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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
見えざる手
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実戦

一週間たってやっと手が元の状態に近づいてきた。


彼女と話しながら少しづつトレーニングを始めていく。


「そういえば、なんで手治せたの?」


自分の手でダガーを握りながら聞く。


「この世界ではあたしと太一君だけだよ、治せるのは。」


「それも君の力?」


返事がなく、彼女の顔を見ると少し怒った顔でこちらを見ている。


「これも、美樹の力?」


少し詰まったが言い直すと彼女の機嫌は直って再び会話に戻る。


「うん。

私のできることの一つ。

なんでも治せるわけじゃないし、詳しい条件とかはわからない。」


他の力についても気になるが、彼女の傷口をえぐることになりそうで怖い。


「ありがと。

助かったよ。」


お礼を言うと彼女は少しうつむいた。


「太一くんはこの世界に来ない方がよかったのかもね。」


ぼそりとつぶやく彼女。


「どうして?」


「私が巻き込んだせいでこの世界に来ちゃったんだよね。

私の知ってる限り、いつも血だらけで体中も傷跡ばっかりでしょ。」


確かに、自分の体には傷だらけだ。


その中でも最もひどいのは彼女が治してくれた脚に刺さったナイフの後だ。


「確かに、自分がこの世界に来なかったらこんな目にあうこともなかった。」


彼女と自分の体中の傷を交互に見る。


「それでも、自分はこの世界に来てよかったと思ってるよ。

この世界は厳しくて辛くて泣きたくなるけど、この世界で仲良くなったティアさんやマリアに会えてよかったと思ってる。

何よりも君と仲良くなることもできた。」


笑顔でそう言ってベッドから立ち上がる。


「旅は道連れ、世は情けって言うでしょ。」


そう言って彼女の背中を軽くたたく。


「雑魚の癖に生意気」


そう言って彼女の力で自分をベッドに突き飛ばす。


笑顔で部屋を出ていく彼女を見送って、トイレに行くためにもう一度立ち上がる。


せっかく立ち上がったのにベッドまで飛ばすんだからひどいよな。


「盗み聞きはよくないよ。」


壁の向こうで聞いているエマに話しかける。


「私は、お兄さんのこと大切だと思ってますよ。

私はお兄さんのこと雑魚だなんて思ってないですし。」


エマの頭に手を置いて乱暴に頭をなでる。


「ありがと」


そう言ってトイレに急ぐ。




エマが暴走してから、ティアさんはエマに魔法の授業をしているようだ。


自分はマリヤと訓練。


彼女はアイラさんに料理を教わっている姿を見た。


どうやらエマさんはティアさんに憧れを抱いていたようだ。


エマに一度聞いた時、ティアさんについて熱弁していた。


「ティアさんは今世界で最も魔力の高いと言われている人なんです。

さらに、魔法の才能では右に出る人がいないとまで言われているんですよ!」


ティアさんはそれを否定していた。


魔力は高いけどそれだけで誇れることじゃないって。


おそらく、ティアさんならエマの力になれるはずだ。


「休憩終わり!」


マリヤの声が聞こえる。


今自分はマリヤと森の中の開けた場所で打ち合いをしている。


マリヤが訓練用の剣を構える、そして自分は2本のダガーを。


「行くよ。」


真剣な顔で呟いてとびかかってくるマリヤ。


マリヤは両手で持った剣を振りかぶり右から切りかかる。


右手のダガーでその剣を受ける。


マリヤの剣を抑えたまま、右脚を軸に体を回して左手でマリヤの体に攻撃をする。


しかしマリヤは自分の背中に体当たりをして自分の体勢を崩す。


マリヤの剣が振り下ろされるが、体をマリヤのほうに向けて、右手のダガーで受け流す。


マリヤの腹部に右足で蹴りを入れる。


マリヤは蹴りを受けるが、びくともせずに剣を下から切り上げようとする。


左足で思いっきり地面を蹴ってマリヤを踏み台にして空中で一回転しながら距離をとる。


少しバランスを崩したマリヤは剣を構えなおして近づいてくる。


マリヤはこちらに向かってきた勢いを剣にのせて突きを放つ。


