大切な人
100話目です。
まさかこんなに長く続けるとは思ってもいませんでした。
まだまだ終わりは見えませんがどうか応援よろしくお願いします。
村から逃げ出してもう3時間ほど歩いた。
一度休憩をとるために水場を探した。
「大丈夫?
疲れてない?」
座って休憩を始めると同時に俺を心配して話しかけて来てくれるシオン。
「大丈夫。
少しは疲れたけど、なんてことないよ。」
そう言って笑うが、実際は限界だった。
昔はもっと力も体力もあったはずなのだが、なぜか体がうまく動かない。
「無理しないでね。
動けなくなったら、私が運んであげるから。」
「大丈夫。
シオンにばかり甘えてもいられないでしょ。」
そう言って、川の水を飲む。
「少し休憩すれば大丈夫だから。」
笑顔でそう言うと笑顔になったシオンはタイガと話しに行った。
川の水で顔を洗って空を見る。
深く息を吸った後、タイガのところまで歩いて行って頭を下げる。
「タイガ、俺を鍛えてほしい。」
ここまで歩いてふらふらな俺の脚をみたタイガは鼻で笑う
「断る。
もっと楽にシオン様についてこられるようになったら考えてやる。」
シオンがタイガを一瞬睨む。
しかし、何も口に出さずに俺のほうに歩いてきた。
「いいのよ、あなたは強くなんてならなくても。」
そう言って俺の手を握るシオンの手を振り払う。
「いや、このまま何も守れないのは嫌なんだ。」
それを聞いたフィンが立ち上がる。
「いいだろう、気に入った。」
シオンがフィンを睨む。
「俺は妻をギルドに殺されたんだ。
そうならないように鍛えてやる。」
そう言って構えるフィン。
俺もすぐに構える。
「まずは身の程を知ることだな。
来い。」
左足で地面を蹴ってフィンとの距離を詰める。
しかしフィンは俺のほうを見ることすらなく左手で俺の頭を掴み地面にたたきつける。
すぐにシオンが飛んできて俺の頭を抑える。
頭が暖かい光に包まれて痛みが消えていく。
「あなた、殺すわよ。」
シオンが俺の頭を抱えたままフィンを脅す。
あたりの空気は完全に凍り付いて、俺は恐怖で息すらできない。
手を伸ばして何とかシオンを掴もうとする。
しかし、震える手はシオンの肩まで届かず、柔らかい何かを掴む。
「あっ」
一気に空気が柔らかくなってシオンが俺を見つめる。
「だめよ・・・」
体の震えが治まった俺は今度こそシオンの肩を掴み立ち上がる。
「いや、俺は強くなって守らなきゃいけないんだ。」
俺の手を掴んだシオンが俺に尋ねる。
「誰を?」
誰を?
もちろん大切な・・・
「大切な人を。」
名前すら思い出せない人を。
シオンの手が強くなり、俺は手に力が入れられなくなる。
「それって、誰?」
「もちろんシオンだ。」
そのはずだ。
それを聞いて笑顔になったシオンは立ち上がって俺に抱き着く。
すると急に眠気に恐れる。
「今日はここまでね。」
嬉しそうにそう言ったシオンはタイガに野宿の準備を指示する。
なんとか意識を失わずに立ち上がる。
「いいのよ、あなたは寝て疲れをいやしなさい。」
耳元で囁いたシオンの息が耳にかかる。
そこであらがえずに意識を失う。
いい匂いがして目を開く。
目の前には2つのふくらみとその向こうには俺を見つめるきれいな瞳があった。
「起きた?」
起き上がり、寝ぼけた頭をかきながら、目の前の美少女を見つめる。
「おなかすいてない?」
そう言ったシオンは立ち上がって2つの器を持ってきた。
「これ食べて、私が作ったの。」
嬉しそうに笑うシオンから器を受け取って口に運ぶ。
「おいしいよ。」
笑顔で乾燥を言う。
嬉しそうに笑ったシオンは自身も食事を始めた。
食事を終えて真っ暗な森の中で2人寝ころぶ。
俺は起きたばかりなのにとても眠い。
シオンは俺の体を触りながら耳をあまがみする。
シオンの息が俺の耳をくすぐる。
「私やっぱりあなたが危険な目に会うのは反対よ。」
そう言って俺の頭を自分の胸に引き寄せる。
「私が守ってあげるから、あなたは誰にも見つからないように隠れていてほしいの。」
シオンは右手で俺の頭を抱えて、左手は止めずに話を進める。
俺が何かを言おうとするたびに、唇を手で押さえ俺に喋らせようとはしない。
「あなたが私を守ってくれるのはうれしいけど、私のほうが強いもの。」
