転移
倒れこんだ長髪に目を向けると、恐怖に染められた表情でこっちを見ている。
事件に気付いた人々が離れたことによって、倒れている女性を見ることができるようになった。
血でぬれた服が体にぴったりと張り付き、彼女の血が少しずつこっちに流れてくる。
よく見ると彼女の血は腹部、胸部のあたりから流れ出ている。
目を覚ますと真っ白な天井
赤い手
青い床
茶色のベッド
起き上がり、自分が刺されたと思われる背中のあたりに手を回す。
傷一つなく、痛みもない。
血まみれな手で触ったことによって自分の肌、ベッドにも血が付く。
「尾崎太一さん。あなたは亡くなられました。」
少し冷めた声が背後から聞こえ、振り返るとそこには長身の女性が立っていた。
短く切られた髪はまるで少年のような幼い顔立ちの彼女の顔と相まってとても男の子っぽく見えるが、一方で少し膨らんでいる胸部にスラッと伸びた足はとてもきれいでつい見とれてしまいそうになる。
「混乱する気持ちはわかりますが、あまり時間もないので先に進ませていただきます。
太一さん、あなたは刺されて亡くなりました。そのうち記憶も戻ると思います。
そしてこちらの都合で申し訳ないのですが、あなたは過去に生きていた世界とは異なる世界に行っていただきます。」
「異世界・・?」
「そうです。異世界です。
返事ができるほど落ち着いたようでよかったです。
では早速ですがあなたが行かれる世界について少し説明させていただきます。
あなたが転移する世界は魔法や超能力などが存在し、魔物や魔族といわれる生き物が存在しています。」
あたまの中が少しずつさえてきているようで、少しずつ記憶が戻ってきている。
「あの人は?」
自分がそう質問することを知っていたかのように説明を止めていた長身の女性は質問に答えることなく説明を再開した。
「では説明の続きですが、あなたは異なる世界に行って生きていただきます。
あなたはその世界の生まれではないため魔法は使うことができません。なので祝福代わりに一つ願いをかなえたいと思います。」
「ちょっと待てよ!彼女は!?」
「本当にそれでよろしいですか?」
「いいから答えろよ!」
頭に血が上り、長身の女性の話を聞くことなく質問を叫ぶ。
「わかりました。あの女性はあなたが意識を失う前にはすでにお亡くなりになられていました。」
「そんな・・・・」
「それでは、新たな世界での生活を楽しんでください。」
急に逆らえない眠気に襲われ、ベッドに倒れこむ。