夫婦を置いて村の外に出る。


思った通り村はゲルの街から近い。


「行くぞ。」


そう言って少し早いペースでゲルの町まで急ぐ、


1日休まず進みゲルの街に着く。


ゲルの街の前でグレイシーの肩を掴んで話しかける。


「ナディアさんたちを助けたいならグレイスが助けるんだ、今回俺あくまでサポートをするだけだ。」


真剣な顔でうなずくグレイス


「今からこの町の中のギルドに行って助けを求めるんだ。

俺に誘拐されていると。」


何かを言おうとするグレイスが言葉を発する前に続きを話す。


「おそらく、この町のギルドにはエマさんからの情報が来ているはずだ。

すぐに確保に動き出すだろう。」


「でも、そのあとは・・」


「そのあとグレイスは俺を捕まえようとするギルドの傭兵と一緒に行動をするんだ。

そして、合図をしたら魔法を使って援護してほしい。」


「援護?

どうやって?」


作戦を説明して最後の確認をする。


「本当にこれでいいんだな?」


いやそうな顔でうなずいたグレイシーの額にキスをして、振り返る。


「終わったら村長の家で落ち合おう。」


そう言って村に向かって全力で走る。


あとはグレイシーの行動次第。


半日ほどで村長の家に着く。


赤く染まっていく村は異様な静けさに包まれていて人が誰一人いなかった。


家の中ではフィンとナディアさんが奥の部屋でもめていて娘2人は黙ってうつむいていた。


「ちょっと、2人とも来てくれる?」


2人を連れ出して村を案内してもらう。


先ほどの建物にはすでに人の気配がなく、この村はフィンたち以外もぬけの殻となっていた。


3人で話しながら散歩をして2人に話を聞いていた。


姉の名前はマヤ、妹の名前はベラというらしい。


姉のほうがほんの少しだけ背が低い。


驚いたのは2人は12歳と11歳の姉妹で俺よりも年下だということだ。


2人ともナディアさんに似たような優しい顔で妹のベラのほうが少し目が細い。


姉妹に協力してもらい、木を切っていく。


主に俺が切って、持てる大きさになったものを運んでもらうだけだが。


暗い表情のベラと、うまく表情を隠しているマヤ。


「ありがとう。

助かったよ。」


礼を言って2人を家に送り村の奥のほうへと進んでいく。


そこでは祭りの準備が進んでいて先ほど切った気を焚き木の準備をしている男に渡す。


「よかったら使ってくれ!」


明るい声で渡すと上機嫌な男はそれを受け取って使っていた。


そして祭りで使うのであろうお酒を少しいただいて帰る。


人の目に着かないようにこっそりと村に戻る。


「2人は魔法使える?」


お酒とともに村長の家について真っ先に言った言葉がこれだった。


「はい、母に教わりました。」


ベラが答える。


「氷とか作れる?」


「一応・・・」


「ちょっと協力してくれない?」


2人を借りていた家に連れていく。


そこで自分が持ってきたお酒を少しだけ凍らせてもらい、凍った部分は別の容器へ移す。


残っている部分に繰り返し同じことをしてもらう。


何度か繰り返すとベラがギブアップしたのでそこで断念する。


「それは何に使うんですか?」


マヤが聞いてきたが


「内緒。」


と言ってごまかす。


準備が整ったところで2人を送って村長の家に向かう。


途中で違和感を感じ、2人を家の前で待たせて1人中に入る。


中に入ると真っ赤な床に泣き崩れているナディアさんがいた。


「大丈夫ですか!!」


慌てて駆け寄る。


「あの人が・・・」


血が流れてきている部屋を見て察した。


急に変わってとびかかってくるナディアさん。


「あなたさえこなければ。」


そう言って手を首に回し、首を絞めようとする。


ナディアさんの腹部から血があふれてくる。


「あなたさえいなければ・・・」


泣きながら馬乗りになり首を絞めようとしているが手には力が入っていない。


涙があふれているナディアさんは最後の願いを耳元で囁いた。


涙をこらえながら首を縦に振って人を中に呼ぶ。


血を流しているナディアさんを見て駆け寄る2人。


拳を強く握りしめながらその場を後にして村の奥に向かっていった。


人々の騒ぐ声が聞こえる。


隠れて様子を伺う。


男たちは酒を飲みながら焚き木を囲んで騒いでいる。


奥には村長であるあの女が座っていた。


ため息をついて動き始める。


ゆっくりと息をひそめながら酒に酔う人ごみに紛れて進んでいく。


出されている食べ物をつまむ。


焚き木から出る煙は人々がいる場所の良い目印になるだろう。


お酒が周り、上機嫌で騒ぐ周りに紛れながら持ってきたお酒を使っていく。


全てのお酒をこぼしてしまったので焚き木の近くに座り込む。


もうそろそろ来るはずだ。


タイミングを見計らいつつ寝たふりを続けていたが、ついにその時は来た。


村の奥の祭り会場に2人組が現れる。


1人は鎧をまとった男で、もう1人は軽装でナイフを構えた女。


女の恰好を見て騒ぎ出し飛びついていく酔っ払いたち、しかし女性は飛びついてくる男たちを素早く無力化していく。


鎧姿の男は真っ先に一番目立つところに座っている女に向かって進んでいく。


一部の酔っ払いが男に向かっていくがすぐに殴り飛ばされてしまう。


焚き木の中から燃えている小さな木を見つけコップに入れて投げる。


先ほどこぼしたお酒に引火して火の手が上がる。


村の長である女と鎧を着た男の間に火の壁ができる。


不自然な広がり方をする炎に男が一瞬動きを止める。


突如風が向きを変えて吹き、焚き木の煙が鎧姿の男と村長を包む。


煙の中で村長を殴り、鎧姿の男に向かって投げつける。


そのまま背後の森に紛れて合流地点へと急ぐ。

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