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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
見えざる手
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冷たい部屋。

体がとても重く感じ目を覚ます。


マリヤが自分の頭をなでていた。


自分が起き上がると、マリヤも体を起こす。


「おはよ。」


外とは対照的に明るいマリヤの声がする。


「どれくらい寝てた?」


「1日」


そう答えたマリヤは急いで部屋を出ていく。


寝すぎたのかボーっとしている頭を横に振って目を覚ます。


立ち上がって欠伸をすると、扉が開いてティアさんが部屋に入ってきた。


「やっと起きたの?

寝すぎよ。」


少し不機嫌なティアさんにあいさつをして、下の階に降りる。


「おはようございます。」


下の階にいたアイラさんとエマにあいさつをする。


「おなかすいてませんか?」


あいさつをする前に尋ねるエマ。


「腹ペコ。」


笑顔で返す。


マリヤが奥の部屋から出てきた。


「私もペコペコ!」


マリヤと入れ替わるようにトイレに向かって用を足して、テーブルに向かう。


アイラさんが作り置きしてくれていた冷めてしまった料理を2人そろって食べる。


ティアさんは何一つ口にしなかったが、下の階にいた。


食事が終わり、ティアさんに話しかける。


「どうしました?」


「ちょっといい?」


ティアさんを連れて、自分が使っている部屋に入る。


ティアさんがベッドに腰かけて、自分は壁にもたれかかる。


「タイチ君も起きたみたいだし、明日からどうする?」


それについても考えなければいけない。


この村にずっといるわけにもいかないし、何よりアイラさんにお世話になり続けるわけにもいかない。


しかし、今の自分がどこかの町に行けるほど体力がないこともわかっている。


「この村に近い町はあそこしかないんですよね?」


暗い表情でうなずくティアさん。


馬車か何かを調達することができればよいのだが・・・



「ちょっと考えてくるよ。」


そう言ってティアさんを残して部屋を出る。


下の階に行き、エマを探す。


アイラさんは座って何かを読んでいて、その後ろで食事の後片付けをしているマリヤにお礼を言う。


「アイラさん、エマはどこにいますか?」


返事をすることなく指をさすアイラさん。


「エマ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


その指の刺す方へ歩いて行きエマに話しかけながら扉を開けると、一気に冷気が流れ込んでくる。


驚いてすぐに中に入って扉を閉める。


その部屋は暗く、とても寒かった。


手探りで進んでいくと、とても固くて冷たい何かに触れた。


「氷・・・?」


その部屋には自分よりも大きな氷があふれていた。


「こちらです。」


エマの声が聞こえて、その声に向かって歩いて行く。


自分の手が何か暖かく柔らかいものに触れる。


「ひゃっ」


エマが声を上げる。


「あ、ごめん。

今、エマに触った?」


「そうです、触りました。

いきなり冷たい手で触らないでください。」


そう言って自分の手を払いのけるエマ。


「ごめん、何も見えなくて。

ちょっと話があるんだけどいいかな?」


おそらくエマがいる方向を向きながら話す。


「ええ、どうぞ。」


「え、このまま話すの?

