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無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
いのちといのち
115/127

遺跡

「やっと村に着いたー!!」


1週間近く森の中を迷子になってやっと村を見つけ思わず姉が叫ぶ。


「よかった・・・

どこかで道を間違えたのかと思った・・・」


姉を背中から下ろして村の中に進んでいく。


俺たちを怪しむような眼で見る村人たちに声をかける。


「すいません。

どこか、泊めていただける場所はありませんか?」


2人いた村人のうち1人はどこかに行ってしまう。


残った村人は持っていたかごを地面に置いてこちらに歩いてくる。


「こんな辺鄙な村にいったい何しに来たの?」


握っていた姉の手を離し、カバンを地面に置く。


「どこかこの辺に遺跡がないかと思って2人で旅をしてます。

遺跡などがあればこの目で見てみたいのですが。」


先ほどどこかに行った村人が男を連れて戻ってくる。


「この村で用心棒をやっているランドンだ。

すまないが、用事を聞かせてもらっても?」


いつでも武器が抜ける体制でこちらに話しかけるランドン。


「俺たちは遺跡などを見てみたくて探しています。

このあたりで心当たりはありませんか?」


敵意がないことを示すように話しかける。


男は警戒を少し緩めて、手を武器から離す。


そして、先ほどランドンを連れてきた男に耳打ちをすると、その男は再び立ち去っていく。


「俺には心当たりがないから村長のところに行って聞いてもらってる。

悪いが少し待ってくれ。」


「できればどこかで休ませていただけませんか?

もう2人ともくたくたで。」


ランドンは少し考えた後、歩き出す。


「着いてこい、俺の家に行こう。」


だいたい15軒ほどの家があるこの村の奥には、他のものの2倍ほどの大きさの家がある。


おそらくあれが村長の住む家だろう。


周りのものより少しだけ大きな家に着く。


「客用の部屋はこっちだ。」


ランドンの家の入口とは別のところにある少し小さな入り口から入る。


だいたい5人程度が寝ころべる大きさの部屋には家具も何もなくまるで部屋風の牢屋の様だ。


姉は少し入るのをためらったが、俺が手を引くとすぐにつられるように部屋に入った。


「一応武器だけは預からせてもらえるか?」


そう言って手を出すランドンにダガーを一本腰から外して渡す。


部屋に入ったとたんにその場に座り込む2人。


荷物を投げ出してその場に寝ころぶ。


姉の手を引いて俺の横に寝ころばせる。


「先に寝ていいよ。

一応起きて見張っとくから。」


俺たちを見ているランドンに聞こえないように姉の耳元で囁いて、姉を抱きしめる。


俺の胸でうなずいた姉は眠りにつく。


「ランドン。

すまないが、この村を出るときに食料を買いたいんだ・・・

できるだけ長期間持つものがたくさんほしい。」


ランドンはうなずいた後、部屋の扉を閉めて出ていった。


おそらく、あの扉は内側からは開けることができないのだろう。


しばらくすると、窓が開き、高齢の男性が俺たちの様子を伺う。


「どうしましたか?」


姉を起こさないように立ち上がって男性に話しかける。


男性は横にいた若い男に指示して歩き始める。


部屋の扉が開いて2人が入ってくる。


「遺跡を見に行きたいと伺いましたが、なぜ・・?」


男性は部屋に座って話し始める。


「私たちは消えた両親を探す旅に出ていて、昔両親が行ったことのある場所を探しています。

昔両親が遺跡に行ったという話を耳に挟んだので、少しでも手がかりになればと思って遺跡を探しています。

このあたりにありますか?」


俺の嘘を聞いた男性は少し悩んで口を開く。


「あるのですが・・・危険なのでおすすめはできません。」


「大丈夫です、腕には自信があるので。」


「わかりました。

地図などがあれば場所を教えますよ。」


不安そうにそう言った男性にカバンから地図を取り出し渡す。


「このあたりがこの村です。

そしてこのあたりに川があります。

川に沿って歩いて行くと遺跡がありますが、そこには多くの魔物がいますので、少しでも良いので魔物を狩って来ていただけると助かります。」


「ありがとうございます。

先ほどランドンにお願いしたのですが、保存食を用意していただければ明日にでも向かいます。」


それを聞いた男性は部屋を出ていく。


姉の横に戻り、手を握る。


悪い夢を見ているようで、少し険しい顔をするあね。


寝ている姉の唇にくちづけをすると姉が目を覚ます。


「大丈夫?

