お礼と暴走。
朝になると既に雨は上がっていた。
雨の中一日休んだ自分たちは朝早くに村に向かって進み始めていた。
まだ暗く足元の悪い森の中を四人で進んでいく。
昨日の夜彼女と話した内容について考えながら自分は歩いていた。
見張りを初めて少しの間は2人ともしゃべらずにテントの中にいた。
少し気まずく感じた自分は彼女の横顔を見てつぶやいた。
「巻き込んでしまって本当にすまなかった。」
そう呟くとため息をついてこっちを向いた彼女。
「しつこい。
気にしてないよ、そんなの。」
最近特に口数が少なかったので、怒っているのかと思っていた。
「ごめんね、最近少し不愛想だよね。」
自分の気持ちを察したのか謝った彼女。
「何か力になれることがあれば力になるよ。」
彼女の瞳を見つめながら真剣に言った。
「私よりも弱い人に言われてもね。」
嬉しそうに笑いながら言った彼女は、まるで少女のような笑顔でこちらを向いて、
「でも、ありがと。」
そう呟いた。
思わず顔をそらして森に目を向けてしまう自分。
「太一はさ、この後どうなると思うの?
ずっと隠れて生きることになるのかな?」
おそらく彼女は普通にあこがれているんだと思う。
「絶対に何とかしてみせるよ。
みんなが幸せに暮らせるように。」
自分に言い聞かせるようにそう言った。
彼女は少し暗い顔でうなずく。
「まぁ、期待せずに待ってるよ。」
そう言って静かに森見つめていた。
自分が起こした行動が多くの人の人生に影響を与えてしまっている。
ティアさんの件もそうだし、今の状況もそう。
ぬかるんでいる道を足を踏み外しそうになるが、なんとか踏ん張って体制を整える。
自分の分の荷物まで持っているマリヤが心配そうにこっちを見るが笑顔で手を振って足を動かす。
あと数日で村につくはずだ。
その日の夜はマリヤと2人で見張りになった。
テントの中に2人で入る。
マリヤが前のように自分を膝に寝かせようとするが、それを断り、マリヤにはその場にうつぶせに寝てもらう。
「ティアさんに聞いた。
前マッサージもしてくれたんだって?」
少し焦りながら答えるマリヤ。
「い、いや、疲れてるかなーって思ってね!!」
別に怒ったりするわけないのに・・・
そう思いながら伝える。
「今日はお返しをするよ。
うつぶせになって。」
そう言うと、マリヤは顔を真っ赤にしながら裸になろうとする。
「なんで脱ぐの!?」
焦ってマリヤを止める。
マリヤは驚いた顔でこちらを向いて
「ティアにどこまで聞いたの!?」
と聞いてきた。
どこまでって・・・どういうことだ?
「いや、普通にマッサージしてくれてたとだけ、」
首を傾げながらそう答えると安心したようなマリヤが肌着だけを着てうつぶせに寝ころぶ。
「なんだったら、前もマッサージしてくれていいんだよ。」
急にいたずらっぽく話し始めるマリヤ。
「タイチ君大好きだもんね。」
「ちょっと何を言ってるかわからないです。」
早口で返す。
「いっつも目で追ってるの気付いてないと思ってる?」
寝がえりを打ってこっちを向くマリヤ。
マッサージをしようとしている自分をマリヤの肩と足に手を置いて転がす。
再びうつぶせになったマリヤに馬乗りになってマッサージを始める。
時々肌着から見えてしまうマリヤの肌に目が行ってしまうのを悟られないように話しかける。
「マリヤはティアさんより魔法で体を強くするのがうまいんだよね?」
マリヤはとてもリラックスした声で
「そうだよー」
と返事をしている、
マリヤの腰を体重を乗せながら指圧する。
「こんなこと初めてしてもらうよ。」
わざと色っぽく言うマリヤを無視して会話を続ける。
「魔法の才能だとティアさんのほうが上なんだよね?」
「んー」
マリヤが気の抜けた返事をする。
少し指の位置を上に移動しながら考える。
それっておかしくないか?
