表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能の異世界物語  作者: ちくわぶ
新世代
104/127

脱獄

逃げるように馬車を走らせていく。


最寄りの村につくまで馬車を走らせ、村で休息をとる。


シオンが持っているお金をこっそりと盗んで、安心したシオンが昼寝をしている間に村に行く。


村にある店に行き、食料を買う。


綺麗な花を見つけて、それを花束にしてもらい、シオンに持っていくことに。


まだ寝ていたシオンを起こす。


「シオン。

起きて。」


そう呼びかけて額にくちづけをする。


「んんー・・」


欠伸をしてうっすらと目を開けたシオンに花束を渡す。


寝起きの顔が笑顔に変わり、花束を受け取る前に俺に抱き着く。


「ユウキー・・・」


寝ぼけながらそう言ったシオン。


昨日の震えていたシオンを思い出し、やり返すようにシオンを抱きしめる。


眠そうに起き上がったシオンは俺を見て微笑む。


「きれいな花をありがと。」


そう言って花を受け取ったシオン。


花束を持つシオンにキスをして馬車を降りる。


馬車の外にいた女が俺が1人なのを見て声をかけてくる。


「ねぇ、あんた。

いったいあの子は何なの。」


なれなれしい女に少しイラつきながらも丁寧に対応する。


「あの子は俺の妻です。」


シオンに聞こえないように小声で話す女はかなり体を近づけている。


しかし普通に話す俺の声を聞いてシオンが飛び出てくる。


シオンの姿をみた女は馬車の陰に身を隠す。


「妻?」


花束を片手に飛び出てきたシオンは俺に飛びついてきて肩を掴む。


「誰が!?」


この世の終わりかのような顔で俺の肩を揺らすシオン。


「え・・・?」


俺が驚いて声を出してしまう。


「今、受け取ったじゃん。」


シオンの持っている花束を指さす。


シオンは手を止めて俺の指さす先にある花を見る。


「どういうこと?」


少しの間固まったシオンがついに声を上げる。


「俺が赤い花束を渡して、シオンはそれを受け取ったんだよ?」


ゆっくりと状況を口にする。


「それで?」


しかし理解しないシオン。


タイガがやってきてシオンに耳打ちをする。


顔が真っ赤に染まって泣き始めるシオン。


「大丈夫?」


しゃがんでシオンに声かけると、俺に抱き着くシオン。


状況が理解できないままシオンが泣き止むまで抱きしめていた。




泣き止んだシオンは馬車の中に入っていき、俺を呼ぶ。


馬車に座っているシオンは俺に説明を始めた。


「私のお父さんのいた世界では、結婚をするときには男性が指輪を女性に渡すの。

花を渡すことに大した意味はなかったから・・・」


真っ赤な顔と目で説明するシオン。


「指輪!?

そんな高価なものを??」


指輪なんて普通の人生で目にすることなんてめったにないほど高価なものだ。


「じゃあ指輪が買えるまではシオンと結婚できないのか・・・」


うなだれる俺を抱きしめる。


「ううん。

私もユウキのこと愛してる。

改めてこの花束受け取るね。」


そう言って俺にくちづけした。


そしてシオンは舌を動かし始め、俺もそれにこたえようとしたとき馬車が動き始め、バランスを崩す。


シオンが起こって外を見ると複数の人が村からこちらに向かってきている。


「ユウキ!」


急に馬車のスピードが遅くなり、進行方向から声がする。


そこに立っていたのは黒髪の男、そしてその手には見覚えのあるダガーが握られていた。


しかもその横にはあの女がいた。


「やっぱり殺しておくべきだった。」


その女を見て怒りを覚え、つぶやいてしまう。


あの時の判断ミスのせいでシオンまで危険に巻き込んでしまう。


馬車は進行方向を変えて、村に向かって走り始める。


村から馬車に向かって走ってくる杖を持った男。


「囲まれているぞ、シオン。」


しかしシオンは俺を見て微笑んだ。


「大丈夫。

私が何とかする。」


そう言って両手を前に出す。


深く息を吐きながら両手を開いて行く。


家、木、人など目の前のものすべてが横にずれていき、そこに道ができた。


「タイガ!

