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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
見えざる手
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特別授業。

朝日が昇りうなされているみんなを起こす。


眠そうな顔でしゅっぱるの準備を始める。


御者の2人と合流して、馬車に乗り込む。


狭い馬車に何とか乗り込む。


暑いしキツイ。


自分は一番奥に座り、荷物とマリヤに挟まれる。


マリヤは嬉々として体を密着させてくる。


子供は前に座り細身の男が後ろに座る。


おそらく監視のためだろう。


1人だけ少し広いスペースを取っている細身の男と、ぎゅうぎゅうに座り込んでいる自分たち。


馬車が動き始める。


エマが自分の向かいに座ってうつむいている。


狭いけど、めちゃくちゃ楽だ。


この馬車は一度ギゼルの町によって子供を下ろした後ゲルの街に向かう。


眠そうな顔で座っているエマを呼ぶ。


自分のほうに向かって少し乗り出したエマを自分の膝の上にのせて足を延ばす。


「血が止まってて、助かるよ。」


そう言ってエマを抱きかかえる。


「寝ていいよ。」


エマの頭を撫でながらつぶやく。


きっと自分に妹がいたらこんな感じなんだろうな・・・


自分の胸に顔を埋めて眠りに落ちる。


細身の男がこちらを睨んでいて、気まずい雰囲気が馬車に流れる。




辺りが暗くなってくると馬車が止まる。


馬車が止まった勢いで目が覚める。


馬車から降りて野宿の準備をする。


大柄の男に話しかける。


「明日には着きそうか?」


うなずく男。


細身の男が睨みながら怒る。


「お前らもう少し緊張感を持てよ。

俺たちがお前を裏切ろうとしたらどうするんだよ。」


裏切るやつはそんなこと言わない。


「その時はその時。」


そう言って手を振りながら皆のほうに行く。


みんながティアさんとマリヤが準備をしていてくれたテントに入り、ティアさんに話しかける。


「今日の夜番一緒にできる?

少し話があるんだ。」


ティアさんがうなずいてテントから出てマリアと食材を取りにいく。


エマが歩いてきて話しかける。


「今日一緒に寝れる?」


頭に手を置いて謝る。


「悪い、今日は夜見張りをするから先に寝ててくれ。」


そう言うとうなづいて、焚き木などを準備している美樹のところに歩いて行く。


遠目に2人の様子を見ていると、何一つ話していない様だ。


まだ気まずいんだろうな、最初の美樹を知大変だろう。


兄のように慕ってくれている自分に冷たく当たっていたんだから。


ティアさんと血まみれのマリヤが返ってくる。


「気持ち悪い・・・」


そう呟いたマリヤから肉を受け取る。


すると美樹が胸を張って歩いてくる。


「今日は私が作るよ!」


そう自信満々に言い放った美樹を心配そうに見つめるティアさん。


「了解!