そうだ、俺はいつも弱くてみんなを傷つけてしまう。
「だから、もう訓練なんてやめましょ?」
シオンの声が頭に響き、そのままうなづいてしまいそうになる。
「だめだ。」
シオンの体を押しのけて顔を見つめる。
「俺は守らなきゃいけない。」
シオンは悲しそうな顔でこちらを見ていた。
「俺がシオンを守るか」
ひどい頭痛に襲われてそこで言葉が詰まる。
驚いた顔で俺を呼ぶシオン。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「頭が・・・」
何とか絞り出した言葉を聞いて俺を抱きしめるシオン。
暖かい光に包まれるが痛みはひかない。
「お・・・」
何かが頭に浮かんでは消えていく。
「寝なさい。」
シオンの冷たい声が聞こえて意識を失う。
朝日が顔を照らしてまぶしさで目が覚める。
横で寝ているシオンを見て眠気が飛んで、シオンの服を脱がせる。
「もぉー
ダメでしょう。」
寝ぼけながら俺を抱きしめるシオン。
自身も服を脱いでシオンに密着する。
「しょうがないなぁ。」
今までで最も嬉しそうに笑ったシオンは、その場でおれを受け入れた。
シオンが俺の頭を撫でる。
「私も疲れたわ。」
そう言ってシオンの上に乗っている俺を抱きしめる。
「これから移動をしないといけないのに。」
そう言って俺に服を着せる。
笑顔でシオンにキスをして、シオンの体に舌を這わす。
「もう駄目よ。」
シオンが俺の頭を押しのけて服を着る。
「残念だ。」
あきらめて服を着て護衛の2人と合流する。
俺のペースに合わせてゆっくりと歩みを進める3人。
よく見るとフィンの体に血が付いている。
「フィン、血ついてるよ。」
俺はフィンの服の血のついている部分を指す。
フィンは呆れたように笑った。
「次の休憩で洗うさ。」
しばらく歩くと、広い畑に出た。
「ここは?」
タイガのほうを向いて聞くが首を横に振るのみで答えない。
「これには触らないほうが良い。」
真剣な表情で言うフィン。
「これはいったいなんなんだ?」
フィンに聞くと一歩下がったフィンは
「これは毒だ。」
と言った。
「とても中毒性が高く、多くの人がこの毒にやられて廃人になっている。」
そう言ったフィンの真似をして後ろに下がる。
「まて!そこのもの!」
急に声をかけられてそちらを振り向くタイガとフィン。
「何者だ!?」
明らかに戦闘慣れしているその男は俺たちに向かってやりを構えた。
男が動き出すよりも前にタイガが男に向かって行く。
タイガは男にナイフをもってとびかかるが、男はやりでタイガの腹部を殴り、吹き飛ばした男はそのままタイガにとどめを刺そうと追い打ちをかける。
何とか着地したタイガはすぐにナイフを構えて男を待ち受ける。
リーチの長いやりを受けタイガは防戦一方でだんだんと切り傷が増えていく。
シオンはタイガを見てうなずく。
その瞬間から形勢が逆転する。
タイガはナイフを落とし、素手で男と対する。
男が槍で突きを放つと、タイガの手がやりの軌道を変える。
男が一呼吸おいて連続の突きを放とうと踏み込んだ。
その瞬間にタイガが手を上げて、先ほど落としたナイフが男の腹に刺さる。
隙ができた男にタイガは近づいてナイフを掴み、男の腹をさばくように切り裂いた。
男の返り血を浴びたタイガは気持ち悪そうな顔をしながらこちらに歩いてきた。
「シオン様、どうしますか?」
シオンは少し考えた後、フィンのほうを向く。
「こいつらは何?」
フィンは死体を見て答えた。
「おそらくこいつらはこのあたりで最も大きい盗賊団の一員だろう。
確か・・・ブラッズと名乗っていたな。」
シオンはそれを聞いて嬉しそうに笑った。
「いいわ、私とユウキの記念日を祝して、ここをつぶしましょう。
それにちょうどいいでしょう?」
そう言ってタイガを見る。
「ちょっと待てよ。
危険そうだから逃げたほうがいい。」
シオンの腕を掴んで忠告する。
しかしシオンは妖艶な雰囲気を浮かべ俺を見て、唇を奪う。
「いいのよ、私達には壁が必要だもの。」
そう耳元で囁かれ、何も言えなくなってしまう。
「行きましょう。
このあたりに根城があるはずでしょう?」
楽しそうに笑って歩いて行くシオン。
不安なままそのあとをついて行った。
畑の周りを歩いていると2組の男たちと出くわす。
「おい!
