家参り
机の上に地図を広げて描かれている山を指でさす。
「ここなんか遺跡とかありそうじゃない!?」
ベッドに腰かけていた姉は前かがみになって地図を覗き、微笑んでつぶやく。
「遺跡がそんなところにあるわけないでしょう?
人が住んでいた場所よ、もっと川が近くにあるような住みやすいところじゃないと。
「じゃあ、こっちの方とか?」
そう言って村が描かれているところを指す。
「そのあたりなら、あるかもしれないわね。」
「じゃあ、そのあとはこの山に登ろうか!」
今後の行き先を考えるだけで心が躍る。
「山なんて危険よ。
人の近づかないようなところにはもっと危険な生き物がいるかもしれないし・・・」
そう言って反対する姉を押し切る。
「いや!
せっかくだからこの大陸で一番でかい山に登ろう!」
姉は少し考えた後微笑む。
「じゃあ、準備は念入りにしなきゃだめね。
買い物に行くわよ。」
部屋を出る姉の後を追っていく。
街に出て2人で手を繋ぎながら店を回る。
「高い山に登るなら、寒さ対策もしなきゃいけないし、食料が一気に増えるわね。」
不安そうな顔でそう言った姉の腕を叩く。
「大丈夫、俺が持つから。」
「じゃあ、頼むわね。」
大人っぽく微笑む姉の色気につい目をそらしてしまう。
2人で買い物を終えて街を出る準備を始める。
目指す山はゲルの街からしばらくの間森の中を歩いていく必要がある。
街を出て、森に向かって進んでいく。
痛い思い出がよみがえる村へと続く道を2人で歩いて行く。
あの村はきっともう何も残っていないのだろう。
夜、テントの中で姉と向かい合う。
「明日、村についたら少し寄り道してもいい?」
俺の手を握っている姉はうなずく。
静かな森の中の小さなテントで見つめ合う。
「もう眠いでしょ?
おいで。」
そう言って手を広げる姉の腕に抱かれて眠りに落ちた。
翌朝、起きてすぐに村に向けて出発する。
分厚い雲が太陽の光をさえぎっていて、生暖かい空気が森をかけぬける。
「ちょっと怪しいね。」
そう言って荷物を手で持ち、姉を背負う。
少しづつ雨が降り始める中で、背中だけは暖かかった。
何とか村に着く。
人の気配がない村には目もくれず、ボロボロの家に向かう。
「ごめんね、こんなボロボロのところしか知らなくて。」
濡れた服を脱ぎながら姉に謝る。
姉も服を脱いで、テントの中で使う布団を出して、その中に入る。
「寒いの?」
少し顔色が悪いように見える姉は首を横に振る。
「少しだけね。」
そう言って布団の中で丸くなる。
燃やせるものがあたりにないため、焚き木もできない。
「ちょっと、燃やすもの探してくるね。」
そう言って家を出ていこうとするが、姉は不安そうな表情で俺を呼び止める。
「お願い、行かないで。」
少し様子のおかしい姉を放っておけないので、出かけるのはやめて山用に用意していたシートをカバンから出して、姉の入った布団を包む
そして、隙間から布団に入る。
「どうしたの?」
目の前にいる姉を見つめながら聞く。
「少し寒いだけ。」
そう言った姉を抱きしめる。
「今日はずっと雨かな。」
姉は体を外の方に向けてつぶやく。
「きっとね。」
俺が適当に答えると姉は体を俺の方に向けて俺の目を見つめる。
「シートありがと。
あったかいよ。」
雨の音がだんだんひどくなる。
「冷たっ!」
姉の顔にしずくが落ちて驚く姉。
「風も雨もしのげないみたいだね。」
そう言って布団を抜け出してテントを広げる。
「家の中でテントってなんかワクワクしない?」
布団の中で首を横に振る姉。
テントができると姉が布団をもってテントの中に駆け込む。
「最初からこうすればよかったな。
めんどくさがってごめん。」
テントに入りながら謝る。
濡れてしまった服は干してあるため全裸で動き回る俺を見て笑う姉。
「昔から勇気は裸で走り回るよね。」
「昔っていつ?」
「5歳くらいからお母さんとお風呂に入るのを嫌がって私と2人で入るようになったじゃない?
