野宿
ずいぶんと長い時間2人で話し合った。
実際にティアさんは試してみたが成功することはなかった。
「きっと、何か秘密があるんでしょうね・・・」
頭を抱える自分を笑顔で励ますティアさん
「しょうがないわ。
元気出しなさい。」
そう言って自分の頭を撫でる。
少しからかおうと思ったが、いやな予感がして1人見回りに行く。
テントの中をのぞく。
少しうなされている2人がいた。
起こさないように中に入り、子供の布団をかけなおす。
マリヤの頬を撫でてテントを出る。
美樹が一人で丸まって寝ているのが目に入る。
寒いだろうと思い、カバンから自分の服を一枚取り出して美樹に掛け、おでこにくちづけをする。
そしてティアさんのところに戻ろうとするとエマがいないことに気付く。
冷たい風が吹いたような気がして、風が来た方向へ向かう。
だんだんと寒くなっていく森の中。
ところどころには凍り付いた木があった。
少しペースを速めて進み始める。
だんだんと強くなっていく冷気に向かって歩いて行くとそこには氷に囲まれて座っているエマがいた。
「こんなところにいたのか。
帰るぞ。」
エマに聞こえるように大きな声で叫んだ。
「来ないで!」
村であったことが脳裏によぎる。
ゆっくりとエマに向かって歩きながらエマを落ち着かせようとする。
「大丈夫だ。
俺は死なない。」
少し腰が引けた体勢でエマににじり寄る。
「1人で寂しかったよな。
俺が来たからもう大丈夫だ。」
「来ないで!
また手が・・・」
立ち上がって叫ぶエマ、エマの感情の高ぶりに比例して寒さが厳しくなる。
少しづつ自分の髪が凍り付いていく。
「大丈夫。」
それだけ言ってさらに近づいていく。
ゆっくりとエマに触れる。
自分の手は冷たくて痛いが、凍り付いてはいない。
「ほら、少し冷たいけど大丈夫だぞ。」
そう言ってそのままエマを抱きしめる。
「落ち着け。」
自分とエマに言い聞かせるように何度もゆっくりと口にする。
エマは自分の胸に顔を埋めて泣き始める。
「お母さんが・・・お母さんが」
泣きながらつぶやくエマ。
「わかってる。」
そう言ってエマを抱きしめる力を強くする。
そのあとエマは疲れて眠るまで泣いた。
眠ったエマを背負ってみんなのところに帰ると、寝ているティアさんと慌てているみんながいた。
小声でみんなにあいさつをする。
「おはよ。」
食料を調達してくれるエマさんが寝てしまっているので持っている非常食で空腹を紛らわせて、馬車に乗り込む。
昨日と同じようにエマを膝に抱えて足を延ばす。
昨日は気付かなかったが、エマはとても軽い。
こんな軽くて小さな女の子にあんなつらい思いをさせたと思うと胸が苦しくなる。
エマを強く抱きしめると、マリヤが自分の肩に手を置いた。
「大丈夫だよ。」
耳元で呟いて背中を撫でるマリヤ。
自分が顔を上げてマリヤのほうを見ると微笑んでいるマリヤと目が合った。
車輪が石に乗り上げたようで突然馬車が揺れる。
その衝撃でエマの目が覚めてしまう。
何も言わずに微笑むとこの状況が恥ずかしいのか、また自分の胸に顔を埋める。
エマの顔を見て安心したのか急に眠気が襲ってくる。
そういえば昨日寝てない。
「お兄さん、起きてください。」
エマの声がして目を覚ます。
何か夢を見ていた気がしたが、思い出せない。
「降りますよ、お兄さん。」
エマに体を持ち上げられて、馬車から降ろされる。
見覚えのある川辺に降りて、自分は眠気を覚ますために顔を水で洗う。
「すまないが明日までここで待っててくれないか。」
大柄の男がそう言って、細身の男を前に呼ぶ。
「子供の件もあるから大変だろうが、急ぎで頼む。」
そう言って握手をする。
「今日もここで野宿かー」
マリヤが体を動かしながら言う。
「とりあえずもう少し先に泉があるからそこまで行こう。」
ここで起きたことをいろいろと思い出してしまい少し恥ずかしくなる。
自分を先頭に少し森の中を歩いて泉に着く。
この人数じゃ狭いが、さっきの場所よりかは安全だ。
偶然ギルドの関係者に見つかる可能性もある。
もう慣れてしまった野営の準備を手際よくこなしていくティアさんとマリヤ。
「今日の夜は私達で作ります。」
美樹とエマが手を上げて言う。
ティアさんとマリヤ一瞬いやそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻す。
「よろしくね。」
少し不安そうな顔で呟くティアさん。
きっと大丈夫。
「今回は大丈夫だよ!
