睡眠
アイラさんに事情を説明する。
自分の世界のことやティアさんの件は隠しているが、だいたいのことを話すと、自分と彼女は前の部屋に泊めてくれることになったが、他には部屋がないと言って困っていた。
「ティアさんは彼女と一緒の部屋で、自分はマリヤと一緒でいいです。
自分は持ち物の中から布団になるもの使って床に寝るので。」
目を輝かせて、その案を通そうとするマリヤ。
しかし、自分とマリヤ以外全員が反対する。
「しかし、美樹は自分と一緒の部屋なんて死んでも嫌だろうし、マリヤよりかはティアさんのほうが落ち着ける。
これが一番効率的だ。」
「そうです!
私はタイチ君と寝ることになんの抵抗もないので一緒の部屋でいいですよ!」
嬉しそうに付け加えるマリヤだが、一緒に寝るつもりはない。
「お兄さんは私の部屋で寝ればいいのでは?」
突然の提案に動揺するマリヤと、それ以上に慌てる自分。
「いや、いくら何でもそれは・・・・」
そう言う自分と驚いているアイラさん。
ティアさんと彼女はもう2人で1つの部屋になることが決まっているのであまり口を出さない。
マリヤはとにかく慌てていた。
「しょうがない。
タイチ君の部屋はその子が使いな。」
そう言ってマリヤを指さすアイラさんととても嬉しそうに返事をするマリヤ。
「タイチ君は違う部屋を用意するからここで待ってな。」
そう言って、自分とエマを残して上の階に上がっていく。
泣きそうな顔でこっちを見つめるマリヤとそれをうれしそうな顔で見るティアさんに手を振って見送った。
「お兄さんはどなたとお付き合いをしてるんですか?」
「別に誰ともつきあってないよ。」
年頃の女の子だからなのか、自分たちの関係に興味を示したエマにそう返すと。
「皆さん、お兄さんのことが好きなのに?」
え?そんなはずはない。
「それは間違ってるよ。」
そう言って席を立つ。
エマが何を言おうが、自分はみんなが好きだ、その気持ちに上も下もない。
少しイラついた自分をたしなめながら上の階に上がる。
「アイラさん?」
少し大きな声で呼びかけると、階段を上がって右手の部屋から自分を呼ぶ声がしてその声のする方へ向かう。
扉を開けて中に入るとそこには前の部屋より少し広い部屋があった。
「タンスとかはいろいろ入ってるから、悪いけど、自分の部屋のを使って。」
そう言うアイラさんにお礼を言ってベッドに飛び込もうとするが、自分が汚いであろうことを思い出す。
この村では魔法を使う人が少ないので、水浴びをするためには水を用意しなければならない。
ため息をついて立ち上がり、荷物をもって部屋を出る。
部屋をノックする。
「誰ー?」
扉越しにマリヤの声がする。
「太一です。」
そう答えると入ってと言われ部屋に入る。
荷物を机に出して整理していた。
「悪いね、自分の部屋で、その上、タンスとかは自分と共有。」
そう言うと、マリヤはこちらを見ずに軽く返事をしていた。
マリヤは忙しそうなので、もう一つの椅子に座ってマリヤを眺める。
どうやら着替えたようだ。
一生懸命装備のメンテナンスをしている姿を見て再確認する。
マリヤはとても美しい。
黙ってさえいれば。
マリヤの顔を見つめていると、それに気づいたマリヤは手を止めて、顔を上げる。
「どうしたの?」
そう首を傾げるマリヤを見て少し胸が高まる。
前より女っぽくなったマリヤは昔と同じ中性的な顔立ちの中にどこか女性らしさを纏った表情や言動で以前よりも、そして、日々魅力的になっていく。
「もうずっと水浴びしてなくて汚いだろうから、さすがに水を浴びたいんだが力を貸してほしくて。」
嬉しそうな顔で呟くマリヤ
「洗ってほしいの?」
「もう隠さないんだな。」
マリヤの顔を見ながらつぶやく。
マリヤはいつもより魅力的な笑顔で笑った。
「恋する乙女だからね!」
微笑みながら立ち上がる自分とそのあとをついてくるマリヤ。
ゆっくりと階段を下りていく。
エマはまだそこに座っていた。
「こんなとこで何してるんだ?」
そう声をかけると自分たちに一礼して家を出ていく。
思春期だろうに、こんなに人がやってきたら迷惑だろうろうな。
階段を降り終わって、外に出て森へと向かう。
マリヤもいるしあまり人目につかないところがいいだろう。
ある程度人気のないところに来て、マリヤに確認する。
「このあたりなら大丈夫か?」
マリヤはうなずいて目をつぶって魔法を唱える。
そして大きな水の塊を空中に浮かべた。
「頼む。」
そう声をかけるが、なかなか水をかけようとしない。
真剣な顔で何かをやろうとしている。
少し待つとあきらめたように水をかけ始めるマリヤ。
少し自分にかけて、同じ量をマリヤ自身にかける。
「おい!お前・・・」
そうだ、こいつはこういうやつだった。
わざわざ着替えたのはこうなるのを予想していたのだ。
濡れた服からはマリヤの体が透けて見え、マリヤの体に張り付いていた。
目を閉じるとマリヤが近づいてくる。
足音を聞いて目を開けると先ほどよりも近くにいるマリヤ、手を飛ばせば届いてしまいそうだ。
近くに来た分体もよく目に見えてしまう。
「すまない。本当に疲れているんだ。」
そう呟くと、詰まんなさそうな顔をして何かを思いついたように口を開いたマリヤ。
「もし、邪魔せずに水浴び手伝ったら言うこと1つ聞いてくれる?」
「簡単なものなら。」
そう言うと気持ち悪いくらいに素直に協力するマリヤ。
その後もイタズラせずに服を乾かす。
少し目線が気になったがそんなものにツッコんでいる体力はない。
やけに協力的なマリヤのおかげで、きれいになった体で家に帰る。
ゆっくりと階段を上がる。
少しづつ体の痛みが戻ってくる。
まだ気力があるうちに何とか階段を上り終えて、マリヤに手を振って部屋に帰ろうとする。
マリヤはそんな自分を呼び止めて
「部屋に来て。」
と言って、自分の腕を掴んで部屋に向かう。
疲れてふらふら歩きながら連れていかれる自分。
「マリヤ、今は本当に・・」
小言を言い続ける自分を無視して部屋に入ると扉を閉めてベッドに押し倒す。
「一緒に寝るよ!」
満面の笑みで呟くマリヤ。
「いや、」
反論しようとするが
「約束。」
と言われ帰らせてもらえない。
疲れが言下に達して、瞼が重くなる。
マリヤが自分の横に寝転がって嬉しそうに服を脱ぐ。
何か言おうとしたが、頭の中がだんだん白く塗りつぶされていき自分を抱え込むマリヤの胸に抱かれて眠りに落ちた。




