嘘と願い
結局1人で夜を明かした俺はあたりが明るくなって外に出る。
そこに姉はいなくて、荷物が置かれていた。
急に悪寒がして、姉の名を叫ぶ。
「オリ姉!!」
しかし、遺跡の周りは静かなままで何も変化がない。
荷物を置き去りにしたままその場を離れる。
あてもなく周辺の森をさまよう。
魔物が暴れる音が聞こえてその方向に向かって走る
そこで魔物に体を貪られ続ける姉を見つける。
姉の腕を加えている魔物の体を全力でなぐる。
体がつぶれ、周りに血が飛び散る。
こっちを向いた姉の腹を咀嚼している魔物を蹴り飛ばす。
全力の蹴りを受けた魔物は後ろにあった気に直撃して、肉片と化す。
ばらばらになった姉の身体と服を泣きながらかき集める。
「オリ姉・・・」
俺の体はもう姉の血と土で汚れ、涙をぬぐうたびに顔が赤黒くなっていく。
「駄目だ・・
死んじゃダメだ・・・」
俺の集めた肉片は突然灰になっていく。
「そんな!
だめだ!」
誰に向かって叫んでいるのか、1人で森の中で叫ぶ。
急に目の前の姉の頭が宙に浮く。
無意識のうちにその頭を見つめる。
どこからか飛んできた灰が姉の身体を形作っていく。
肩から少しづつ出来上がっていく姉をを見ていたが、内臓のところで急に吐き気に襲われ、その場に嘔吐する。
俺が再び見上げるとそこには服をまとっていない姉がいた。
すぐに姉に飛びつく。
血なまぐさい俺を受け止めて、抱きしめ返した姉は震える体で俺に謝る。
その場で泣き続ける俺を、慰めながら遺跡まで連れていく姉。
テントの中に入るとエマさんにもらった服身に着けて腰を下ろす。
涙が止まった俺は姉を睨む。
「もう2度とあんなことしないで。」
姉は何も言わずにうなずく。
俺は再びその場に寝ころんだ。
姉がテントを出ていこうとしたので、手を掴んで引っ張る。
俺のせいでテントの中は汚く、臭くなる。
昼過ぎになって起き上がった俺は、姉をテントから追い出して魔法で水を出してテントの中をきれいにしていく。
それが終わったらテントの外に出て、魔法で風を起こして中が少しでも早く乾くように魔法を使っていく。
ある程度やったところで俺に限界が来て、その場に腰を下ろす。
姉は何も言わずにカバンの横に立って俺を見ていた。
カバンの中から2人分の食料を出して無言で姉に渡す。
食事を終えた俺たちは村に引き返す。
村が近づいて姉が一度口を開いた。
「ごめんなさい。」
しかし、俺は何といえばいいのかわからず答えることができなかった。
村に帰って村長のところを訪れ、魔物を倒したことを報告した。
報告だけをすまし、休むことなくすぐにゲルの街に帰る。
帰り道の途中、テントの中で何度も姉に襲われたが、キスだけをしてすぐに距離をとった。
4日かけてゲルの街に戻ってそこから馬車でギゼルの町に向かう。
念のため町に入る前に一度キスをして町に入り、ギルドに戻ってエマさんを呼んでもらう。
エマさんとルドルフが出てきて急に安心して泣き出してしまう。
人が大勢いるギルドの中で人の目も気にせず大声を上げて泣いた。
エマさんが姉の様子を見ている間に俺はルドルフに連れられて人のいない酒場に行く。
店主はルドルフを見ると、店を開けてどこかに出ていった。
「どうしたんですか?」
そう言って酒を俺の前に置くルドルフ。
俺はその酒を一気に飲み干した。
まずさとアルコールで吐きそうになるが、それを何とかこらえる。
涙を流しながら遺跡であったことをルドルフに話す。
ルドルフは何も言わずにただ、うなずいていた。
「もしかして、俺のせいで姉はこうなってしまったんじゃないかな・・・
姉を村で見た時からずっと思っていた。
俺が願ってしまったから姉は生き返ってしまい、今だってずっと死にたがっているを俺のわがままで行かされているんじゃないか。
ずっと考えないようにしていたけど、もしかしたら姉を苦しめているのは自分なんじゃないか・・」
3敗目の酒を飲み終えた俺は、吐き気をこらえながら思っていたことをすべてルドルフに伝えるた。
ルドルフは何も言わずに立ち上がり、店の扉を開けた。
振り返ることもできないほどの気持ち悪さの中、店に入ってきた人物を後ろから俺を蹴飛ばした。
「いい加減にしなさい」
俺はその場に倒れてしまい、そのまま意識を失う。
ひどいにおいと頭痛で目が覚める。
遺跡の件があってから着替えることもせずにいたことに今更気づく。
起き上がってベッドから出る。
母が昔使っていた家にいる様だ。
服を脱ぎ棄てて、魔法で水を出そうとするが、頭痛がひどくてできそうにない。
「はい。」
