帰宅。
冷たい風が吹いて自分は目を開ける。
目の前には凍り付いた世界が広がっていた。
まるで一緒に凍り付いたかのようにその場に固まる自分とティアさん
横腹が突然の痛みに襲われる。
痛みに悶え声を上げるとティアさんが心配して駆け寄ってくる。
とっさに手を当てようとすると、かまれた部分が凍っていた。
「触らないほうがいいと思いますよ。」
暗闇から声が聞こえてティアさんが震えた手でダガーを掴む。
「武器を下ろしてください。
敵意はありません。」
そこには160㎝ほどの女の子が両手を軽く上げながら立っていた。
その顔を見て安心した左手でダガーを握るティアさんの手を下に下ろして自分は体から力を抜いてその場に倒れる。
「久しぶり、大きくなったね。」
そう言って倒れこんだ自分を見てその女の子は目を大きく開いてつぶやく。
「え!?
嘘!!」
ティアさんは自分を動揺した様子で自分を見ている。
「こちらはティアさん。
そして、今助けてくれたのがエマ。
今ちょうど向かっている村で自分を助けてくれた女の子だよ。」
ティアさんが呼んできた2人と合流して、一度テントを張ったところまでエマを連れて戻る。
エマは彼女を少し睨んで、マリヤとティアさんにあいさつする。
「近くの村のギルドで働いている、エマと言います。」
そう言って頭を下げたエマは、自分が知っている人物とは別人のようだった。
少し伸びた身長と、あの時よりかなり大人びた態度。
大人びたというよりも、冷たい。
それにさっきの魔法もそうだった。
自分が知っているエマの魔法はもっと雑で、時間がかかるものだ。
それをあんな瞬時に発動して、その場にいた自分やティアさんを凍らせずに獣だけをピンポイントで凍らせていた。
エマのティアさんを見る目は少し輝いている様にも見える。
エマが2人にあいさつしている間に彼女がこっそり自分に近寄ってきて腹部に手を当てる。
痛みが消えて行ってとても楽になる。
「ありがと。
でも、いったい・・・」
彼女に聞こうとするがすぐに立ち去ってしまう。
エマとティアさんが少し話をしていると、マリヤが近寄ってくる。
「いったい何があったの?」
寝転がっている自分の顔の横にしゃがんでそう尋ねる。
少しからかおうとしてる気がする。
反対方向を向いて答える。
「ティアさんと話してたら拘束されて逃げられた。
そのあとはマリヤの知ってる通り。」
できるだけティアさんのことには触れずに答える。
マリヤが自分をテントに持って行って、テントの中の彼女に言う。
「ちょっと2人で話したいから失礼してもらえる?」
笑顔でそう言ったマリヤだが、目は笑っていない。
彼女が自分の顔を見て、思いっきり首を横に振る自分を見た。
目と首から上を使って全力で助けを求めるが彼女は一瞬立ち止まったあと出ていく。
自分を寝かせたマリヤは自分に馬乗りになって尋問を続ける。
「何が、あったの?」
血だらけになった自分の服を自分の持っていたダガーで切り裂いて脱がせる。
マリヤも寝ころんで自分に体を密着させる。
「教えてくれないと、イタズラしちゃうぞ。」
耳元で囁いて自分の首筋に歯形をつける。
「マリヤ、最近ひどすぎるぞ。」
少し怒った声で注意をして、マリヤを引きはがそうとする。。
マリヤは自分の顔を一瞬見つめ、力づくで体を引き寄せ耳元に顔を近づける。
マリヤの吐息が耳にかかる。
「仲間と見張り番をしているはずの人が、ズボンを脱いで何をしていたのかな?」
そう言って、手を中に滑り込ませる。
だんだんと表情が変わっていくマリヤ。
「わかった、言うから。」
そう言うと満足そうな顔で自分と距離を置く。
「いつも通り手をつないでいたら、ティアさんが自分にキスをしてきたんだ。
気が付いたら、手も足も縛られていて自分のズボンをティアさんが脱がしてそしたら急に吐き始めた。」
「ティアに何か変なこと言ってないよね?」