少しうなされていたけど。」


「大丈夫。」


そう言って起き上がる姉。


「勇気も疲れているでしょう。

寝なさい。」


そう言って俺の頭を姉の膝に乗せる。


今にも寝てしまいそうな姉の顔を見る。


瞼が閉じてしまいそうになり、それを何とか開けるという作業を繰り返している。


「オリ姉、大丈夫?」


俺が声をかけると、少し体をびくつかせた後返事をする姉。


「大丈夫よ。」


俺は一度立ち上がり、カバンを扉に立てかける。


「誰かが入ってきたらわかるから、一緒に寝ようか。」


うとうととうなずいた姉の肩を抱いて一緒に寝ころぶ。


「おやすみ」


姉は返事をすることもなく眠りに落ちる。




翌朝、目が覚めると姉と目が合う。


「おはよう。」


少し照れながらそう言った姉と部屋から出る。


「準備はできてるぞ。」


部屋の前にいた男が不愛想にそう言った。


おそらく見張り役だろう。


その男の後をついて行き、大きな袋をもらう。


「お金は・・?」


そう尋ねると男は少し不満そうに、いらないと言った。


ランドンの家に帰り、ランドンに礼を言う。


「いや、村長がお金はいいと言っていたからもらわないだけだ。」


眠そうな顔でそう言ったランドンに軽く挨拶をしてダガーを返してもらい村を出る。


「確かこっちって言ってたよな。」


地図を見ながら進んでいく。


幸いなことに近くにある山が目印となっているからだいたいの方角はわかる。


荷物を背負って歩き始める。


「体は大丈夫?」


姉の体調などを心配し声をかける。


姉は顔を少し赤らめて俺を叩く。


「そんな頻繁にしなくてもいいわよ!」


そう言った姉を見て笑いをこらえながらつぶやく。


「いや、筋肉痛とか・・・」


姉はもう一度俺を叩いた。


「私の身体は大丈夫よ!」


そう言って俺の手を乱暴につかみ早歩きで進んでいく。



「本当に川だ!」


川を見つけた俺は荷物を下ろして姉の手を引いたまま川に向かう。


「ちょっと!

