新たな街
服を着て立ち上がる。
まだ横で寝ている美樹に服をかける。
少し歩いてみんなと合流する。
まぶしすぎるほどの日差しが降り注ぐ空を見て深呼吸をする。
「おはよう。」
いつもと変わらないみんなにあいさつをする。
少し頭痛がしてふらついたが、おそらく昨日服を着ずに寝てしまったからだろう。
出発前に朝食の準備を始めるティアさん。
美樹を起こして服を着せみんなと合流する。
なぜか美樹の顔を見ることができずに目を泳がせて朝食をとる。
いつものように揺れる馬車の中で眠るティアさんとメアを眺めていた。
震える手で自分の横に座るマリヤの手を握る。
一瞬こちらを見たマリヤは特に何も言わずにすぐ目をそらした。
「もうすぐ着くぞ。」
細身の男が叫ぶ。
こんなに早く着く予定だったか?
一瞬戸惑ったが、御者の2人も早くこの状況から抜け出したいんだとすると、いつもより急いだに違いない。
降り出した雨の音を聞きながら、マリヤの手を握ったまま眠る2人を見つめていると、馬車が止まる。
「ついたぞ。」
そう言われて2人を起こして馬車を降りる。
遠くには壁に囲まれた街らしきものが見える。
「悪いがここまでだ。」
そう言って手を差し出す大柄の男。
「助かったよ。
この後は大丈夫か?」
そう言って握手をすると、2人は立ち去ろうとする。
「おい、子供は?」
そう声をかけると、子供を乱暴につかむ細身の男。
様子がおかしい。
少し距離を取ってナイフを取り出した細身の男は子供の首筋にナイフを突きつけて叫ぶ。
「動くな!」
全員の動きが止まって、すぐに大柄の男が細身の男に向かって歩いて行く。
「これで俺たちは助かるんだ。」
そう呟いた細い男は、誰かに合図するかのように魔法を空に打ち上げる。
雨の中を逆らうように上空に上がった炎はすぐに消えた。
美樹のほうを一瞬見て、2人に向かって歩いて行く。
「いったいどういうつもりだ。」
そう言いながら近づく自分に大柄の男が聞き返す。
「そっちこそどういうつもりだ。
止まれ。」
足を止めるが口は止めない。
「俺たちが人質に取った子供をそっちが人質に取って、こっちが言うことを聞くと思うのか?」
「聞くから今動いていないんだろう。」
図星だ。
「俺とその子を交換しろ。
俺がいれば、だれも手を出せないはずだ。
俺が信じられないなら、手を縛ってもいい。」
そう言って手を前に差し出して再び歩いて行く。
大柄の男がうなずいて、ロープを取り出し、自分の体と腕を縛る。
子供を解放した細身の男は自分の膝を後ろから蹴って、その場に跪かせる。
美樹の目を見つめてうなずく。
自分の体が吹き飛ばされる。
上空に飛ばされた自分を見てとっさに構える大柄の男と、魔法を自分に飛ばした細身の男。
自分に向かって飛んでくる炎は自分の少し下で突然大きな氷になり、重力に従って落下していく。
グシャっと音を立てて細身の男をつぶす氷、あたりの草は赤く染まり、大柄の男の右脚にも血肉が付着する。
それに動揺して隙を見せた瞬間にマリヤがとびかかった。
マリヤに対して剣を振ろうとした男を上から落ちてきた自分が踏み台にして着地する。
気を失っている男に目もくれず叫ぶ。
「行くぞ!」
雲の隙間からは日差しが差し込み、濡れた草を照らしている。
美樹が自分の後に続いて走り始める。
違和感を感じて振り返ると、みんなが固まっていた。
まずい。
美樹の手を掴んでみんなのもとに戻る。
「ティアさん!」
ティアさんなら動けるようになるはずだ。
もし、ティアさんが動けないようなら美樹がみんなを動かすしかない。
ゆっくりと動き出すティアさん。
「驚いたな。」
頭をかきながら歩いてくる男。
「最悪の状況だよ。本当に。」
だるそうにこっちに歩いてくる男を見て冷や汗が額を流れる。
手を掴んでいる美樹を自分のほうに少し引き寄せて耳元で囁く。
「美樹の力で結界のようなもの作れないか?