それをなんとかダガーで受け流すが、マリヤがそのまま自分に体当たりをする。


剣を受け流すことで体勢を崩していた自分はその体当たりで地面に倒れる。


そのままマリヤは自分の上に飛び乗って舌なめずりをする。


両手を上げてダガーを落とす。


「降参したなら私の好きにしていいんだよね?」


マリヤがほざく。


マリヤはそのまま体を密着させて、自分にキスをしようとする。


その隙にダガーを拾ってマリヤの首にあてる。


「俺の勝ち。」


笑顔でそう言うと、マリヤは自分を見つめてそのまま顔を近づけてくる。


マリヤのめんどくさいところはこういうところだ、すぐにスイッチが入ってしまう。


特に体を動かしたり、自分がマリヤに暴力をふるうと眼つきが変わって、捕食者の眼つきになる。


「んんんん!」


唇を奪われながらもマリヤを止めようとするが、力ではかなわない。


結局そのあと5分ほどキスをされて、状況がひどくなる直前に、エマが自分たちを呼び出した。


「お兄さん!マリヤさん!」


エマの声からは緊張感が感じられ、それを察したのかマリヤはすぐに起き上がる。


「村にギルドの人がやってきました。

今すぐ逃げてください!」


息を切らしながらそう言ったエマに連れられて、荷物を取りに家に戻る。


マリヤの部屋に行き、遠目に村の様子をうかがう。


そこにいたのは2人組で、白い髪が特徴的な男と茶髪で長身の女性。


すぐにティアさんと彼女と合流して脱出を試みる。


裏口から出るとそこには黒髪の女性が立っていた。


「タイチ、ミキ、話を聞かせてもらう。」


そう言って黒髪の女性は戦闘態勢に入る。


その女性は左手に小さな盾をつけていておそらく武器は持っていない。


魔法による攻撃だろう。


この世界では、魔法を使えるもののほうが圧倒的に強い。


マリヤはとても強いが、決してティアさんに勝つことはできない。


距離を詰める前にやられてしまうからだ。


彼女のほうを見てうなずく。


時分が黒髪の女性の元まで歩いて行く。


「それが話を聞きに来た人の態度か?」


わざと威圧するようにゆっくりと歩く。


その女性は目で何かを合図して自分に向かって魔法を唱える。


しかしその魔法は自分の前に突如できた氷の壁に阻まれた。


「エマ!やめろ!」


そう言ったころには黒髪の女性とその後ろにいた男たち全員が凍っていた。


「私が皆さんを守ります。」


そう言ってエマは笑った。


気が付くとさっき村のほうにいた2人組が家の中を通ってこちらに向かっていた。


全員がそちらに気を取られ、凍っている人たちから気をそらした瞬間に、すべての氷が消えていた。


「あいつら、ヤバイ。」


そう言って武器を構えるマリヤ。


「タイチ、ミキ話を聞きたい。」


白い髪の男がそう言った瞬間にティアさんが魔法を放つ。


長身の女性がその魔法をかき消して向かってくる。


右手に剣を構えてティアさんにめがけて振り下ろした。


その女性の剣を受けるマリヤ。


しかし、マリヤが立っていた場所に突如穴が開いてマリヤが体勢を崩す。


自分が女性に突撃するが、左手で投げ飛ばされ、家の壁にぶつかる。


その女性の上から火球が降り注ぐ。


その火球を振り払った女性は左手をティアさんに向かって出した。


しかし、地面から現れた土の腕に足を掴まれて地面に引きずり込まれていく。


その一瞬の隙をついてマリヤがその女性の意識を刈り取った。


それを見ていた男が


「ずいぶんと好戦的ですね。」


とつぶやいた。


「始めたのはそっちでしょ!」


ティアさんがそう反論する。


背中の痛みに耐えながら落ちたダガーを掴みその男に向かっていく。


自分の目の前に腰の高さほどの壁ができる。


それを飛び越えたが、その隙に何かが自分にあたり吹き飛ぶ。


今度は外にまで吹き飛ばされた。


すぐに戦線に戻ろうとすると男に向かってエマが走っていった。


「うわぁぁぁぁぁ!」


叫びながら右手を男に向かって突き出す。


エマの右手の先にいたものがすべて凍り付く。


思わぬ助っ人に助けられて安心すると村から悲鳴が聞こえた。


全員で家を飛び出して村に向かう。





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