服が濡れるわよ。」


「大丈夫大丈夫。」


嫌がる姉を無理やり川に引きずり込む。


「久しぶりのちゃんとした水浴びだから体をきれいにしないとね。」



テントの中で布団にくるまって2人で震える。


「だから言ったでしょう。

今日はそんなに暖かくないんだから。」


「ごめんなさい」


震えながら、震える姉に謝る。


昼過ぎまで川で遊んだ後、昼を食べていたら急に寒くなって思わずテントを立てて中に逃げ込んだ。



結局翌朝までテントの中で過ごした俺たちは昨日の遅れを取り戻すように朝早くに出発する。


「ここ最近はこんなことばっかり。」


姉が呆れたように呟く。


俺に文句を言いながらも手を離そうとはしない姉。


「でも、オリ姉も楽しそうだよ。」


そう言った俺を睨んで無視する姉。


姉の手を強く引く。


辺りから聞こえる何かの足音。


「何かいる。」


姉の耳元でそう呟いて周りを見るが何も見えない。


ダガーを取り出し構える。


身体に魔力を通して強化する。


前からオオカミのような魔物が飛び出してくる。


その魔物は水の球を俺に向けて放つ。


その球をよけて、魔物の首を裂く。


すぐに左右から同時に魔法が放たれて、その魔法に隠れるように飛びついてくる魔物。


魔物の死骸を拾い上げ、左からくる魔法に突っ込む。


死骸で魔法を受け止めて、その後ろにいる魔物の首にダガーを突き刺す。


そして、ダガーを振り回しもう一匹のほうに投げ飛ばす。


飛んできた魔物を飛んでよけた魔物が空中にいる間に距離を詰めて上から首を刺す。


終わったように見えたが、さらに2匹の魔物がこちらに向かってくる。


目をつぶって魔法を使う。


掌の上に小さな球を作り、それを魔物に向かって投げる。


球を受けた魔物は吹き飛ばされて、木に当たって意識を失う。


もう一匹が右から飛びついてくる。


右手で魔物の噛みつきを受け止めて左手のダガーで首を刺す。


「終わったよ。」


カバンに身を隠していた姉を呼ぶ。


「すごいね・・・」


「今日のご飯?」


満面の笑みの俺を見て、立ち上がった姉は俺の右手を見る。


「大丈夫?」


魔物の噛みつきを受け止めた右手の服が破れてしまっている。


「うん、服だけだよ。」


そう言って魔法で水を作って手とダガーを洗う。


「さぁ、肉をもっていこうか。」


昼頃まで歩いてご飯を食べたらまた歩く。


昨日のようにずっとテントにいることがないように食事の時もテントは出さない。


時々魔物に襲われながらも数日歩いて遺跡にたどり着く。


「これが・・・」


姉が目を輝かせて歩き始める。


大きな白い石で作られた柱が何本も地面からはえているが、屋根の部分は崩れ落ちてしまったようだった。


柱の多くもほとんどがかけてしまっている。


その中でも最も柱の形を保っているものに姉は触れて目をつむる。


俺はこの遺跡よりも、遺跡を見て喜ぶ姉を見ていた。


姉は柱から手を離し俺のもとに駆け寄ってくる。


「勇気も来て!!」


そう言ってはしゃぎながら俺の手を引く姉。


姉の手に導かれるまま柱に触れる。


姉は目をつぶって涙を流す。


その遺跡のすばらしさに俺も言葉を失う。


急に変な気配を感じて姉を抱きしめ、身をかがめる。


森の方から歩いてくる3匹の魔物。


3匹とも今まで何度も相手にしてきたものと同じような見た目だが、そのうちの1匹はとても大きく今まで見てきたものの3倍ほどの巨体な魔物。


ダガーを取り出して、姉に微笑む。


音を立てないように遺跡から森のほうに歩いて行く。


途中で木の葉を踏んだ音に気が付いた魔物はこっちに向かってくる。


俺を追わせるためにわざと音を立てて森の中に逃げ込む。


森の中を逃げる俺を追って来るその魔物はとても早く魔力で強化してなければすぐに追いつかれてしまいそうだ。


木が多く生えている森の中で脚を止めて魔物と向かい合う。


俺にとびかかってきた魔物をよけようと後ろに下がる。


それを狙っていたかのように魔法で作られた水の球が背後から飛んでくる。


俺は魔物のほうに飛び出して、魔物の爪を左手で受け止める。


爪は鋭く、魔力で強化されているはずの俺の皮膚さえも切り裂く。


その魔物の右脚を両手でつかみ、魔法に向かって投げる。


魔法が当たった魔物に追い打ちをかける。


しかしすぐ起き上がった魔物は再び爪で俺に襲い掛かる。


しゃがんでその爪をよけた俺は魔物の懐に入り、ダガーをあごに突き刺す。


一瞬ひるんだ魔物の前足にもう1つのダガーを突き刺し、体をねじってあごのダガーと前足のダガーで魔物のあごと足を裂く。


血を全身に浴びた俺はすぐに姉のもとに走っていく。


「オリ姉!!」


森を抜けた俺は姉の名前を呼ぶ。


姉は残る2匹の魔物に襲われている。


全力で姉に向かって飛ぶ。


魔物の横を通り過ぎる瞬間にダガーで2匹とも体を切り裂く。


勢い余って姉のもとを通り過ぎて柱にぶつかる。


「大丈夫?」


柱にぶつかった肩を抑えながら姉に話しかける。


「勇気のほうこそ!!」


俺の左手を見た姉は急いでカバンの中から手当の道具を取り出して俺のところにかけてくる。


「ごめんね、私がここに来たいなんて言ったから。」


うつむきながら俺の手当てをする姉の顔を右手でつかんで俺のほうを向かせる。


「これからもっと危険なところに行くんだよ。

これぐらい大丈夫。

それよりオリ姉は?」


「私は大丈夫。」


そう言う姉の服には魔物の爪に引っかかれた跡がある。


「腕、やられたの!?」


治療を続ける姉の手を払いのけ、姉の服の裂かれたところから姉の腕を除く。


「すぐ治ったから大丈夫。」


姉はそう言って俺の手を再び取り手当てを再開する。


「でも、俺に傷はついてないよ?」


村で姉が自殺をしようと腹を刺した時は俺の体にその傷が移動したはず。


姉は俺の顔を驚いた顔で見つめる。


何かを言おうと口を開く姉の言葉を遮るように言う。


「嫌だ。」


俺の言葉を聞いて口をつぐむ姉。


何も言わずに立ち上がりテントを開いて中に入る。


姉はその間ずっとその場に座ったまま俺を目で追っていた。


1人でテントに入って中で寝ころぶ。


血がにじんでいる包帯で涙を拭いた。

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