魔法を使って体を強くしているのに、魔法の才能があるティアさんよりマリヤのほうが強いなんて。
体重をかけてツボを押す。
「あぁー」
マリヤの口から声が漏れる。
少し肌着をめくって腰のマッサージを続ける。
雨の止んだ森には音がなく、自分が動いて布がこすれる音だけがテントに響いていた。
上に移動して、肩甲骨周辺のツボを刺激する。
マリヤが時々わざとらしく声を出す。
「んっ」
「あっ」
そんな声だけが聞こえるテント内で肩にもマッサージをしていく。
「マリヤ。」
変な雰囲気を変えようと声をかける。
「んっ?」
少し語尾を上げながら返事をするマリヤ。
「荷物もってくれたりとか、いつも本当にありがと。
マリヤがいてくれてよかった。」
雰囲気に少し流されているのか本心が出てしまう。
マリヤはほかの2人よりも居心地がいい。
マリヤの明るさや、少し大雑把な性格にはいつも助けられている。
それを聞いたマリヤは急にその場で寝がえりを打ってこちらを見る。
その眼には見覚えがある。
ヤバイ。
そう思って立ち上がろうとするが、その前にマリヤに肩を掴まれる。
マリヤはすごい力で自分の体を引き寄せる。
「マリヤ、ちょ」
言い終える前にマリヤの唇に塞がれる。
マリヤの力はとても強く自分では引きはがせない。
マリヤは自分の口の中に舌をねじ込み、自分は驚いて声を出そうとする。
「んんーーーー」
マリヤはそんな自分など気にせずに左手で自分の体を捕まえたまま右手を下に伸ばす。
「んん!んんーーー!!」
自分の声が一層大きくなり、もう一つのテントからティアさんが叫びながら飛び出してくる。
「どうしたの!?」
ティアさんのほうを見ようとするが、マリヤは自分の顔を逃すことはなく舌を絡ませ続け、その左手を滑り込ませる。
「んんんんん!んんんん!」
必死にティアさんに助けを求めるがティアさんは物音一つたてずに立ち尽くしている。
ティアさんの叫び声で起きたのか、少し遅れて飛び出してきた彼女はテントの中で絡み合う自分たちをみて悲鳴を上げる。
そして自分は真上に吹き飛ばされて、テントを壊して空中に浮く。
森を抜け久しぶりの空に包まれて、森のどこかが明るく光っているのをみて勢いが弱まる。
そこから落下が始まり、枝や葉が自分の体に切り傷をつける。
切り傷だらけになる自分の目の前にものすごいスピードで迫ってくる地面。
死を覚悟して目を閉じる。
急に何かに吹き飛ばされて少しだけ上に上がる自分の体。
すごい衝撃で体中にとても鋭い痛みが走る。
そして自分の体は地面に落下する。
先ほどとは違い鈍い痛みが体を襲い意識を失う。
「タイチ君!!」
ティアさんに肩をゆすられて目を覚ます。
彼女が真っ赤な顔で呟く。
「ごめんなさい。」
マリヤはテントがあった場所でボーっと右手を見ている。
「大丈夫?」
ティアさんが心配そうな顔で覗き込む。
柔らかいものを枕にしていてすぐ上にはマリヤさんの顔などが見える。
「大丈夫。大丈夫。」
ふらつきながらティアさんの肩を借りてつぶやく。
「つけられてる、行かないと。」
「え?」
驚いて理解できてない2人に言う。
「焚き木の灯が見えた。
夜のうちに行こう。」
そう言うとティアさんはすぐにテントに帰っていった。
テントから敷物へと変貌してしまった場所に座っているマリヤを正気に戻さなければ。
「マリヤ!」
肩を掴んで名前を呼ぶ。
マリヤはハッとしてまっすぐ自分の方向を見つめてすぐに見上げて自分の顔を見る。
「行かないと!」
マリヤは手を伸ばし、自分の腰をつかみ何かをしようとする。
頭を全力で叩いてもう一度言う。
「行かないと!
追手が来てる!」
それを聞いたマリヤは手を離し飛び上がって荷物を掴んだ。
自分は敷物を拾って丸める。
ティアさんたちと合流していつもよりも周囲に気を付けながらゆっくりと進んでいった。