そのまま進みなさい!」


シオンが叫び、俺の手を握る。


シオンは息が上がっていて、その場にうずくまる。


杖を持った男が俺の名を叫ぶ。


シオンが狙われないようにシオンに覆いかぶさったまま、追ってから逃げていく。


しかし、追手も馬車に乗り込み俺たちを追って来る。


馬車に乗るのは金髪の女、黒髪の男、杖を持った男の3人だ。


「このままじゃ追いつかれる。」


焦ってシオンを見つめる。


何とかシオンだけでも逃がさなければ。


先ほどから追手が叫ぶのは俺の名前だけだ。


俺がシオンを助けなければ。


揺れる馬車の中で立ち上がる。


シオンが俺の手を掴み首を横に振る。


手にはめていた指輪を外し俺の左手の薬指にはめる。


「私達、夫婦でしょ。

私に触れることができるのはあなただけなの。」


苦しそうな顔でそう呟いたシオンはもう一度息を吐いて力を使おうとするが、すぐに倒れる。


なぜかこんな時に限ってシオンの力が使えない。


いつものシオンならこれくらい簡単に使えるはずなのに。


体調の悪そうなシオンを見て目からこぼれる涙。


シオンにくちづけをして追手の馬車に向かって行く。


シオンが泣きながら俺を掴もうとする。


「タイガ、シオンを無事逃がしてくれ。」


そう言って走る馬車から一歩外に踏み出す。


「シオン、愛してる。」


馬車から落ちた俺は地面を転がっていく。


追手の馬車は俺の前で止まり中から人が下りてくる。


「ユウキ!!」


馬車から落ちた衝撃で目の前がぼやけていく。


立ち上がり、戦おうとする。


手を地面について、何とか起き上がる。


しかし立つことはできずにその場に倒れる。


俺のもとに走ってきた金髪の女を最後に意識を失った。



見たことない部屋のベッドで目が覚める。


誰かに手を握られている。


飛び起きて手を握っていた金髪の女の手を払う。


「誰だ!?

何が目的だ!?」


すぐに女と距離をとる。


俺の声を聞いて黒髪の男と杖を持っていた男が部屋に入ってくる。


知らない部屋で3人に囲まれ逃げられないことを悟る。


涙を流しながら俺を見る女と黒髪の男。


いつ攻撃してきてもいいように構えは解かず3人を見る。


「目的を言え!!」


もう一度叫ぶとその場に崩れ落ちる女。


その背後にある窓に目が付く。


黒髪の男がしゃがんで女に話しかけた隙をついて窓に向かって走り始める。


しかし、素早く俺の前に移動した杖を持っていた男が俺を取り押さえる。


「離せー!!!」


男に抑えられ、抵抗しようとしても男の力は強く、体を動かすことができない。


男に取り押さえられたまま、牢屋に入れられる。


格子を掴み男たちを睨みつける。


俺の目を見た女は逃げ出すようにこの部屋を出ていった。


黒髪の男はその女を追って出ていったが、杖を持っていた変な帽子をかぶった男はそこから動くことなくこちらを見ていた。


警戒を解くことなく牢屋の中にあるベッドに寝ころぶ。




牢屋に入れられてもう4日になる。


時々金髪の女と黒髪の男がやってきて俺から情報を聞き出そうとする。


食事は決まって1日3回出てくる。


俺を懐柔しようとしているのか少し豪華なものが出てくるが、俺はシオンを裏切る気はない。


牢屋の中ですることがないので、目をつむって深呼吸をするようになった。


こうすると、気持ちが落ち着くようだった。


シオンといる時とは違った安心感がする。


指輪を眺めていると黒髪の男が話しかけてきた。


「その指輪・・・・

まさか結婚指輪か?」


そう言って持ってきた食事を差し出す男。


「それがなんだ。

俺は妻を売ったりしない。」


そう言って男を睨むとその男は牢屋の中に入ってきた。


その男が手につけていた指輪を外し、俺に渡す。


「これが俺の結婚指輪だ。

この指輪に誓って俺はお前の奥さんを傷つける気はない。

ただ、エイコーン教国で何があったのかを教えてほしいだけだ。」


そう言って俺を見る男。


俺を拷問していたやつらがいったい何を言っているんだ。


男を睨んでいるとため息をついて立ち去っていく男。


指輪を持たずに去っていった。


その指輪を机の上に置いて寝ころぶ。


ふいにすごい音が聞こえて飛び起きる。


上の階が崩れ落ちる。


「ユウキ!!」


シオンの声が上からする。


「シオン!!」


声のする方向に叫ぶ。


砂煙の中シオンが上の階から降りてきた。


「助けに来たよ。」


そう言って俺を抱きしめるシオン。


シオンを見たとたんに涙があふれ出す。


「急がなきゃ。」


そう言って俺の手を引いて上の階に行こうとするシオン。


よく見るとシオンの腕からは血が出ている。


ハンカチがいる。


「ほら!

ボーっとしてないで!!」


シオンの声で目を覚まし、外に出る。


シオンが開けたとみられる穴から外に出る。


しかしそこにはすでに変な帽子の男が立っていた。


シオンの背中を押して走り出す。


「逃げろ!!」


男に向かって真っすぐ走っていく。


しかし男は素早く俺を取り押さえる。


取り押さえられて体に痛みが走る。


苦しいってことは気が抜けてるんだよ。


誰かの声が聞こえた。


急に体が軽くなったように感じる。


俺を抑えている男の手を掴み投げ飛ばす。


不意を突かれた男は壁にたたきつけられる。


しかし応援の金髪の女が現れ、シオンに向かって行く。


全力で地面を蹴ってシオンを助けに行く。


「シオン!!」


信じられないようなスピードが出て、女性がたどり着くよりも早くシオンのもとにたどり着き、シオンを抱えて走り去る。


「助かった!!」


俺に抱えられているシオンが喜びの声を上げる。


「シオン、怪我は!?」


シオンを抱えたまま走る。


「大丈夫よ。」


シオンの腕から出ている血を見てシオンを強く抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