発見
すこしでも場を和まそうと絞り出した一言はまるで独り言のように誰にも拾われることなく消えた。
まだ彼女をにらんでいる女性を見て、少しでも早くこの状況から抜け出したい自分はこう提案した。
「すみませんが、自分たちがどうしてここにいるのか説明してもらってもいいですか?」
女性はやっと彼女から目線を離し、自分のほうを見た。
「とりあえず下に来なさい」
そう冷たく言って彼女は娘を連れて出ていった。
うつむいたまま動こうとしない彼女に「おさきにどうぞ」と伝えた。
階段や床のきしむ音だけが響く建物内をゆっくりと彼女の後ろを歩いてゆく。
薄汚れたワンピースを着ている彼女を後ろから見つめる。
彼女はとても細く凹凸はあまりないように見える。
彼女が歩くたびに揺れる長髪は彼女も寝起きなのがうかがえるようなぼさぼさ具合だ。
身長はそこまで高くはないようだ、180cmの自分よりも二回りほど小さい。
そして何よりの謎は先ほどの現象、自分が抵抗することもできずに壁にたたきつけられたあの現象だ。
はたして、あれは偶然なのか、それとも。。。。
下の階に入ると先ほどの部屋よりも3倍ほど広く、中央にある木でできている長方形の机は4人用の様だ。
机の両側にひとつずつ椅子が置かれており、女性と娘さんは二人暮らしであることがうかがえる。
娘さんはおびえた表情で机の向こう側にいるお母さんの後ろに立ち、その女性は彼女をにらんでいる。
階段を降り切った彼女は2歩ほど歩いた場所で立ち止まりうつむいている。
階段を降り切ると女性を見て座ってもいいか聞いた。
女性は彼女から目を離さずにうなずいた。
彼女の肩をたたき椅子を手で椅子のほうを指す。
彼女は一度顔を上げ自分を見たもののすぐさまうつむいてしまう。椅子に座る気はなさそうだ。
自分はゆっくりと近いほうの椅子に向かって歩き座った。
「では、お願いします。」
落ち着いた声でそう言うと女性が深く息を吐いて話し始めた。
「あなたたちが近くの森で倒れているのを家の娘が見つけたの。」
そして、自分のほうを指さしこう続けた。
「あなたはさっきの服を見てもわかると思うけど血まみれで」
その次は彼女のほうを見て
「そしてあなたの服にはまるでナイフで刺されたような穴が開いていたわ。」
彼女は大きく開いた目で服を見つめている。
「そしてあなたのすぐそこには私が見たことのないナイフが転がっていたわ。」
と自分を見ながら言った。