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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
いのちといのち
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エピローグ

死にかけた俺たちはあの後俺が動けるようになるまであそこにいて、そのあと村に向かって歩き始めた。


エマさんがルドルフを、俺が母とグレイスを支えながら歩く。


少しづつ耳が治ってきたが、話をする余裕はなかった。


村の人たちは動揺しながらも、俺たちを受け入れ、手当てしてくれた。


手当を受けた俺はグレイスと両親に話に言った。


村で起きたこと、姉がどうなったか。


母は涙を流して、父は何も言わずに最後まで話を聞いていた。


そして、俺が涙を流しながら話し終えると、俺の頭に手を置いてつぶやいた。


「よくやった。」


「うるさい」


俺はそう言いながらも父の手を払うことができずに泣いていた。


母は俺を抱きしめて、2人で泣いた。


俺が泣き止んで2人のもとを離れると、エマさんが2人に会いに来た。


俺はまだ意識が戻っていないルドルフに会いに行く。


ベッドの横に椅子を置いてルドルフを見る。


「切り札ってそう言うことかよ。」


グレイスの手を握ったままルドルフを見てつぶやく。


少ししてエマさんの泣き声が聞こえて、目を真っ赤にしたエマさんが部屋に入ってくる。


「大丈夫?」


俺がエマさんに椅子を差し出すと、エマさんはうなずいて座る。


俺がグレイスの手を引いて出ていこうとすると、エマさんが俺を呼び止める。


「あなたは決断できましたか。」


俺はグレイスの手を強く握りしめてルドルフを見つめたままのエマさんに答えを告げる。


「いいえ。」


そしてグレイスの顔を見て続ける。


「答えは出ていますが、気持ちの整理ができていません。」


それを聞いたエマさんは何も言わずにルドルフの手を握った。


俺はグレイスと部屋を後にする。


「なんの話?」


グレイスが歩きながら俺に聞くが、俺はただ微笑むだけで答えられなかった。


「そういえばグレイスはお母さんに話が聞きたかったんじゃなかったっけ?」


俺がそう言って母の元まで案内すると、顔を赤くして母のもとに向かって行った。


目的もなく村に出る。


家の前で外を眺めていた父が俺を見て涙を拭いた。


「やっぱりお前は俺の子だよ。」


そう言って俺とすれ違った父。


なぜか少し老けたように見えた父。


「お母さんは」


俺が声をかけると足を止めて俺が聞こうとしていたことを答える父。


「もう魔法が使えない。」


一言だけ言って父は去っていった。


エマさんの泣き声が聞こえて慌ててエマさんのもとに向かう。


そこには全員が集まっていて、起き上がったルドルフを見ていた。


「ご心配をおかけしました。」


そう言って微笑んだルドルフの左目はつぶれていた。


狭くなった視野で部屋を見渡したルドルフはエマさんを見つけると、エマさんの肩に手を置いた。


泣きじゃくるエマさんに何かを言ったルドルフ。


エマさんは泣きながら何かを言ったが、それも聞き取れなかった。


2人の様子を見ていようとすると父と母が2人で部屋を出ていき、俺はグレイスに手を引かれ部屋を後にする。


「これ返さないと。」


グレイスがポケットから首飾りを取り出す。


「お姉さんと2人で話をしたときに預かっていたの。

この首飾りとあなたを頼むって。」


姉との思い出が頭に蘇る。


涙をこらえつつ俺は首飾りを受けとる。


「この後はどうするの?」


不安そうな表情を浮かべたグレイスが俺に聞く。


「もう帰る場所もなくなっちゃった。」


寂しそうにつぶやくグレイス。


「少し、歩こうか。」


グレイスの手を握ったまま村に出る。


何を言えばいいのかわからずに前を向いて歩く。


「俺もどうすればいいのかわからないんだ。」


少しうつむいてそう呟く。


「俺は多分グレイスのことが好きだ。

でも、姉のことも忘れられない。」


グレイスが足を止めて、俺もそれにつられて立ち止まる。


「もしかしたら、どこかで姉が前みたいに生き返ったりしないかと不安に思う反面心のどこかでそれを願ってしまっている。」


グレイスの目を見る。


「心のどこかであの時死なせてくれなかったグレイスのことを責めているし、一方で感謝もしている。」


グレイスは泣きそうな顔で俺を見る。


「それに心のどこかではシオンのことを悲しんでいる俺もいる。」


「いいのよ、それで。」


グレイスが俺を抱きしめる。


「そんな簡単には割り切れないわ。

エマさんだってそうだったでしょう?

あなたのお父さんのことを想っている一方でルドルフのことも想っている。」


こらえきれなかった涙がグレイスの服を濡らす。


「今すぐ答えなくてもいいわ。

私はあなたのことが好きよ。

たとえあなたが振り向かなくてもそれは変わらなかったし、これからも変わらないわ。」


俺はグレイスの背中に手を回し強く抱きしめた。


「2人で旅に出ましょう?

お姉さんが言っていたの。

あなたが山登りをしたがっていたって。」


そう言って体を引いたグレイスは俺の顔を見つめる。


「その他にもあなたがしたいことを全部していきましょう。

ゆっくりと時間をかけて。」


そう言って微笑むグレイス。


「なんで、そんなに・・・」


前向きなの・・


言おうとした言葉を飲み込んだ。


震えるグレイスの手がグレイスの強がりを照らし出す。


「言ったでしょう?

恋する乙女は強いのよ。」


俺は涙をこらえてグレイスを抱きしめた。


「まずはどこに行きたい?」


グレイスが俺の頭を撫でながら囁く。


俺は涙にまみれた汚い笑顔を作ってグレイスに尋ねる。


「グレイスは泳げる?」

約2か月間ありがとうございました。


読みにくく内容のないものだったと思いますが、毎日皆さんが読んでいただけていることがうれしくて楽しんで書くことができました。


短い間でしたが、ありがとうございました。

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