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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
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交流会

物音がして目を覚ます。


グレイシーを起こさないように起き上がって外に出る。


外に出ると数人の村人がこの家の周りを見回っていた。


玄関に立てた大剣に目をやるが、ためらって何も持たずに窓から外に出る。


「どうかしましたか。」


そう言って近づいてくる男たちに話しかける。


暗闇からの声に驚く男たち。


「見張りでしたか。

お手数かけて申し訳ないです。」


そう言って笑顔で頭を下げる。


暗いので笑顔が見えたかは不明だが、声のトーンで敵意がないことは伝わっているだろう。


「お、おう。

気にするな。」


1人がそう言って一目散に逃げていく男たち。


おそらく3人組だろう。


音を立てないようにグレイシーの横に戻り、寝ころんでいた。



翌朝、武器を持っていた男が家にやってきた。


「昨日は少し態度が悪かった。

謝罪する。」


そう言って頭を下げた金髪の男の横にはどこか闇があるような雰囲気のきれいな女性が座っていた。


「こちらこそ助けていただいて感謝しております。

怪しい2人組を招き入れていただきありがとうございます。」


丁寧に礼を述べて頭を下げる。


「私はこの村の村長をしているフィンだ。

一応村長兼用心棒をやっている。」


「私は妻のナディアです。

昨日は夫が失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。」


そう言って頭を下げた奥さんにつられて頭を下げるフィン。


少し力関係が見えた気がする。


「私はユージーンと申します。

一応前にいた村では用心棒をしていました。」


頭を下げ、ボーっとしていたグレイシーに声をかけてあいさつを促す


「グレイシー、挨拶を。」


驚いて慌てながら話し始めるグレイシー


「わ、私はグ、グレイシーです。

ユージーンの・・・つ、妻です。」


変な動きで頭を下げるグレイシー。


ナディアさんはグレイシーの姿を見て微笑んでいる。


「昨日から何も食べてないでしょう?

