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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
見えざる手
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今後

家に帰るとぐっすりと寝ている2人。


2人の寝顔を見て安心して、今後について考える。


「そっちはこの後どうするの?」


参考にしようと質問する。


「私はまだこの町にいようかな。

住む場所もあるし、ずっと呪ってきたけど、今じゃこ頼りになるこの力もあるしね。」


少し危険な気もするが彼女が決めた道に口を出すつもりはない。


そうか、もう会えないかもしれないのか。


少し涙が出そうになる。


ごまかそうと寝室に向かう。


久しぶりにぐっすりと眠っているティアさん。


久々の幸せそうな寝顔に見惚れていると、マリヤが起き上がる。


自分の顔を見て頭をかきながらティアさんをよけてベッドから降りた。


「おはよ。」


マリヤはあくびをしながら手を自分に振った。


マリヤの後に続いて寝室をでて、ゆっくりと扉を閉める。


おそらくこれが最後になるであろうティアさんの家を隅々まで見る。


少し、寂しくなって家からでる。


探し物を兼ねて町を歩く。


マリヤの家の近くまで来て、見慣れた門番さんが見えたので話に行く。


「どうもです。」


軽い挨拶をすると、いつも通りお酒を飲みながら自分に手を振る。


「この町でおすすめのレストランってどこですか?

女性を連れて行くようなところがいいです。」


それを聞いた門番さんは


「そんなもの俺が知るわけがないだろう!」


と豪快に笑い飛ばしてしまった。


「相変わらず何にも知らないですねー」


と皮肉を込めて言うと。


「生意気なことを言うな、この町の酒屋ならすべて知ってるぞ。

おすすめは住宅街の奥にあるところだ、すぐ横にいいつまみが売ってる。」


そう言ってお酒を煽って


「行くのか」


急に真面目な声で話し始める。


「はい。

いろいろなところを巡ろうかと思っています。」


こんな顔もできるんだ、と思わず驚いてしまうほど真面目な顔をしていた。


「若いもんが出ていくのはしょうがないが、周りのことも考えろよ。」


持っている酒を飲み干す勢いで口にする門番さん。


「恥ずかしながら、知り合いにも同じこと言われました。」


「そんだけ大事ってこった、覚えとけ。」


そう言ってどこかに行ってしまう。


おそらくお酒を買いに行くんだろう。


遠くに行くことになるかもしれないから一度村にも帰ろうかな。


家に向かって歩く。


約2か月ほど、見慣れた景色もどこか悲しげに見えてしまう。


本当に楽しい2か月だったなぁ。


家に入ると、ティアさんもすでに起きていた。


マリヤとティアさんを呼んで話をする。


「自分はここの町を出ようと思っています。」


そう言うと2人はやっぱりね、とでも言いだしそうな表情をしていた。


「それで、できれば2人がついてきてくれたらなーなんて思ってます。」


それを聞くと2人とも目を大きく開けてこっちを見る。


ティアさんに至っては口まで空いている。


「あなたのことだから、1人でこっそり行くのかと思ってた。」


といたいところを突くティアさん。


「そのあたりに関してはもう説教を受けたので・・・」


そう言って彼女をちらっと見る。


少し胸を張っているかわいらしい彼女。


「私は行くよ!」


マリヤが元気に手を上げる。


「私もまだお金返してもらってないし。」


とティアさんも手を上げる。


2人がいてくれたら安心して旅ができる。


「ありがとうございます。」


少し熱くなった目頭を顔をかくふりをして抑える。


「でもその前に一度村に帰りたいので時間もらっていいですか?」


「君の故郷なら私も行くよ!」


前の世界のことを説明していないマリヤが食いつく。


彼女のほうを見てSOSをだす。


ティアさんは少しめんどくさそうな表情で彼女を見てうなずく。


「この2人はね、違う世界から来たのよ。」


ティアさんはいきなり説明を始めた。


マリヤはティアさんを心配しているような顔で見つめ、真剣なティアさんの表情を見て、自分と彼女を見る。


自分はマリヤと目が合った時にうなずく。


「どういう・・・こと?」


自分が一から説明する。


「じゃあ、タイチ君が帰ろうとしている村って故郷じゃないの?」


「違う。

意識を失ってた自分たちを助けてくれた人で、おそらくこの世界に来てから初めて会った人。」


「へぇー」


マリヤは考えるのをやめたようである。


「とにかく私も行くよ!