あの男が絶対に出られない結界を。」
美樹はこっちを向かずにうなずく。
「俺が合図したら俺とあの男を中に入れて作ってくれ。
何かあった場合はみんなを頼む。」
そう言って男に向かって歩いて行く。
「どうやら自分たちは売られたみたいだな。」
必死に余裕を見せながら近づく。
「本当にお前たちどうなってるんだよ。
少し話を聞かせてもらおうかね。」
そう言って立ち止まった男。
「美樹!」
思いっきり叫んで男に向かっていく。
男は一瞬警戒して美樹を見て、自分には目線を向けることなくよけた。
男が美樹を見ている間にダガーを2つ取り出して背後から襲い掛かる。
その男は美樹に向かって走っていくがすぐに見えない壁にぶつかる。
「なんだこれ。」
そう言って頭をかいた男に背後からダガーで刺そうとする。
ダガーは男の腕に切り傷を与えるが、男の拳が自分にあたる。
何とかその一撃を耐えて距離をとる。
「どうなっている。」
今までとは違う雰囲気を纏う男がつぶやいた。
「これもお前らの力とやらか。」
そう言う男に笑みを浮かべて戦闘態勢を整える。
ダガーを構え、右足を一歩引く。
自分に殴りかかってきた男の右拳を左足を軸に体の向きを変えてよける。
すぐに左の拳が飛んでくるがそれを右腕で受け流す。
右腕に走る鈍い痛みに顔をゆがめながら、男の腹に右足で蹴りを入れる。
直撃するが効いていないようでそのまま男の右脚が自分に向かってくる。
とっさに左腕少し下げて体を丸める。
その男の蹴りを左手で受け止める。
少し自分の体が浮いて、腕の痛みと体へのダメージが自分を襲う。
少しふらつく自分に左で殴り掛かる男。
膝を曲げて男の体のほうに体を倒してその拳をよける。
そして痛みが走る左手でダガーを相手の腹にさす。
男は左手でダガーを受ける。
ついに男の顔が苦痛に歪む。
その隙に右手で空いての肩を掴み両足で飛ぶ。
飛んだ状態で両足の飛び蹴りを相手の腹にくらわす。
男が苦しみながら後ろに下がり、自分も距離をとる。
「いったいどうなってんだ。」
肩から血を流し苦しそうにつぶやく男。
そして、最弱のはずの自分がギルド最強の男と叩けている状態を見て驚いている美樹。
やはり、自分の予想通りだった。
美樹の魔法が自分にしか聞かない理由は、魔力が原因だ。
美樹の力と魔力は相性が悪いようで、美樹はすごい力を持っている割にはこの世界の人と戦うのに苦戦をしていた。
逆に言えば、この美樹の力の結界の効力が聞いている場所では魔力を遮断することができるはずだ。
通常なら酸素などからでも取り込める魔力が、空間では取り込めない。
つまり、魔力の消費が通常の比ではない。
そして体の中の魔力を使いきってしまえば、自分と同じ状態になるのだから、魔法が使えない自分でも対抗することができる。
もう一度男を睨み、距離を詰めようとする。
その男は魔法を使おうと、手を前に出すが何も起こらない。
「俺が俺である限り、みんなには手を出させない。」
男を睨みながら少しづつ距離を詰める。
「よくも・・・」
そう呟いている男は覚悟をした目でこちらを睨む。
「妻を殺しといて何を・・・」
自分が男の発言に気を取られたすきに距離を縮められる。
すぐに構えるが男は自分の手を掴み、そのまま男の腕にさす。
動揺して距離をとり話しかける。
「妻っ」
その瞬間に男の腕から流れた血が宙に浮いて体にあたり自分を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた自分は男から目を離さないようにするが立ち上がることすらできない。
「死ね。」
そう言った男はそのまま血の形を変えて自分に向けて飛ばす。
自分に向かって飛んでくる血を見て、とっさに目をつぶり手を前に掲げてで少しでも被害を減らそうとする。
自分は吹き飛ばされ、意識を失った。




