再会?
目が合ったまま数秒の間自分と彼女は言葉一つ発することができずに固まっていた。
数分、数十分にも思えるような沈黙は突然破られることとなった。
彼女の今にもとびかかってきそうな形相と、とても不釣り合いなきれいな瞳から目を離すことができなかった自分は突如何かに突き飛ばされたように壁に激突する。
壁に隣するように置かれていたベッドに座っていた自分は反対側の壁へ受け身をする間もなくぶつかり、落ちることなくまるで藁人形のようにただ張り付けられていた。
窓から注ぎ込む赤く染まりつつある光が脂で汚れている皿を鮮やかに彩り、彼女の足元まで照らしている。
「いったい誰なの」
自分をにらみながら彼女は怒鳴りつけるように質問した。
彼女の透き通るような声は自分の頭から恐怖、驚き、焦りなどの感情やさっきまで抱えていた悩みすべてを吹き飛ばした。
真っ白になってしまった頭では彼女の問いにどうこたえればいいのかすらわからず、彼女を見つめていた。
「答えなさい!!」
先ほどよりも強く怒鳴った彼女の美しい声が、頭が真っ白になっていた自分に冷静さを取り戻させた。
「お、尾崎太一です」
まるで何日間も何も飲まずに砂漠を歩いた時のように乾いた口を動かし、やっとの思いでこの一言を絞り出す。
それを聞いた彼女はいままで握っていたこぶしをより強く握りしめ、それに合わせて自分にかかる謎の力が強くなる。
体全体が強い力で押されているようでだんだんと呼吸ができなくなる。
一生懸命肺に空気を取り込もうと呼吸を試みるが、胸部にかかる圧力が強すぎるため一向に空気が入ってくることはない。
苦しみに悶えていると階段を駆け上がってくる音が聞こえ、彼女が何者かに腕をつかまれる。
「何をやっているの!?」
お母さんと呼ばれていた女性の声が響き、自分は床にたたきつけられる。
先ほどまで取り込むことのできなかった酸素を肺中に取り込み、息を整えようと肩を上下に動かしながら呼吸をする。
着地はうまくいかなかったが痛みは特に感じない、そして自分の心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。
「い、いいんです。」
やっとの思いでその一言を絞り出し、その女性と彼女に顔を向ける。
彼女は驚いたような、悲しいような複雑の表情を浮かべ「ごめんなさい」と聞こえないような声でつぶやいた。
息を整えるため、意識を呼吸にむけ首からも力を抜く。
かなり呼吸が楽になり、ふと顔を上げると女性は彼女を睨んでおり、彼女は申し訳なさそうにうつむいている。
まるで他人のものかと錯覚してしまうほど、力が入らない手足をつかい何とか立ち上がる。
ふと女性のほうを見るとおびえた表情の娘さんがこちらを不安そうに覗いている。
自分は作り笑いを浮かべながら一言その女性と娘さんに向けていった。
「お肉、ごちそうさまでした。」