ぜひ家にいらしてください料理をごちそうするわ。

子どももきっと喜びますし。」


可憐な笑顔でそう言ったナディアさんの誘いを受けてフィンの家に向かう。


グレイシーとナディアさんが前を歩きその後ろで警戒しているフィン。


ナディアさんにはばれてない様だが俺とグレイシーを睨んでいるのがバレバレだ。


「ただでさえご迷惑をかけているのにごちそうまでいただくことになって申し訳ありません。」


歩きながらフィンに話しかける。


できる限り目立ちたくないのだが、空腹には勝てないし、村長の奥さんの誘いを断る理由もない。


「あぁ。」


うわの空で返事をするフィン。


こちらも途中ナディアさんとグレイシーを見る村人の目線が気になりすぐに話しかけるのを止める。


結局はその後一言もしゃべることなく村長の家に着いた。


ナディアさんが扉を開けると中にいたのは10代の娘さんが2人。


こっちに気が付くと入り口付近まで来て頭を下げる。


「この度はようこそいらっしゃいました。」


2人声を合わせてお辞儀をする。


口を開けて驚くグレイシー。


「こちらこそお招きいただきありがとうございます。」


そう言って頭を下げて、グレイシーの手を軽くたたく。


グレイシーも急いで頭を下げる。


娘2人も奥さんに似ていてとても美人だ。


フィンも筋肉隆々としていて顔も男らしくかっこいいので、2人の子供が美しい容姿なのもうなずける。


もう食事はできていたようで、すぐに席について食事を始める。


上品な生活になれていないのでとても居心地が悪く感じる。


どうやらフィンの様子から察するに普段からこうではないらしい。


質素ながらも、とてもおいしかった料理を平らげてお礼を言う。


外の空気を吸いに行くと、フィンもついてくる。


その目的が監視なのか、ただ家から逃げたかったのかは定かではない


「きれいな奥さんですね。」


外で大きなため息をついたフィンに話しかける。


「まぁな。

自慢の嫁だ。」


ナディアさんがいるときに比べて少し警戒が弱まっているフィン。


「悪いな、ピリピリしてて。」


表情に出てしまったようで、何も言っていないにも関わらず謝罪される。


「いえ。

警戒するのが普通だと思います。」


「少しいろいろあるんだよ、この村は。

最近よそ者が良く来るから。」


「なんかすいません。

タイミングも悪かったみたいで。」


「いや、そういうわけじゃないんだ。」


そう言って暗い顔をするフィン


「昨日の夜の見張りもそのせいですか?」


「夜?」


何を言っているのかわからない、という顔をするフィン。


「昨日の夜、気配を感じて飛び起きたらあの家の周りに男が来ていました。

声をかけたら帰っていったのですが。」


それを聞いてため息をつくフィン


「すまんな、きっとお前の嫁を見に行ったんだろう。

今この村は女がいなくてな、うちの家族とお前の嫁だけだ。」


少なくとも50人ほどは住んでいそうな町で女性がいないなんておかしい。


「何かあったんですか?」


眉をひそめるフィン。


「少し前に村の向こうに新しい村ができたんだ。

その村は頻繁にこっちに攻めてきて女性をさらっていくんだ。

老若男女問わずな。」


「あなたでは勝てないのですか?」


フィンの立ち振る舞いを見る限りかなり強そうだ。


少なくとも、村に来る前に殺した炎を使う男程度なら余裕で倒せるほどに。


「俺は最近村長になったばかりなんだ。

もともと用心棒として獣を相手にしていたんだが、当時の村長が一騎打ちをして負けたらしい。」


「私も村では用心棒をしていたので少しでよければ力になりますが・・」


一応声だけはかけておく。


「気にするな、お前弱いんだろう。」


そう言って笑い飛ばすフィン。


「そんなこと失礼な言い方しないの。」


急に後ろに現れたナディアさんに頭を小突かれるフィン。


「すみませんね。

主人はあんまり、形式ばった食事会は得意じゃなくて・・・」


フィンの代わりに頭を下げるナディアさん。


「いえいえ、グレイシーこそ礼儀がなってなくて。」


使えない妻の代わりに頭を下げる、横目で家の中を見ると娘2人と仲良く話しているグレイシー。


笑顔のナディアさんはすぐに家に入っていき、それを追うようにフィンと中に入る。


「グレイシーそろそろ失礼しようか。」


娘2人は少し残念そうな顔をした。


「もう少しゆっくりしていけばいいだろう。」


フィンもかなり警戒をといたようだ、それか見張るなら近くのほうが良いということだろうか。


「いえいえ、お借りしている家も少し掃除したいので・・・」


そう言って頭を下げてグレイシーに手招きする。


グレイシーは娘2人に手を振って小走りでやってきた。


「きれいな嫁を持つ者同士、何かあったら助け合いましょう。」


フィンにだけ聞こえるように真剣な声で呟く。


グレイシーがこっちを見て首を傾げる。


「ナディアさんも娘さん方も、何かありましたらいつでもいらしてください。

お借りしている家さえきれいになっていればいつでも歓迎いたします。」


最後にそう言って村長の家を出る。


家を出ると同時にグレイシーの手を掴み抱き寄せる。


「周りの男に変な目で見られてる。

少し見せつけるから合わせて。」


耳元で囁いてグレイシーの唇を奪う。


グレイシーの口内を攻めながら、周りを警戒する。


今の行動に反応したのは俺たち2人を見送ろうとして家から出てきた娘2人と村長の家の陰に隠れていた男2人、村長の家の向かいにある大きな木の陰からこちらを見ていた1人そして少し遠くの家の中からこちらを観察していた男3人。