タイチ君1人じゃ心配だしね!」


「はいはい、ありがと。」


マリヤをそのまま流して


「ティアさんはどうする?」


心配なのはティアさんだ。


マリヤがいない間はどうするのだろうか。


1人で寝れるだろうか。


「私は残るよ。ミキちゃんもいるし。」


マリヤと2人ということで、少し心配だがおそらく大丈夫だろう。


この町と村をつなぐ馬車は月に一度だけなので、できることならば馬車にのせてもらいたい。


一度マリヤさんを家まで送ることに。


しばらくの間、ティアさんは彼女と過ごすことになるだろう。


自分はマリヤの家に滞在する予定だ。


マリヤを家まで送って、門番さんに話を聞きに行く。


「お久しぶりです。」


そう声をかけると真っ赤な顔で寝転がっていた門番さんが起き上がってだるそうな顔でこちらを向く。


「なんだ、今俺は体調がわるいんだ。」


明らかに飲みすぎなだけに見える。


「自分の村に行く馬車って最近来ましたか?」


返事しにくいので無視して本題に。


「知らん。

まだじゃないか。」


相変わらず使えないおっさん・・・


「あの2人組覚えてます?

御者をしていた大柄の男性と細身の男性、あの2人に会いたいんだけど。」


「今ならギルドの2階に行けば会えるんじゃないか。

おやすみ。」


めんどくさそうに返した門番さんを後にして、マリヤに一声かけてからギルドに向かおう。


家に入り、寝室で何かをしているマリヤに扉越しに声をかける。


「私も行く!少し待ってて!」


しばらく待つと、白いワンピースを着たマリヤが出てくる。


少し照れくさそうに


「これ、お気に入りなの。

どう?」


と首を傾げたので。


正直とてもかわいいし、一瞬ドキッとしたが悟られたくないので


「遅すぎ」


と言って外に出る。


マリヤは一瞬不満そうな顔をして、走って自分に追いつくが、顔を見てニヤニヤしながら。


「本当に素直じゃないねー」


と言いながら自分の腕を抱きかかえる。


腕が心地よさに包まれるが


「暑苦しい!」


と言ってマリヤを振り払う。


マリヤはうれしそうな顔で笑って自分の横を歩いていた。


「何しにギルドに行くの?」


まだ少し赤い自分の顔を見ながら問いかけるマリヤ


「村まで馬車に乗っていけないか、知り合いに聞いてみようかと思って。」


「知り合いなんていたんだ!」


おそらくこれは悪意のない発言だろう。


何も言わずにマリヤの頭を軽くたたく。


「タイチ君最近遠慮しないよね、私にだけ!」


怒っているのか喜んでいるのかわからないマリヤが語尾を強めて言う。


「マリヤだからね」


そう一言だけ返す。


ギルドまでの間、マリヤは一言も言わずにずっとうれしそうな顔をしていた。


ギルドについて上の階に向かう。


「ちょっと待って、一応事件について聞いてくるよ。」


そう言ってカウンターのほうへ向かうティアの後に続いて歩いて行く。


ティアは受付にいた人と話を始めた。


少しの間、話すとマリヤは帰ってくる。


不安そうな表情で。


「捕まった人達、自殺したって。」


え?


自殺?


「そんなことができるのか?」


「いや、普通は無理。

ギルド長はこのギルドをあまり離れないんだけど、それは捕まえた人たちが魔法を使えないようにするため。

それに、収容されている人たちが何かするときには監視が付くはずだし。」


何かがおかしい。


「マリヤ、今すぐ家に帰って、準備をして家から出るな。

俺が行くまで誰かが訪ねて来ても出るな。」


マリヤに指示を出してすぐさまギルドを出る。


ティアさんの家に走り、家の扉を開けながら


「ティアさん今すぐ町を出る準備をしてください。」


と大きな声で言いながら入る。


そこに座っていたティアさんは勢いよく開いた扉に驚いて持っていたコップを落とす。


念のため家の中の様子を確認する。


寝室の扉を開けようとして、ゆっくりと立ち上がったティアさんが目に入る。


「早く!」


そうティアさんに言って、ティアさんが寝室に向かって手を伸ばしながら駆け寄るのを見て寝室に入る。


そこには上半身裸で、ズボンをはこうとしている彼女がいた。


焦って真っ白になる頭とは裏腹に、自分の目は彼女の体をできるだけ記録しようとそのすべてを映す。


とても細い体や足、腕、透き通るような白い肌。


彼女の体はまるでズボンを掴んでいる彼女の指のように細く美しく、彼女の体すべてがまるで芸術家によって作られた作品のように思えた。


驚いてこっちを見ている彼女と目が合ってそこでとっさに扉を閉めようとする自分。


ティアさんが自分の手を引っ張ろうと手を伸ばしている。


突然吹っ飛ばされて壁にたたきつけられる自分。

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