天使
すぐに意識が戻り、体中に暖かい液体がかかるのを感じる。
顔をぬぐって目を開ける。
目の前には多くの刺突の跡があるティアさんが崩れ落ちていた。
エマと美樹の悲鳴が聞こえる。
立ち上がれないままティアさんに近づいて話しかける。
「何してんだよ。」
自分の目からは涙が流れ落ちる。
ティアさんは自分の顔に手を添えてつぶやく。
「よ、かっ」
言い終える前にティアさんの手が地面に落ちる。
ティアさんの手についていた血が、自分の頬に手形を残す。
何も言わずに立ち上がる。
早くこいつを殺して助けなきゃいけない。
手遅れになる前に。
ティアさんの血で染まった真っ赤なダガーを手に持つ。
「お父さん!」
動けないはずのエマの声が響く。
男がエマのほうを向いて動揺する。
今までのダメージからか、恐怖からか、それとも怒りからか震える体で立ち上がる。
真っ赤な体で涙をぬぐい、男を睨む。
自分の鼓動だけが聞こえる世界でゆっくりと男に近づいていく。
1歩踏み出すたびに体中に激痛が走る。
まるでゾンビのように歩き、動揺している男に近づいた。
「こんなはずじゃ・・・」
そう呟いている男の腹部をダガーで刺した。
「このダガーはティアさんからだ。
くそ野郎。」
男は悲鳴を上げて倒れ、動けなかったマリヤとエマが自由を取り戻し、美樹がそれを見て結界を解く。
自分はその場に倒れこんでしまう。
マリヤと美樹はティアさんのほうに、エマは自分のほうに走ってくる。
「お父さん!」
自分の下に倒れている男に駆け寄るエマ。
男はエマの顔に手を伸ばし、目から涙を流しながらつぶやいた。
「俺は・・何を・・
お前とアイラを守ろうとして・・・
アイラの仇を・・・」
自分は少しづつティアさんのほうに這って行く。
それに気づいたマリヤが泣きながら歩いてきて、自分を抱えてティアさんの横に置いた。
「治せるんだろ?なぁ。」
そう言ってティアさんのそばで泣いている美樹に縋りつく。
「早くしないと手遅れになるだろ!
早くしろよ!!」
ティアさんから流れ出る血は止まらず、美樹はただ、泣き続ける。
「俺の腕は何とかなったんだろ!
なんで何にもしないんだよ!
ティアさんを殺す気かよ!!」
泣きながら美樹につかみかかるが立っていることはできずにその場に倒れこむ。
マリヤが泣きながら自分を抱えて美樹とティアさんから引き離す。
「待てよ!
ふざけるなよ!
なんでティアさんが死ぬんだよ!」
マリヤは自分を抱きしめて、叫べないようにして泣いていた。
マリヤの胸の中で現実を目の当たりにして頭の中が真っ白になる。
マリヤの服を引っ張ってマリヤに言う。
「ティアさんのところに。」
自分を抱え、ティアさんに近づくマリヤ。
ティアさんの頬に手を当てて涙をこらえる。
ティアさんのからだに開いた無数の穴からの出血はどんどんと勢いを失っていく。
ティアさんのおでこにくちづけをしてつぶやいた。
「ティアさんは意外と甘えん坊だからなぁ・・・
俺がいないと寂しがるよな・・・」
そう言ってポケットからナイフを取り出した自分をマリヤが叩いた。
「ティアが、自分の命を犠牲にしてまで、助けたのがわからないの!?」
マリヤにたたかれ遠くに飛ばされてしまったナイフを見ながら何もできずにそこに横たわっていた。
マリヤは立ち上がり、エマのほうに向かう。
美樹はティアさんから手を離さずに泣き続けていた。
いつの間にか雨はやんでいて、あたりが明るくなっていく。
雲の切れ目から刺す光はティアさんを照らし、まるで天使が天へと昇っていくようだった。