お風呂あがったらすぐに裸で走り回ってたよ。」
「そんなこと覚えてないよ。」
少し照れて姉のいないほうに体を向ける。
姉は俺の背中に触れた。
少し冷たい姉の手が触れて、思わず体をびくつかせる。
「冷たかった?
ごめんね。」
姉が謝って俺の背中に体を密着させる。
「おやすみ。」
姉にそう呟いて目を閉じる。
どうやら一日中寝ていたようで、朝日が昇る前に目が覚める。
雨はすでに止んでいる。
姉を起こしてテントの外に出る。
服はまだ少し湿っていて、体に張り付く漢字がして気持ちが悪い。
姉はテントの中から手だけを出してカバンをテントに引きずり込んでいく。
少ししてエマさんにもらった服を着た姉が出てくる。
「乾くまではこれでもいいでしょ?」
肯定も否定もせずに笑顔を浮かべて、出発の準備を始める。
シートとテントをたたむ。
姉の服はシートに挟んでおく。
まだ薄暗い村を姉と手を繋いで歩いて行く。
俺が向かったのは、村長の家。
そう、俺を殺そうとしたり、俺をかばったりした男の家。
誰もここに近寄ってすらいないのか、ひどいにおいと不気味な雰囲気を放つその家の前に止まってフィン、ナディアさん、そして、ベラとマヤのことを思って目をつぶる。
少しの間祈りをささげて、姉と2人でもともとの目的地に向かって進んでいく。
いつか祭りを開いていたその場所も、長い間人が訪れた気配がない。
どうやらあのまま謎の敵の襲撃を受けて両方の村が無くなった様だ。
あの広場をを抜けて更にくらい森の奥へと進む。
ダガーを2つとも取り出していつでも使えるようにしておく。
これから行くのは人の手が行き届いていない場所であり、どんな生き物がいてもおかしくない。
魔物、いわゆる魔法を使う獣などがいた場合、すぐに対応できるように気を付けながら進んでいく。
案の定、少し歩いたところに大きなクマがいた。
そのクマが魔物なのかの判断を下せないので、見つかる前にこちらから仕掛ける。
姉をその場にとどまらせて、できるだけ音を立てないように歩き、木に登る。
クマのすぐ近くの木に向かって飛んで、音を聞いたクマが振り返ると同時に上からダガーでクマを一刺し。
少し暴れるクマにもう1つのダガーを指して2つのダガーで体を切り裂く。
クマの血が飛び散り、服が真っ赤になるが、とりあえず非常食以外の食料を入手した。
「大丈夫だよ。」
クマを抱えて姉をよぶ。
姉と一緒に置いておいたカバンを持ち上げる。
「とりあえずどこかもう少し広いスペースが確保できるところ探そうか。」
まだひんやりとしている森の中で長時間を過ごすならテントを張らないと姉の身体が心配だ。
大きな荷物を抱え、森の中を歩いて行く。
姉はテントを取り出し、俺はクマの皮をはぐ。
「久しぶりのちゃんとした食事になりそうだね!」
上機嫌で姉に話しかける。
「でも、火はどうするの?」
すっかり忘れていた。
「俺の魔法で頑張ります。」
そう言ってうなだれる俺の肩に手を置いた姉
「私はなくてもいいよ?」
そう言って微笑みかける姉。
「いや、オリ姉が食べないなら俺も食べないよ。」
そう言って荷物から器を取り出して中に水を入れる。
「俺が火を出すから、オリ姉が料理して!」
そう言うと、なれない魔法で拳ほどの大きさの火を作り出す。
姉は器を少し熱して、食べれそうなクマの肉を中にいれた。
「結構時間かかりそうだけど、大丈夫?」
