始まりの事件
俺の名前は尾崎太一、23歳で大学入りたてのフレッシュマンだ。
今日は入学が決まった大学の事前説明会にやってきた。
雲が太陽を遮り、少し肌寒さを感じる風がキャンパス内を吹き抜ける。
汗を袖で拭いながら自転車から降り周りを見渡す。
多くの期待に満ちた明るい顔をした人々と、書類を持っている少し大人びた雰囲気の人々が立っている。
道路の向こうにはバス停があり、ちょうどついたバスからさらに多くの人が流れ出る。
カバンからペットボトルを出しふたを開け、お茶を口に含む。
自転車を30分もの間、全力で漕いだため、汗が止まることなく流れ落ちる。
カバンからタオルを出し汗をぬぐう。その時ふと一人の女性に目を奪われる。
その女性が歩を進めるたびに長い髪が揺れる。
バスから降りて歩く人々の中でなぜかその女性だけに照明が当たっているかのように目立っている。
自転車に鍵を掛けるのも忘れ、カバンをつかみ人波へと飲まれていく俺。
人ごみの中ですらその女性は照明に当てられているようだ。
彼女から目を離すことができず、人波に逆らうことなく歩いていく。
坂道にかかり後ろから歩いてきた人に肩をぶつけられる。
「あ・すいません」
その女性から目を離すことができずボソッとつぶやくように謝るが、返事が返ってくることはない。
もしかしたら頭を下げたりしているのかもしれないとふと頭によぎり、無意識にその人へ目線を移す。
その男か女か後ろ姿では判断がつかない人物は自分を含む周りの人に意識を向けることなく真っ先にどこかに目指して歩いていく。
心の中で舌打ちをしながら先ほどの女性に目を戻す。
気が付くと彼女は少し前に行っていて、なぜか追いつかなければいけない気がして少し足を速める。
人ごみをかき分けながらふと横を見ると長髪の人物か少し早歩きで進んでいる。
その長髪の人物はよく見ると男のような顔立ちで、自分と目が合うと目線を前に戻しスピードを上げる。
周りの人を押しのけ進んでいく男を見て自分も負けじと進んでいく。
あの女性がどこにいるかも気づかずに男の前を歩く。
なぜ自分でもこんなことをしているのかわからないがふと前を見るととてもきれいな長い髪が見える。
気が付くとあの女性、自分あの男の順で縦に並んでいるようだ。
なぜ自分がこんなことをしているのかわからないがその場に倒れこむ。
なぜ自分がこんなことになっているのかわからないがとても苦しい。
赤く染まった手を見てふと前を見る。
2人の長髪が目に入るが、一人は倒れこみ、もう一人は走り出す。