私がしっかりつくるから。」
と美樹が胸を張って行っているし。
そうに違いない。
陽があまり入らないので暗い雰囲気の泉の周りに腰を下ろす。
まだ眠り足りないのか少し眠たい。
マリヤが自分の横に座って話しかけてくる。
「村でのことなんだけどさ、ギルドの人が魔法使いながら戦ってたの見て、あたしもできないかなーって思ったんだけど。」
「できると思うけど、やり方わからんよ。
魔法使えないし。」
少しいじわるに返す。
「ティアさんのほうが詳しいんじゃないかそう言うことは。」
確実に魔法に関してはティアさんのほうが詳しい、元教師だし。
「今ティア先生はエマちゃんのことで忙しいから・・・」
少し寂しそうにつぶやくマリヤ。
ため息をついて立ち上がる。
マリヤも自分につられて立ち上がった。
マリヤの腕を掴んでティアさんたちに向かって歩き出す。
仲良さそうに話す2人の間に割って入る。
「エマ、ちょっと来て。」
そう言って、エマと2人少し森の中に入ってマリヤが気兼ねなく話せるようにする。
「どうしましたか、お兄さん。」
そう首を傾げて上目遣いで自分を見るエマ。
あー・・・何にも考えてない。
「眠いから、寝る。」
苦し紛れにそう言って座ると、何かを察したように自分の膝に座って、自分の両手を持ち上げるエマ。
「おやすみなさい。」
エマは何もないような声でそう言って、自分の手をエマの前まで伸ばし、自分に抱きかかえられているような形になった。
もともと眠かったのに加え、エマの暖かい体温がさらに自分の眠気を増幅させる。
自分の前にいるエマに体重を少しのせて目をつぶって眠りに落ちた。
美樹に起こされた。
「何してるの!」
少し怒ったような声で自分を起こした美樹。
美樹はエマを立たせ、もう出来上がっているであろう料理のほうへと向かわせた。
「おはよ」
眠そうな声で挨拶をして、美樹に引っ張られて立ち上がる。
美樹の力は強く、バランスを崩してしまい美樹との距離が近くなる。
美樹の顔が目の前にあり、気が付くと自分はキスをしていた。
「え、ちょっ・・・」
何か言おうとして自分を押し返そうとした美樹はすぐに自分を押すてから力を抜いて自分の後ろに手を回す。
少しの間2人は食事のことも、息すら忘れて互いの唇を優しく味わっていた。
互いに少し距離をとる。
薄暗い森の中で、輝く目の前の女性は、少し細い釣り目の目じりを垂らした眼つきで自分を見つめていた。
美しい鼻筋の下に位置する細い唇は、いつもは閉まっているがこの時は開いたままだった。
2人の鼓動は密着している互いの体を伝って共鳴するように響き合っていた。
美樹は自分の体をさらに引き寄せる。
自分はそれに応じるように顔を近づけ、皿にくちづけを重ねる。
美樹の長い髪は動くたびに自分の腕をくすぐる。
そのくすぐったささえ、いとおしく感じて美樹を抱きしめる腕の力を強める。
2人の息は乱れ互いを激しく求めあう。
「ご飯食べないの?」
ティアさんが自分たちに声をかけて、2人同時に正気に戻る。
とっさに距離を取って目をそらす。
美樹は髪と服を整えて歩いて行った。
深い息を吸って美樹とティアさんを追っていく自分。
美樹が作ったとされる料理をエマから受け取る。
少し赤くなっている顔がとても熱くて、まるで熱でもあるようだ。
その目のやり場に困りながら、その料理を口に運ぶ。
それは昨日のものからは想像できないほどのおいしさだった。
「これ上手い!」
そう言って美樹を見ると、赤くなった色っぽい笑顔でこちらを見る。
その姿を見て思わず生唾を飲んでしまう自分。
自分の感想を聞いて、他の人が一斉に口にする。
「まずい・・・」
マリヤがぼそっと呟いて、それが合図化のようにみんな同時に器を下に置いた。