お前らここがどこだかわかっているのか!?」
そう言ってやりを構えた男。
答えずにタイガが男に近づく。
もう1人がタイガに向かって突きを放つ。
タイガはそのやりを掴み男2人を薙ぎ払う。
フィンが1人の男の体を踏み、タイガはもう1人にやりを突きつける。
「おい、お前たちの拠点はどこだ!?」
タイガが男たちに声をかける。
何も言わずに互いを見た男たちは、近くに落ちているやりに手を伸ばそうとした。
タイガはやりで男の腕を刺し、フィンは男の脚を踏みつぶす。
タイガに腕を刺された男はそのまま笑って、反対の手でやりを掴む。
もう1人はフィンの体に無事な法の脚で蹴りを入れる。
タイガは動じずに男の顔を蹴り飛ばし、フィンは何もすることなく蹴りを受ける。
それを見たシオンは俺の手を握り2人に命令を下す。
「そいつらは始末していいわ。
行きましょう。」
そう言って俺の手を引いて畑沿いを歩いて行く。
2人はすぐに男たちを始末して後を追ってくる。
「もし、ただの見張りがこの強さなら、きっと楽しいことになるわね。」
そう言って俺の手にキスをして歩くスピードを上げるシオン。
少し歩いて、小屋を見つけた俺たちは、タイガがそこの小屋を制圧するのを待つことに。
1人で入っていき、少しして出てきたタイガは血でまみれていた。
「ここから山のほうに歩いて行くと洞窟があります。
そこが拠点のようです。」
そう言って血をぬぐうタイガ。
「行きましょうか。」
タイガの言うとおりに進むと洞窟があり、タイガを先頭に進んでいく、フィンは最後尾だ。
シオンは片時も俺の手を離すことなくくっついて歩く。
中から3人の見張りが歩いてくる。
俺たちを見てすぐに臨戦態勢に入った3人組。
シオンをかばうように前に立つ。
シオンは嬉しそうに俺に抱き着いて、フィンがタイガと並び構える。
フィンが真ん中に立つ男に殴りかかり、左に立つ男はその男をかばうように大剣でフィンの拳を受けた。
やりを持っていた真ん中の男は左の男の大剣のすぐ横からやりをフィンに突き刺す。
フィンの腕に刺さり、血が噴き出る。
右にいた男がタイガに向けて矢を放つ。
タイガがそれをよけつつ、大剣を持つ男にナイフをもってとびかかる。
大剣を持った男は地面に大剣を刺したまま懐から短い剣を取り出し、タイガのナイフを受ける。
その隙にタイガに襲い掛かるやり。
フィンが大剣の男に殴り掛かり、それを持っていた剣で受けた男は吹き飛ばされ、剣は折れる。
後ろからフィンに向かって矢が放たれ、それを左手で受けるフィン。
やりの男の連打を少しの傷を受けながらもしのいだタイガはフィンに向かって全力で飛び出す。
フィンの腕を踏み台にして、弓を持つ男に斬りかかる。
槍を持った男はすぐにフィンに向けてやりの連打を放つが、フィンは地面に刺さっていた大剣を抜いて、その大剣でやりの男を切る。
やりでその大剣を受け、まっぷたつに斬れたやりをもって距離をとった男。
大剣を持っていた男は立ち上がり、タイガはナイフを弓矢を持っていた男の首から抜いて立ち上がる。
大剣を持ったフィンはそれを担ぎ、2人に近づく。
警戒した2人は左右に散らばった。
こちらに向かってきたやりを持っていた男。
シオンを後ろに押して、構える。
タイガは武器を持っていないと思われるもう1人の男にとびかかりナイフを刺す。
武器を持ってこちらに向かってくる男。
刃のついている方のやりを右手で持ち俺に向かって突きを放つ。
左手でその突きを受ける。
激痛に襲われる左手を握りしめて高く振り上げて男のバランスを崩す。
男はもう一方の槍で俺の喉めがけて突きを放つ。
しかし、それより先に俺の右脚が男のあごにあたり、一瞬ふらつく男。
そしてすぐに大剣が振り下ろされて男はつぶされた。
左手から血があふれ出す。
「大丈夫!?」
飛びついてくるシオンが左手に触れる。
血の勢いが弱まっていく。
「大丈夫。
シオンを守れてよかったよ。」
そう言って笑いかけるとシオンは涙を目に浮かべながら俺を抱きしめた。




