表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
見えざる手
72/127

夜逃げ

みんなが器を置いたのを見て動揺する自分。


美樹が悲しそうな顔でこちらを見る。


「え?

これめちゃくちゃおいしいよ!」


そう言ってもうひと口食べる。


自分を化け物でも見るような眼で見るみんなと複雑そうな表情の美樹。


いつものようにティアさんが料理の準備を始める。


落胆した美樹が自分の横に座って料理を口にする。


一口食べて自分のほうを見た美樹は


「おいしい。」


とつぶやいた。


「きっとこっちの世界の人にはわからない味なのかな?」


耳元で呟くと、2人でそのまま料理を食べだした。


「ごめん・・・

もう無理・・・」


みんなが食べなかった分まで食べようとしたが、半分も食べれずに満腹になる。


苦しさから横たわり、やっと料理を食べ始めたみんなを見る。


美樹は見た目通りあまり食べないので、もったいないが残ったものは捨ててしまおう。


「また作ってね。」


美樹に微笑みかけたあと一言つけたす。


「今度は2人分だけでいいから。」


少し苦笑いした美樹が後片付けを始める。


「ちょっと待って。」


そう言って、残り物をもらって、川辺に向かう。


川辺に残り物を捨ててついでに容器を洗って帰る。


「わざわざ向こうに行く必要あった?」


「匂いが気になるのと、念のために川辺にも人がいた形跡を残しておきたくて。」


首を傾げる美樹にそう言って、ほかのみんなに話しかける。


「本当にあの料理まずかった?」


美樹に聞こえないように聞くと、みんながうなずく。


まるで、みんなどこかで催眠でもかけられたようだ。


違和感を感じつつも片づけを終えた美樹と見回りに向かう。


食事前のことを思い出してしまい、少し気まずく黙り込む。


「手、つないでもいい?」


少し照れながら沈黙を破った美樹。


黙って手を差し出す。


「私達って、付き合ってるってことになるのかな。」


質問か確認か意図のわからない美樹の発言。


自分の頭の中は真っ白になってしまい、肯定も否定もできなかった。


自分の返事を待っている美樹の顔を見つめ、何かを言おうとする。


森を抜けて、川辺に着く。


頭が真っ白なまま、近くの岩に腰を掛けた。


体中から力が抜けていき立っていることもできなくなったのだ。


座って彼女を見上げる、泣きそうな眼の自分と赤い顔の彼女。


ついに言葉が出そうになった時にあるものがこちらに向かっていることに気付いた。


猛スピードでこちらに向かってくる馬車。


霧が晴れたかのように頭の中がすっきりして体に力が戻る。


急いで立ち上がり、美樹の背中を押す。


「みんなに伝えて、異常事態発生だ!

何かあったらみんなで逃げて。」


戸惑いながらも走り始める美樹。


何かあった時には自分が時間を稼がなければいけない。


1本しか持ってないダガーをもって背中に隠す。


馬車は自分に近づくにつれてスピードを緩める。


その馬車からすごい剣幕の二人が出てくる。


少し腰を落として、何かあった際の悪あがきの準備をする。


2人は自分に向かってくるというよりも、何かから逃げてくるように走っていた。


「一刻も早く町を出るぞ!」


焦った大柄の男が声を張る。


「どういうことだ?」


「いいから早く連れてこい!」


そう言って馬車に飛び乗る2人。


脳裏に裏切りの三文字が浮かんだが、裏切るのならばあの逃げるような動きはおかしい。


美樹がみんなを呼んでやってきた。


みんなは戦闘態勢で駆けつける。


「マリヤ!