いつもより冷たい声のマリヤ。
「言ってない」
自信満々に答える。
「じゃあ、ティアと何を話したの?」
「いや、ティアさんならマリヤと違って安心できるねって。」
それを聞いたマリヤはすごい形相でうなだれた後立ち上がって外を指さす。
「謝ってきなさい。」
「え?」
「いいから!」
いつになく怒っているマリヤから逃げるようにテントの外に出る。
いつもならあのまま襲い掛かってきそうなのに・・・
まだエマと話していたティアさん。
2人の間に入って、少しの間ティアさんを借りる。
「ごめんなさい。
自分のせいであんな行動にでたんですよね?」
とりあえず謝った。
ティアさんは疲れ切った表情で微笑んで、自分を抱きしめた。
「ごめんね。」
そう一言だけ震えた声で呟いて、そのあとすぐにテントに戻っていった。
エマのところに行く。
「久しぶり。」
気まずいが話しかける。
エマも少し気まずそうにうなずいた。
「久しぶり、ですね。」
「強くなったんだね。
助けてくれてありがと。
前もすごかったけど、もっとすごくなってたね。」
そう微笑むと自分に飛びついてくるエマ。
エマを支え切れず2人して倒れてしまう。
「ごめんなさい!」
驚いて飛び上がるエマ。
「悪いんだけど、この氷どうにかしてくれないかな?
もう大丈夫だから。」
エマは眉をしかめて傷口を氷越しに見る。
「そんな・・・ありえない・・・」
そう呟いた後うつむきながら
「ごめんなさい。
私は氷の魔法しか使えなくて。」
と申し訳なさそうに言う。
この状況でティアさんに頼むのか・・・・
「気にしないで。」
そう笑顔で言うが気まずさから心の中でため息をつく。
「ここから村まではどれくらい?」
「そんなに遠くはありませんが、明日出発のほうが良いかと思います。
皆さんの疲れを考慮すると、夜中の行動は避けたほうがよいでしょう。」
かっこいい話し方をするエマを見て驚く。
「すごい、大人っぽくなったね。」
そう言うと、少しふらついてしまいエマの肩にもたれる。
エマはとっさに手を自分の肩にのせて支える。
「早く休んでください。
明日の朝になったら起こします。」
そう言って自分を抱えて木の根元まで運ぶエマ。
自分を座らせてその横に座る。
横に座ると、エマの小ささが目立ってしまう。
木にもたれる前に、意識が遠くなっていく。
目が覚めて目を開けると、エマの顔が自分を覗き込んでいた。
「おはようございます。」
そう呟いたエマにあいさつをして起き上がる。
自分が立ち上がると、エマは膝をぱんぱんとはたいて立ち上がった。
「皆さんはもう荷物をまとめています。
もしよければ行きましょう。」
うなずくが、どうも調子が悪くふらついてしまう。
「私が運びます。」
そう言って、160㎝ほどの少女に背負われる180越えの男。
恥ずかしい。
エマの肩に手を乗せると、あることに気づく。
「ずいぶん厚着だなー。」
おそらく何枚も着ているようで、肩に置いた手は少し沈み込む。
「ええ」
返事も冷たく、まるでロボットの様だ。
ティアさんやマリヤの様子も見に行きたいが自由に動けないのであきらめる。
そして、おそらく彼女はエマには近寄ってこないだろう。
警戒心が高いうえに前お世話になった時にもあまり仲良くなってはいなかった。
エマに揺られていると、昼前には村についてしまった。
自分が歩いているときよりも早い。
自分がいかに足手まといであったかを再認識して少しへこむ。
あまり目立たないようにアイラさんの家に入るエマ。
おそらくティアさんに事情を聴いたのだろうか。
エマがアイラさんの家に入ると、すぐにアイラっさんが飛んでくる。
「どこ行ってたの!?」
そして、背負われている自分とその後ろの人たちを見て、固まるアイラさん。
照れくさそうに頭をかきながら
「ただいま」
というが返事はなかった。