タイチ君、水浴びしたいから見張りよろしくね!」


そう言って自分の腕を引っ張ろうとする。


「あら、私がやってあげるわよ。」


そう言って魔法を使うティアさん。


自分ごと洗われてきれいになる。


そして、すぐに服が渇く。


「ありがと・・・・」


落ち込んでお礼を言ったマリヤを見てティアさんに心の中でお礼を言う。


楽しくワイワイしていると、子供がこちらを見ていることに気が付いた。


「ティアさん。」


目で子供のほうへ合図する。


ティアさんが向こうに行って子供と手をつないでこっちに歩いてくる。


そのあとを追うように御者の2人も歩いてくる。


「せっかくだから、みんなでご飯食べましょう。」


ティアさんがしゃがんでその子供の顔を見ながら言った。


少し不安になって料理をしている美樹を見る。


すぐに目をそらして見なかったことにする。


食事ができたという美樹の声でみんな焚き木を囲んで座る。


自分は気付いていた。


美樹の料理を近くで見ていたエマの前には何も置かれていなかったことに。


まず、マリヤが勢いよくひと口目を口にする。


そのまま固まるマリヤ、その横に座るティアさんも一口食べた。


御者の2人も少し遅れて一口、最後に子供が口にしようとした。


「まずっ・・・・」


マリヤが感想を言ってしまう。


口に入る直前で手を止める子供。


そのあとに、食べた順に影響が出ていく。


大柄の男は険しい顔で何とかひと口目を飲み込む。


細身の男はすぐに吐き出す。


エマが苦笑いをして立ち去ろうとする。


「美樹、これ、悪くない。」


吐き気をこらえながらそう言って笑顔で美樹を見る。


この肉、火が通っていない気がする。


そして、入っている草も生臭い。


ティアさんが持ってきたのだから食べれるはず。


震える手でスプーンを口に運ぶ。


「ミキちゃん、一緒に作りなおそっか?」


ティアさんがひきつった笑顔で美樹に話しかける。


涙目で走り去る美樹とうつむくエマ。


こいつらグルか。


この2人は仲が悪いわけじゃない。


2人で料理をしていたんだ。




そのあともう一度食材を取りに行ったティアさんがもう一度料理を作るまで、美樹を慰めていた。


食事が終わると御者の二人は馬車に戻っていった。


子供はテントの中で寝るようで、一番なついているマリヤと一緒にテントの中に入っていった。


エマと美樹は互いを励まし合っている。


自分はティアさんを連れて少し離れた場所に座る。


「どうしたの?」


ティアさんの横に座って話を始める。


「ちょっと実験したいことがあって。」


「実験?」


「どうして自分に魔法が使えないのかずっと考えてたんだ。」


「それはあなたがこの世界の人じゃないからじゃないの?」


「それもそうだけど、もっと具体的な話をすると。」


この世界で起きた様々なことを考えていた。


「あの、ギルド長に会った時覚えてる?」


「ええ、もちろん。」


「あの時みんな動けなくなってたよね。」


「ええ、だけどあなたとミキちゃんだけは動けてた。」


「そう、それで少しヒントが見えた。

おそらく、自分と美樹には魔力がないんだ。

魔法が使えないのは魔力が使えないからだと思うんだ。」


「ええ、それで?」


「自分の仮説では、この世界の魔法とは、魔力を使って何かを操ったり、つくりかえたりすることだと思うんだ!」


いまいち反応が薄いティアさん


「例えばギルド長が来た時、みんなが動けなかったのは

あれはきっと人の体の中の魔力をギルド長が操っていたんだと思うんだ。」


「あんなに多くの人を同時に操ることが可能なの?」


「それならティアさんにもできるはず。

ティアさんがいつも食料を取りに行くとき、獣の位置を探るでしょ?

あれと同じことだと思うんだ。

あの日は突然雨が降り出した、きっとティアさんが風を使って獣の位置を探るように、雨を使って魔法を使っていたに違いない!」


興奮してしまい、少し声が大きくなる。


深呼吸を落ち着いて説明を始める。


「まず、魔法というものについて考えてみよう。

この世界にある魔法とは、魔力を使うことによって、何かを操作したり、その形などを変えるもの。

そしてそれを行う時に使うものを魔子としよう。

自分の世界ではこの世のすべてのものが原子というものから成り立っているとされているんだ。

原子は原子核と電子っていうもので構成されているけど、この世界ではその他にも魔力を持つ魔子が組み込まれているんだと思うんだ!」


ティアさんが付いてこれてない。


「ようするに、この世界はすべて原子って呼ばれるものからできているって考えられているんだ。

そして、この世界ではその原子ってものが自分のいた世界とは違って魔力を持っているんだと思う!」


まだ首を傾げるティアさん。


「だから、この世界には1種類しか魔法がないはずだ!

魔力を操作する、それだけのはず。」


「じゃあ、私たちが魔法で出している炎や水は?」


「錬金術だ!

錬金術とは自分のいた世界にあると言われているもので、金などの高価なものを普通の金属から作り出す術。

おそらくこの世界では、魔子を媒体に錬金術を成功させているに違いない!」


「それは、なんとなく・・・わかったけど

それがどうしたの?」


「それさえわかれば、ティアさんに使えない魔法なんてないはずだ。

ギルド長のは少し難しいかもしれないけど、やり方さえわかればティアさんならできる。」


「なんで雨魔法は難しいの?」


「おそらく、あの雨魔法はギルド長が生み出したもので、ギルド長がギルド長のために作り出したものだ。

あの魔法を使いこなすには特殊な才能を持っている必要があると思う。

例えば魔法の才能はマリヤよりティアさんのほうが上だよね?」


「ええ、そうね。」


「じゃあ、なんで接近戦ではティアさんよりマリアのほうが強いと思う?」


「わからないわ。」


「この世界の人はきっと体の中に魔力を蓄えておくことができるんだよ。

蓄えておける量は人によって違うけど。

その魔力はどこから来ると思う?」


「食べ物かしら?」


「そう、食べ物や飲み物、さらには空気まで体に取り込むものすべてだ。

それらの栄養が体を巡ってとある場所で蓄えられる。

だけど、マリヤとか見たいに魔力が低い人はきっとそこで蓄えられる量が少ないから体中を多くの魔力がめぐっているんだ。」


「だから、身体能力を上げる魔法に優れているわけね。

身体能力も魔力を操っているだけだから。」


「きっと、ギルド長は魔力が低い人だと思う。

だけど魔子を感じて操る力はきっと誰よりもうまいんだ。

だからこそ雨の中にある魔力を使って人の体の魔力を操ることができる。」


「多分理解できたわ。」


「つまり言いたかったのは、ティアさんなら条件さえそろえればあの魔法を使うこともできるし、あの魔法に対抗することもできる。」


「それはどうやってやるの?」


「対抗するのは簡単、自分の体をあの人より強い魔力で操作すればいいんだ。

あの魔法をティアさんが使うなら空気かな。

空気を使って人の体の魔力のコントロールを奪わなきゃいけない。

どうやってやるかはわからないけど。」


結局魔法が使えない自分には越えられない壁がある。


「いつか、またあの魔法と戦うことになった時にはティアさんがみんなを守ってね。」


そう言って微笑みかけたが、ティアさんは何かに集中していて聞いていない。

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