何も見えないんだけど。」


「はい。

何か不都合でもありますか?」


いや、ないけどさ。


「まぁいいや。

この町でさ、馬車か何か手に入らないかと思って。」


「もう行くんですか?」


「うん。

あんまりアイラさんに迷惑かけられないし、エマも嫌だろう、家に他人がいたら。」


そう言うと自分の手をまるで氷のように冷たい手がつかむ。


その冷たい腕に引っ張られてその場に倒れこむ。


「私は構いませんが。」


目の前からエマの声が聞こえる。


そこに月明かりが差し込みエマの顔を照らす。


自分の白くなっている息が顔に当たる距離にエマの顔があった。


「ごめん、バランス崩しちゃって。」


そう言って立ち上がろうとする自分の腕を掴むエマ。


「行かないでください。」


そう言って自分の首に手を伸ばすエマ。


自分の首に触れるエマの手はとても冷たい。


「もう少しでもいいので、ここにいてください。」


そう言ったエマの顔はとても寂しそうな顔をしていた。


「もう少し、落ち着いて話をしようか。」


何とか作った笑顔でそう言うと、急に部屋の中に月明かりが差し込んで少し周りを見えるようになる。


自分はその場に座ってエマのほうを向く。


首から上だけが見えるエマは自分と距離を開けて座った。


そう言えばまだ、ちゃんと謝ってない。


「挨拶もなく村を出てすまなかった。」


エマの顔を見て謝る。


あのままここいてはだめだ、思ったのだ。


「少しでも自立したくて出て行ったんだ。」


「その結果3人に養われることにしたの?」


鋭い・・・・


「いや、それは成り行きというか、えーっと。」


あの3人とは比べ物にならないくらいしゃべりづらい。


まるで最初のころの美樹の様だ。


「とにかく、悪かった。」


少し笑ったエマ。


「一応ギルドから追われてるみたいだから、あまりここにいると迷惑がかかる。

だから少しでも早くここを出たいんだ。」


「追ってるのがギルドなら何とかなる。

だからここにいて。」


どうにかなる?


エマがギルドで働いていると言ってたが、自分たちをかばってくれるつもりか?


「いや、それは・・・」


「いいから。

私が何とかする。」


語尾を強めるエマ。


なんか少し怖い。


「み、みんなと相談します。」


そう言って部屋を出ようとする。


「寝る前にここにきて。」


「はい。」


そう答えながら部屋を出ようとするが氷にぶつかる。


何度かぶつかりながらも部屋を出ると、そこはとても明るくて暖かく居心地のよい部屋だった。


アイラさんに頭を下げて、上の階に上がる。


彼女の部屋にノックをして扉の前で話す。


「後で、マリヤの部屋まで来て。」


そう言って横のマリヤの部屋に入る。


窓から外を眺めていたマリヤはこっちを向いてすぐに外へと顔を戻した。


「大丈夫?」


そう言ってマリヤの肩に触れる。


「ひゃっ!」


少し色っぽさを含んだ声を上げて飛び上がったマリヤはこっちを見た。


「冷たっ!」


先ほどまで氷に囲まれていたことを忘れていた。


「悪い。」


謝りつつ一歩下がる。


そこにティアさんたちが来た。


何かを言おうとしたマリヤはその口を閉ざし、ベッドに腰かけた。


ティアさんと彼女は椅子に座ってもらう。


「エマと話してきたんだけど、エマは自分たちにここにいてほしいそうだ。」


「駄目よ、危険だわ。」


ティアさんが素早く返してくる。


「でも、他の町に行くことも不可能でしょ?」


マリヤが首を傾げながら聞く。


「自分は、馬車を手に入れたいと思うんだが、手に入るまでの間はここで過ごすのが得策だと思う。」


「馬車があればいいのは確かだけど、手に入れるってどうやって手に入れるつもり?」


「この町にはだいたい30日に1回くらい町から荷物が届く、次来た時に用意できないか頼んでみよう。」


そう言うが、納得していなさそうなティアさんがさらに尋ねてくる。


「お金は?

私ももうそんなにないわよ。」


マリヤと彼女も同様だ。


「この町にはギルドがあるなら何とかならないか?

馬車がこっちに届くまでにそろえればいいなら不可能じゃないと思うんだが。」


不満そうにうなづいたティアさん。


「この意見でいいと思うなら、アイラさんに話してこようと思う。」


しぶしぶうなずくティアさんと普通にうなずく2人を見て部屋を出る。


下の階に行ってアイラさんに話をする。


「アイラさん。

少しお話が。」


そう言って椅子に座ると、読んでいた本を置いてこちらを向くアイラさん。


「申し訳ないのですが、あと2か月ほどこちらに置いていただけませんか。」


「あたしは別にいいけど、あの子に聞いたかい?」


「エマにはこれから言おうかと・・・」


「そうかい。あの子次第かね。」


そう言って、再び本に目を戻すアイラさん。


自分はゆっくりと、エマの部屋に向かって歩いて行った。

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