ヒーロー
この世には2種類の人間がいると思う。
何かのために生きている人間と、何かのために死ぬ人間だ。
ティアさんは人を助けるために生きてきた、そして自分を助けるために死んだ。
果たして自分はどうなのだろうか、ティアさんが自分をかばって死んでからはもう死んでいるのと同じようなものだ。
ティアさんが亡くなったあと、マリヤが自分たちとティアさんを運んで森の中の洞窟まで逃げてきた。
泣きながら荷物をもって子供と手をつなぎ歩く美樹と、荷物とティアさんと自分を担いで歩くマリヤ。
洞窟に着いた後、マリヤはティアさんを弔う準備を始めた。
穴を掘り、その中にティアさんを入れる。
枯葉や枝などの燃えやすいものを集めティアさんの周りに入れる。
あんなにきれいだった人が、全身に穴をあけて燃やされる。
その残酷な真実にもう涙すら出ることはなく、ただ感情を感じることなくティアさんの最後を見届けていた。
「私、マリヤ・クローズは、生涯の友であるティア・クローズを一生忘れないことを、今、ここで、宣言し、彼女に、誇れるように、生きていくことをここに誓います。」
泣きながらたいまつを右手で掲げ、ティアさんに誓いを宣言したマリヤ。
そして、そのたいまつを美樹に渡す。
美樹は戸惑いながら、マリヤのようにたいまつを掲げ口を開いた。
「わたしは、初めでの町で困って、いだ自分をた、だすけてくれたティアさんの優しさを一生忘れません。」
そう言ってたいまつを自分に渡す。
受け取ったたいまつを持ったままうつろな目ティアさんを見つめる自分。
「まもれなくて、ごめんなさい。
巻き込んでしまってごめんなさい。
ティアさんがいなければ自分は生きていられませんでした。」
無表情で事実だけを述べる。
今自分には感情を感じる余裕がない。
「たとえ、自分の存在が偽りだったとしてもあなたのことは忘れません。」
勝手に口が動く。
2人は自分の言っていることに耳を傾けるほどの余裕がなく、泣きながらティアさんを見ている。
自分が手を離し、たいまつが落ちていく。
枯葉、枝という順で燃え、ティアさんを炎が包む。
その姿を見た瞬間に自分は膝から崩れ落ちて、意識を失った。
溺れている自分、必死にあがいて何とか水の中から出る。
自分が入っている物のふたを押し開けて外に出る。
あてられている光に目を細める。
「やぁ、待ってたよ。」
そう言った男は気持ちの悪い笑みを浮かべ、近寄ってくる。
「これが私の桂馬です。」
そう言った男はカメラに向かって話し始める。
「本当にこれが?」
スピーカーから声が響く。
男は首を縦に振り、振り返ってこっちに歩いてくる。
肩に手を置いて、気持ち悪い眼つきで自分を見た。
「頑張ってくれよ。
わが愛しの子よ。」
そのつぶやきを聞いたところで意識が途切れる。
俺は思い出した、俺はどちらでもない。
目を覚ますとあたりは真っ暗で洞窟の中で4人で寝ていた。
もう、すべきことはわかってる。
自分が立ち上がると、美樹が気付いて起き上がり、真っ赤な目で自分を見た。
「大丈夫?」
無理やり作った笑顔で語り掛ける美樹の手に囁く。
「少し2人で散歩できない?」
美樹が立ち上がり、外に出る。
荷物の中から必要なものを掴み外に出る。
2人真っ暗な木々の間を2人で歩く。
つないでいる手だけが互いの存在を教えてくれる。
「美樹は、どうした?」
自分が言った内容が理解できず返事をしない美樹。
「俺は美樹のことを聞いたよ。」
「どういうこと?」
自分が止まって美樹の質問に答える。
「この世界に来るとき、願いを聞かれなかった?」
そう言った後、来た道を戻る。
美樹の手のぬくもりはなぜか自分を落ち着かせると同時に高揚させる。
「笑わない?」
「笑わない。」
洞窟の前のあたりで立ち止まる。
「私はね、ヒーローが欲しかった。
私がピンチの時には助けに来てくれるヒーロー。
お母さんが死んじゃってからはずっと一人だったから、私が寂しくならないように一緒にいてくれるヒーローが。」
「それを願ったの?」
「うん。
おかしいでしょ。」
そんなことはない。
全てつじつまが合う。
それを聞いた自分はポケットからナイフを取り出し美樹の背中に突き刺す。
「やめろおおぉぉぉ!!」
静かな森に自分の叫び声が響き渡り、マリヤが飛び起きる。
ナイフを抜いて自分の手を見る。
美樹が振り返り、自分を見つめる。
マリヤと目が合って自分の体が再び動きだす。
「たすけて」
そう呟いて美樹を押し倒す。
目から涙を流しながら美樹の腹部にナイフを刺し続ける。
マリヤが自分を止めようと駆け出す。
自分が美樹を見ると目が合って、美樹は微笑んで最後の力をすべて使って、自分を抱きしめた。
その瞬間に手を止めて立ち上がり、ナイフを落とす。
ティアさんの血と美樹の血で真っ赤に染まった自分を見て立ち止まるマリヤ。
血だらけの手を見た後、マリヤのほうを向いてつぶやく。
「助けて」
その瞬間に自分は意識を失って倒れた。




