船上
エマさんが海の水を凍らせて道を作り、そこを走っていく。
俺はエマさんを背負って全力で走っていく。
ティアさんはもうすでについてこれていない。
息を切らしながら走る俺を止めるエマさん。
「少しペースを緩めてください。
早すぎます。」
すこし大きくなった船に向かって走っていく。
どうやら船はもう錨を下ろしているようだ。
「私はおそらく戦えないでしょう。
道を作るのが精いっぱいにだと思います。」
俺の背中のエマさんがつぶやく。
「いえ、こっちこそ迷惑かけてすみません。」
エマさんは何も言わずに目をつぶっている。
太陽が沈み、月明かりを海が反射する。
白と黒とのコントラストが皮肉にもとても美しい夜を作り出していた。
もうあと少しで船というところまで来て、船の上から音が響いてきた。
「止まってください!」
エマさんが氷で船の甲板への道を作る。
全力でその道を上っていき、飛び込むように甲板にたどり着く。
起き上がって周りを見る。
そこに立っていたのは肩から血を流す父と倒れている母、そして魔法を使おうとしている姉。
「オリビアー!!!!」
父が叫ぶが俺を見た姉はその場に崩れ落ちる。
「オリビア!!」
母も同様に叫ぶがオリビアには届かない。
敵を見てつぶやく。
「門番・・・?」
「よぉ、待っていたぞ若いの!」
そう言った門番は姉の元まで歩いて蹴り飛ばす。
すぐ駆け寄って姉を受け止めて、声をかける。
「オリ姉!
オリ姉!!」
起き上がった姉は俺を見て激昂する。
「なんでここにいるの!?」
大声で叫び俺の肩を掴む。
「エマ!!
いったい何のつもりだ!!」
父が叫ぶ。
「私は・・・
私は・・」
父の叫び声に動揺するエマさん。
俺は父の元まで駆け寄って父親を殴る。
門番は楽しそうに俺たちを眺めていた。
「ふざけんなよこのくそおやじ!!」
「俺たちがお前を助けるためにどれだけの犠牲を払ったのかわかってるのか!!」
父が立ち上がって叫ぶ。
「お前がなんて言おうが、俺が姉を助ける。」
門番のほうを向いて睨む。
「待て!!
ここでは魔法が使えない!!」
父が叫んで俺をとめるが、俺はそれを無視して男に殴り掛かる。
男は受け身をとる暇もなく俺に殴り飛ばされる。
「俺はもともと魔法は使えない!!」
後ろにいる父に叫ぶ。
門番は立ち上がる。
「なんだ・・?」
「なぜ魔力が使えるの?」
姉がつぶやく。
姉のほうを向いて首をかしげる。
急に何かに殴られて吹き飛ばされる。
立ち上がった門番が俺を殴ったようだった。
「普通なら首が吹き飛ぶくらいの力だったんだがな・・・」
頭を切ったようで少し血が流れる。
父がダガーとナイフををもって男に向かって走っていく。
荷物からダガーを取り出して俺も父に続く。
父のダガーを軽々とよける門番。
俺のダガーが門番の頭をかすり、かぶっていた帽子が落ちる。
父を抱えて距離をとる。
帽子の中にしまっていた長髪が現れて、男は気持ち悪い笑みを浮かべる。
父の手からダガーを力ずくでとって男に向かって行く。
左手で男を刺そうとするが、男は剣を抜きそのダガーを受ける。
開いている右手で男の首を狙うが、男は剣に体重を乗せて押し、俺のバランスを崩す。
一度距離をとるが、すぐに男が詰めてきて左下から切り上げる一撃を放つ。
その攻撃をしゃがんでよけて左足で、男の足を払う。
しかしそれより先に男の脚が俺の顔を蹴飛ばす。
父は動くことすらできず俺たちを見ていた。
「お前はなぜこの空間で魔力を使えるのか不思議だが、俺には及ばない様だな。」
剣をもってゆっくりと歩いてくる。
姉が男に向かって魔法で銀色の塊を飛ばす。
男は姉のほうを見ることすらせずにその塊をよける。
そこに駆け付けたティアさんが魔法を放つ。
飛んできた風の刃を手で受け止める男。
「おぉ、まだ生きていたか。」
そう言った男はすぐにティアさんとの距離を詰め、ティアさんのからだを真っ二つに両断する。
ティアさんの血がその後ろにいたグレイスとルドルフに飛び散ってグレイスが悲鳴を上げる。
「逃げなさい!!」
まるでタイガのように上半身だけとなったティアさんが叫び、男に向かって魔法を放つ。
俺は男の背後に移動してダガーで体を刺す。
男は防ぐことなくその一撃を受けて俺を見て笑みを浮かべた。
「なぜ、お前は俺に届く・・・?」
その瞬間にシオンの言っていたことが頭をよぎる。
(私に触れることができるのはあなただけなの)
俺はそれを愛の言葉だと思っていたが違うのか。
父は血を流す男を見て叫ぶ。
「行け!!ユウキ!!