今確認できただけでもこれだけの人数が見張っている。


おそらく娘2人に悪意はないのだろう、隠れるのが下手で思いっきりのぞいているのが見えている。


きっとナディアさんはフィンよりも強い。


さっき後ろから話しかけられた時もそうだし、こんな怪しい村で何も起こさず娘を守っているなんてかなりの実力者だ。


唇を離しグレイシーと歩き出そうとする。


ボーっとしているグレイシーの手を引いて歩いて行く。


これでグレイシーが反対側を見ていてくれてたら助かるのだがな・・・


振り返る際に娘2人に手を振って歩き始めた。




家についてグレイシーを家の前で待たせ、中を探索する。


玄関の剣の位置が変わっている気がする。


気のせいならばいいのだが。


汚かったことが幸いし、埃が何者かの侵入の痕跡を残してくれていた。


一度外に出て窓からゆっくりと音を立てないように中に入る。


玄関に入ってすぐ左の死角に隠れていた男の右肩を掴む。


「私に何か用ですか?」


後ろから急に話しかけられて驚いた男は大声を出し振り返る。


焦って手に持っていた棒を振りかぶるが家の壁にあたる。


その男の腹に蹴りを入れ、すぐ玄関の剣をもって外に出る。


グレイシーの手を掴み家から距離をとる。


家の中から2人の男が出てくる。


「おい、人の嫁に手出そうとするってことは、殺されても文句言うなよ。」


そう言いながら剣に手をかける。


グレイシーは俺の後ろでおびえている。


1人の男は手に持ったくわを走りながら振りかぶる。


あまりの遅さに驚いたが、大剣の腹の部分で男の手をつぶす。


骨が砕ける音が手を伝って響く。


地面にたたきつけられたその男は悲鳴を上げた。


もう一人の男はその様子をみて一瞬身がすくんだがすぐに魔法を使い始める。


小さな炎の球がでてこちらに向かってくるがそれを握りつぶし大剣の柄で男の右ひざを叩く。


膝が通常は曲がることのない曲がり方をする。


その男はその場に崩れ落ちながらさらに大きな悲鳴を上げる。


その悲鳴で先ほどの男が起きて走って逃げていく。


男が落としていった木の棒を拾い上げ男に向かって強化した力で投げる。


男の体に棒が当たると男はすごい勢いで吹っ飛んだ。


幸い村から離れているこの家は悲鳴を上げてもすぐに人が来ることはない。


「グレイシーこっち来い。」


すぐに駆け寄ってきて服の裾を掴むグレイシー。


その手は震えている。


手の骨が砕けてしまって立ち上がれない男に話しかける。


「誰が計画した。

フィンか?」


男は汗にまみれた顔を横に振る。


「言え。」


大剣を男の顔のすぐ横に突き刺して丁寧に質問をする。


「近くの村の村長か?」


苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた男。


大剣を持ち上げて、四つん這いになっている男の両足をもう一度剣の腹でつぶす。


さらに大きな悲鳴が村にこだまする。


「なんでそんなことをするんだ?

あいつらがお前らから女を奪ったんだろう?」


口をつぐむ男、向こうから吹き飛んでいった男を担いでフィンがやってきた。


「何があったんだ。」


おびえている様子のグレイシーを見てなんとなく察したようで、落ち着いた声で問いかけたフィン。


「こいつらが襲い掛かってきたから返り討ちにした。」


さっきとは違う言葉遣いに驚くフィンを見て少し後悔する。


「わかった。

後で詳しく話を聞くからまずは家にこい。

その方が安全だろう。」


そう言ってその男を持ち上げるフィン。


「そいつ手と脚の骨が砕けてるだろうから丁寧にな。」


そう言って膝のせいで立ちあがれない男の無事な脚を掴み引きずっていく。


「グレイシー、離れるなよ。」


グレイシーは剣を持っている方の腕に腕を絡ませてきた。


さっき2人で歩いた道を重症の男3人を連れて戻る。


こちらを見ている男全てに見せつける。


手を出せば、無事では済まないと。


途中で引きずっている男の声がうるさく耳に障るので近くにあった石や砂を口に詰め込む。


それを見て恐怖に染まった顔を見せるフィンと村人たち。


村長の家に着くとナディアさんが慌てて出てくる。


「何があったの!?」


気まずそうな顔のフィンが関係者を連れて部屋に入る。


グレイシーと俺はナディアさんにお茶を入れてもらい一息つく。


「大丈夫?」


心配そうな顔でグレイシーに近寄る娘2人。


グレイシーは作り笑顔で相手をする。


震えた手で俺の手を握りながら。


ナディアさんは心配そうな顔で俺を見た。


「何があったの?」


「襲い掛かってきたのでやり返しました。」


笑顔で答える。


「やりすぎじゃ・・?」


「大丈夫です。

誰一人死んでいませんし、ちゃんと手当すれば死に至ることはないでしょう。」


確実に引いた顔のナディアさんが言葉に詰まり、娘たちを自分の近くに呼び寄せた。


「2人ともちょっと来てくれ。」


フィンに呼ばれ部屋に入る。


「だいたいの事情は聞いたが、それが正しいかを確認したい。

この3人によると・・」


フィンが話し始めた時に3人を一瞥した。


おびえて体を強張らせる3人。


「お前の面倒を見ようとして声をかけたところ襲われた、そう言っているのだが。」


気まずそうな顔でそう言い終えたフィンを睨み答える。


「もし、面倒を見ようとする行為が家の中に忍び込んで棒を構えて俺たちを待っていて、さらにくわと魔法を使って攻撃してくることならば、その通りです。」


ため息をつくフィン。


「お前たち今日はこの部屋で寝ろ。

無傷のまま3人をここまでしてしまった以上お前らにも罰を与える必要がある。」


そう言ったフィンを少し睨んで剣にあてる。


「まて、村の長としての立場があるからそうしなければいけないんだ。

どう考えてもお前が悪くないことは明らかだ、殺す気はなかったようだし。

今夜はお前ら2人で、この部屋を使ってくれ。」


必死に説得するフィンの顔に免じて手を剣から離す。


フィンは怪我をした3人をもって部屋から出ていった。


ひと段落着いたところで震えているグレイシーを抱きしめる。


声を上げて胸の中で泣き始めるグレイシーの背中を何も言わずにさすっていた。

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