心配そうな顔で俺を見る姉だが、必死に器を持っている姉の腕のほうが早く限界が来そうだった。
一度魔法を止めて、あたりにある石を集めて器を置く台を作る。
その下に火を出す。
「これで大丈夫。」
姉は料理にも時々気を配りながら、俺を見つめていた。
「さすが、オリ姉の料理はうまいね。」
姉の作ったものをすべて平らげて、テントに寝ころぶ。
「ありがと。」
姉も俺の横に腰かける。
「まだ辺りは冷えるね。」
そう言いながら、姉の手に俺の手を重ねる。
「ごめん・・もう・・限界・・・」
それを聞いて、俺は姉の手を握る。
そして、手を引っ張って姉をその場に寝ころばせる。
「お願い。
私のうちに。」
姉が悲しそうな顔を浮かべる。
俺は姉にキスをしながら、服を脱がせる。
姉の息がだんだん荒くなっていく。
姉も俺の服に手を付けていく。
いつものような優しいだけではなく、少し焦燥感にかられたような2人の動きは、互いをいつも以上に興奮させた。
姉が俺の上に寝ころんだままキスをする。
「言ってくれればいいのに。」
姉は何も言わずに俺の胸に耳をあてていた。
「寝るときしてくるかと思ったけどしてこなかったから・・・」
顔の熱が俺の体にも伝わってきそうだ。
「外ではしたくないかと思って。」
そう言って姉の肩を掴み位置を入れ替える。
「別に・・・」
恥ずかしそうにつぶやく姉。
姉と肌を重ねるごとに、姉への思いが強くなっていくのを感じる。
そしてそれはきっと姉も同じなのだろう。
「これからは、苦しくなる前に行ってくれないと困るよ。
俺はいつもみたいに落ち着いてヤルほうが好きだし。」
姉の身体にいたずらをしながらそう呟くと、小さな声で返事をする姉。
「結局誰かのせいでここで寝ることになるのね。」
少し不機嫌な姉が俺を睨みながらつぶやく。
「悪かったって。
あんなにするとは思ってなかったから。」
姉は思い切り俺の背中を叩く。
「これじゃあいつまでたっても遺跡につかないじゃない!」
寝転がって、座っている姉の膝を枕にする。
「ごめん。
明日はもっとしっかりと進むって約束するから。」
姉の顔を見上げながら謝る。
姉は不機嫌ではあるが怒っているわけではない。
「まぁ、私にも・・・責任は在るんだけど・・・」
俺に聞こえないように小さな声で呟く姉。
「そうだよね。
俺だけのせいじゃないよね!」
姉のつぶやいたことを聞き逃さなかった俺は少し姉をいじめることに。
「誰かが俺を止めてればこんなに長くなることはなかったのにね。」
「もう知らない。
お休み。」
そう言って1人で布団を使って寝る姉。
俺は少し寒いテントの中で丸まって寝た。
翌朝暖かい場所で目が覚める。
背中には姉がくっついて寝ている。
きっと俺が寝ている間にわざわざ移動してきたのだ。
「おはよ。
オリ姉。」
姉のほうを向きながら声をかけて姉を起こす。
「さぁ、今日こそは遺跡を見つけるぞ!!!」
まだ寝ぼけている姉のことは気にせず出発に向けて準備を進める。
「ほら!
布団から出て!」
寝ぼける姉を起こして、布団とテントを片付ける。
非常食を少し食べて、同じ量を姉の口に移す。
「目が覚めた?」
唇を離した後、目を開いた姉に聞くと、勢い良くうなずく。
雲がまぶしい日差しを遮っていて、心地いい風が少し湿気のある森の中を吹き抜ける。
「ほら、行くよ!!」
姉の手を握り森の中を歩き始めた。