荷物を持ってこい!」


それを聞いたマリヤとティアさんが瞬時に荷物まで引き返していく。


エマ、美樹の順で馬車にのせて、自分は乗らずに周りを見ていた。


周りに人の気配はなく、何かが動く様子もない。


荷物を持った2人が返ってくるまであたりを見回す。


何も起こらずに2人が荷物を抱えて戻ってきて馬車に乗り、走り出す。


少し広くなった馬車の中で一息ついて、そこに座っている子供に気付いた。


馬車は夜通し走り、日が昇り明るくなってきたころに止まる。


「少し寝かせてくれ。」


そう言って馬車を降りて、寝ようとする2人に話しかける。


「いったい何があったのか説明してくれ。」


暗い表情でうつむいた男は話し始める。


「俺たちが村で起きた件をギルドに報告したんだ。

一応ギルドの荷物も運んでいるから、荷物を返す必要もあったからな。

そしたら詳しく聞きたい、なんて言われて部屋に呼ばれた。

ギルド長の部屋にだ。

そして、安全のために護衛をつけるって話になった。」


顔が青ざめていく2人


「わざわざギルドが護衛をつけるなんておかしいから断った。

そしたら、帰りにこいつが尾行に気が付いたんだ

間違いなくギルドは村の件に一枚かんでいる。」


細身の男が震えながらつぶやく。


「いったいなんてことに巻き込んでくれたんだよ・・・」


精神的に疲れ切っている様子の2人をみて、立ち去る。


「悪かった。

ゆっくり休んでくれ。」


馬車の周りからこちらを見ているみんなのもとに歩いて行く。


「少し休みたいみたいだ。

警戒しておこう、もしかしたらギルドの手先がくるかもしれない。」


少し震えているように見えるエマの肩に手を置く。


ティアさんが最小限の荷物、マリヤが子供をもって馬車を降りる。


2人から少し離れたところにみんなでまとまって座る。


自分の横に座っているエマの頭を撫でながら、細身の男が言ったことを考えていた。


また、自分が他人の人生を歪めてしまう。


ただでさえみんなぎりぎりの精神状態なのに、これ以上のことが起こっては自分も含め、みんなももたないだろう。


「俺が起きて見張ってるから、みんな寝てて」


そう言って立ち上がる。


少し一人になりたかった。


みんなと2人が視界に入るところに1人腰を下ろす。


何も考えずに様子を見ていると、マリヤが立ち上がってこっちに向かってくる。


自分の横に座って手を自分の手に重ねる。


「なんか言われたの?」


自分を見ずにマリヤが囁いた。


「ちょっとね。」


「タイチ君って結構わかりやすいよね。」


からかうように少し笑って言うマリヤにほんの少しだけいら立ちを覚える。


「そうか?」


そう聞くと、笑いながらこっちを向いてつづけた。


「そうだよー。

何考えてるかだいたいわかっちゃう。

すーぐ人の胸見るところとか。」


そう言ってきている服をつまんで下に引っ張る。


顔を動かさず目で服の動きを追ってしまう自分。


「ほらね?」


そう言って手を離して笑いだすマリヤ。


マリヤといると居心地はいいがペースは乱される。


いつの間にか微笑んでいた自分に詰めて座るマリヤ。


「ほら、1人でなんて言わないで、一緒に見張りしよ?」


つい笑ってしまいそうになるが、照れくさいのでマリヤに見えないように上を見上げて腕をマリヤの肩に回す。


さっきまで落ち込んでいた自分が嘘のように穏やかな気持ちになる。


「ちょっと待ってて」


そう言って立ち上がる。


寝ているみんなの様子を見て音を立てないように荷物の中から非常食を1つ取り出す。


その非常食と、エマを抱えてマリヤのところに戻る。


「エマが不安になるといけないから。」


そう静かに囁いて抱きかかえる。


微笑んでいるマリヤに持ってきた非常食を渡す。


「少し食べといたら?

また自分の食べ物奪い始める前に。」


少し笑ってからかうとマリヤはいたずらっ子のように笑った。


「あれはタイチ君のだからこそいいんじゃん。

タイチ君のが欲しいんだよ。」


わざわざ耳元で囁くマリヤ。


鼻で笑って、前を向く。


マリヤは少し自分にもたれかかりながら少し上を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