帰路
なぜか上機嫌なティアさんと並んで町へと帰る。
獲物などの荷物はティアさんが腰につけている特殊な袋にすべてしまっていた。
自分の横を歩くティアさんはとても嬉しそうな顔をしていて、一緒に歩いているこちらまで幸せな気分になってしまう。
少しずつ大きくなっていく町を目指して歩いているとふいにティアさんが口を開いた。
「そういえば、君の名前は?」
無邪気な笑顔でこちらを向く姿に見惚れながら答える。
「太一です。」
「君は昨日どこの宿に泊まったのですか?
ギルドの横にあるところかしら?」
「昨日はマリヤさんのところに泊めていただきました。」
いろいろなことが頭をよぎって、動揺してしまうがそれを隠しながら答えた。
「え?」
急に驚いて少し声が大きくなるティアさん。
そんな反応されると不安になるよ・・・
「どうかしましたか?」
とできるだけ普通の声のトーンで質問する。
「彼女は人見知りなところがあるから。
初対面の人を家に上げるようなことをするとは思えなくて。」
不思議そうな表情を浮かべるティアさん。
昨日の様子から見ると、とても自分の考えている人と同一人物とは思えない。
「そうなんですか?
とても優しくしていただきました。」
当たり障りのない会話をし、できるだけあの人の話題を早く終わらせようと務める。
橋を越え町に入ると、遠くに見えるギルドの前の広場には多くの人だかりが見えた。
「何か催し物でもやっているんでしょうか?」
と遠くの人ごみを指さし、変に話題が広まらないように先に話題を変えておく。
「お昼ごろになると町の中の店があそこに食べ物を売りに来るのよ。
この町はギルドが観光名所も兼ねているし、ギルドを利用する人々もたくさんいるからね。」
先ほどまでの明るかったティアさんとは違い、少し悲しそうな顔で人ごみを見ながらつぶやくように質問に答えた。
ギルドに近づくと広場からいいにおいが漂ってきて自分の食欲を掻き立てる。
一文無しの自分に買えるわけもないが、気になるものは気になってしまう。
自分の横で大人っぽく笑うティアさんの笑い声を聞いて少しときめく。
ティアさんは先ほどまでの悲しそうな顔とは違い、優しそうな表情で自分を見ていた。
「先にあの部屋に行っててください。」
騒がしい人ごみの中でも聞こえるように耳元でそうささやいてどこかに行ってしまうティアさん。
ティアさんの大人っぽく優しいささやき声と、あの唇が自分の耳のすぐそこまで来ていたという事実で顔が熱を帯びる。
食べ物のいいにおいに混じって、女性特有の香りがした気がしてつい深呼吸をしてしまう。
必死に口角が上がるのを抑えながらギルドへと小走りで向かっていった。




