敗北
ティアさんの家に帰り、ティアさんを寝室に連れていく。
「少し出かけてくるね。」
そうティアさんに言って部屋を出ようとする。
「待って。
いいの。
私が何とかするから。」
涙声でそう言うティアさん。
何を言えばいいのかわかずに、振り向かず
「おなかがすいたから何か買いに行くだけだよ」
そう言って逃げるように家を出る。
少しづつにぎわってくる街並みに少し腹を立てながら歩く。
自分が来ていた服はいつの間にか血の跡もなくなっていて、なぜか自分の体も軽いうえ、肩の痛みも感じない。
調子が良すぎる自分の体に違和感を感じながらマリヤの家に向かって歩いた。
マリヤの家の扉をノックして、扉が開き心配そうな顔しているマリヤが出てくる。
自分を見ると安心した表情へと変わる。
マリヤの顔を見て突然今まで抑えていたものがあふれだす。
マリヤに抱き着き扉を閉めることも忘れ、中になだれ込む。
顔を見られなくていいようにマリヤの肩に顔を乗せあふれ出る涙を必死に止めようとしていた。
体中が力み、マリヤを抱きしめる手の力も強くなる。
マリヤは何も言わずにゆっくりと手を自分の体にまわし、一定のリズムで自分の背中を叩いてくれた。
泣き止んだ自分に飲み物を差しだす、優しい顔をしたマリヤ。
一言も発することなく自分を見ていた。
マリヤにティアを尾行したこと、そしてその先で見たものを話す。
あの男と話したことを除きすべてを話し、それを終えると悲しい表情を浮かべているマリヤを見て言った。
「ティアのことでなにか隠していることがあるなら教えてほしい。
彼女を助けたいんだ。」
それを聞くとマリヤはうれしいような悲しいような表情で、話し始めた。
「マリヤの様子がおかしくなり始めたのは今からちょうど2か月くらい前。
ティアは昔からあなたみたいな新人を助けたりしていたの。
ある時悩んでいる姿を目にして、聞いたらその時面倒を見ていた子が少し問題を起こしたって言ってた。
それでも自分で何とかするから大丈夫。
そう言って、それ以降悩んでいる姿を見なくなったわ。」
「そのティアさんが面倒見ていた人に会うことってできないですか?」
「ごめんなさい。私はその子のことは知らないの。」
その人がカギを握っていることは間違いないが、情報がないならどうしようもない。
少し考えていると覚悟を決めた顔のマリヤが突然つぶやく。
「私が解決するわ。」
頭が真っ白になる自分。
「なんでマリヤさんが?」
動揺して呼び方までおかしくなる。
「知ってるの。
その人の目的が私だってことも。」