「ありがと。」
コップを受け取り、体の中に流し込む。
驚いて声がしたほうを向く。
「なんで・・・ここに・・」
グレイスは俺の手からコップをとって机に置く。
「やり直しよ。」
意味不明なことを言ったグレイスは俺の頬を叩いた。
「もう会わないかと思った。」
そう言った俺の頬を再び叩くグレイス。
「だって」
今度は俺がしゃべり終える前に頬を叩く。
「気は済んだ?」
グレイスの手を警戒しながらそう言った俺に涙をこらえながら抱き着いたグレイス。
しかしすぐに俺から離れる。
「臭・・・」
そういたグレイスは目を閉じる、そして俺は水に包まれる。
少しして息が苦しくなってきたところで解放される。
「酒場での話聞いてたわ。」
少しづつ距離を詰めてくるグレイス。
「私はあなたのことが好きよ。
それは変わらない。
たとえあなたが私の親の仇の家族だったとしても。」
「俺は・・・」
「わかってる。
ただ、私はあなたみたいに途中で投げ出したりしないわ。
私だったらあなたのためにできることなら何でもするもの。」
突然ルドルフが入ってくる。
「すみませんが、お姉さんが暴れそうなので来ていただけますか。」
ルドルフの後を追ってエマさんの家に向かう。
グレイスも俺と一緒に走っている。
冷たい空気が漂うエマさんの家に入る。
「こちらです。」
そう言って地下に案内されると氷漬けにされた姉がいた。
「あなたのお姉さんはこのままの状態でいることを望んでいます。
もういっそこのまま氷漬けのまま、あなたの息子さんが亡くなるのを待つことを望んでいます。
どうしますか。」
グレイスが姉を見ておびえている。
氷の中の姉はまるで俺に助けを求めている様にも見えた。
「あなたが望むなら、すべてギルドで解決します。
あなたがやる必要はないです。」
エマさんが選択を迫るように問いかけてくる。
「この場にあなたがどちらを選択したとしても攻める者はいません。
さぁどうしますか?」
俺は目をつぶってその場に座り込む。
「グレイス、ルドルフ外に出ててくれ。」
グレイスを連れて出ていくルドルフ。
「さぁ決断を。」
エマさんの差し出した手を取って立ち上がる。
「エマさん、お願いします。」
俺は氷に手を当ててエマさんにつぶやいた。
エマさん指を鳴らすと自由になった姉が俺にとびかかる。
俺はダガーで手を切って姉に血を飲ませる。
正気に戻った姉は俺を突き飛ばしてエマさんを見る。
エマさんは少しためらって外に出ていく。
「オリ姉、少し話をしよう。」
1歩姉に近づく。
「やめて!
来ないで!」
そう叫んだ姉にもう1歩近づく。
「もし、本当に死にたいなら俺を刺せばいい。
きっとオリ姉も死ねるはずだ。」
そう言ってダガーを投げる。
姉はダガーを見もせずに俺から逃げようとする。
「俺が悪かった。
もっとオリ姉がどうしたいかを考えるべきだった。」
喋るたびに近づいて行く。
「俺は少しでも長くオリ姉と一緒にいたい。
でも、もしそれが原因でオリ姉が苦しむなら、俺は今すぐにシオン達のもとへと向かう。」
姉はその場に崩れ落ちる。
「私だって、一緒にいたかった!
でも、私がいるせいであなたかあなたの息子か大勢の人が苦しむことになる・・・
それなら私は1人でもいいからずっとここにいたい!」
姉は涙をこぼしながら叫ぶ。
「できることなら私だって・・・」
姉が言い終える前に抱きしめた。
「俺は大丈夫だから。
きっと何とかなる。
シオンの協力が得られればきっと道は見えるさ。」
「嘘・・・
そんなの気休めよ。」
震える姉が言う。
これはただの気休めであり、俺の願い。
「きっとシオンの力があればなんとかなる。」
もう一度そう言って姉を立たせる。
「それで、どうしたいの?」
ダガーを拾い上げ姉に渡す。
姉の震える手はすぐにダガーを地面に落としてしまう。
「私は・・勇気と生きていたい・・・」
姉がつぶやく。
姉の手を引いて地下室を出る。
こちらを見て微笑んでいる2人と、うつむいているグレイス。
姉を寝室に連れていきベッドで寝かせる。
「迷惑をおかけしてすみませんでした。」
3人に頭を下げる。
エマさんは涙を浮かべながら微笑んだ。
ルドルフは何も言わずにエマさんと外に出ていった。
「頑張ってね。」
そう言って家を出ていくグレイスを呼び止める。
「グレイス。
本当にありがとう。
でも、グレイスにはもっといい人がいるよ。」
グレイスは何も言わずに出ていった。
ため息をついて椅子に腰かける。
もうあとには引けない。
俺は愛する人を殺すために、自身の子供を殺す。