お前ならやれる!!」
刺さったダガーを動かして体を裂こうとするが1ミリも動かない。
もう1つのダガーで男の首を狙う。
急に見えない何かに全員が吹き飛ばされる。
「興味深い。
実に興味深い・・・」
気持ち悪い笑顔でそう呟く男。
吹き飛ばされた衝撃で腹に刺さってしまったダガーを抜き取る。
「偶然とは言えこんな終わり方じゃつまんない・・・」
男は俺を見て悲しそうにつぶやく。
「だが、手抜きをするのはよくないな。」
剣をもってゆっくりと歩いてくる男。
父が立ち上がり、ナイフを拾って男に向かって行く。
「早く逃げろ!!!」
何とか立ち上がろうとするが体が動かない。
姉が走ってきて、暖かい光が俺のおなかを包む。
「あなたはみんなの希望なの!
ここであきらめないで!」
母が叫ぶ。
父はナイフで男の腕に切り傷を与える。
「懐かしいね、そのナイフ。」
嬉しそうにそう言った男は父を蹴り飛ばす。
「あの子みたいに私も殺すのかい??」
父を挑発する男だが、父はもう立ち上がる力すら残っていない。
再び俺に向かって歩き始める男の前に立ちふさがる母。
「悪いが君は退場してくれるか。」
つまらなさそうにそう言って男は触ることなく母を吹き飛ばす。
姉が俺の耳元で囁く。
「逃げなさい。
愛してるわ。」
そう言って男に立ち向かっていく。
「君はもう死んでいるだろう。」
そう言った男は姉も母と同じように吹き飛ばす。
おぼつかない足取りで立ち上がると、誰かに腕を引っ張られる。
「行きましょう!」
ルドルフが俺の手を引いて走ろうとする。
エマさんは父の落としたナイフを拾って男に向かって行く。
「うっとうしい!」
男が拳を握ると全員がその場に倒れる。
遠のいていく意識を何とかつなぎとめて立ち上がる。
男が剣を高く持ち上げた。
ルドルフが立ち上がろうとするが、何かに押さえつけられる。
1人で何とか立ち上がり、男を睨む。
俺が来てしまったから、父の計画はすべて駄目になってしまった。
後悔と絶望に襲われながらも、その男を睨みつけていた。
男は笑顔を絶やすことなく剣を持った腕を引いて俺を突く。
「危ない!!」
グレイスが飛び出して俺をかばう。
しかしグレイスの身体を貫通した剣はそのまま俺の体に刺さる。
姉が塞いだ傷をもう一度開けるように刺さった剣を引き抜いて男は笑い出した。
父と母が男に向かってとびかかる。
姉はふらつきながらも俺のもとへ。
「いや・・いや・・・」
泣きながら俺の傷口を抑える姉にキスをして囁く。
「グレイスを」
グレイスは這って俺のほうにやってきて手を握る。
グレイスの体温を感じながらゆっくりと目を閉じた。




