勝者と敗者と第三者
腹部から熱さと痛みを感じる。
胸部に届いた手から感じる骨を砕き、内臓を破壊した感覚。
少しの静寂の後少女の口から血が溢れる。
「…ブッ………」
ガシャンと音を鳴らして聖剣が少女の手から離れてこっちに向かって倒れる。
そいつを受け止めるとピクピクと痙攣していた。
「……ふぅ……」
誰だろうと殺しに来るなら殺すが、こういうやつをやるのは嫌なもんだ。
ゆっくりと少女を地に寝かせて、こっちが受けた傷の治療をする。
まぁ、治療と言ってもせいぜい服をちぎって固定するだけだが…。
傷の深さは内臓に届いていない程度っぽいな。
だが、それだけダメージを負うとは思ってなかった。
これじゃあ、下手に突撃してもやられるだけかもな。
王子達を待つべきかあいつの事を考えて無理してでも突撃するか
考えていると少女の胸が光り始めた。
あの時の回復した時の光と一緒だ。
「マジか……」
心臓潰したんだが、それでも回復するのか……。
これが続くとすると、いつか死ぬな。
この不毛から脱するべく手を口に当てて打開策を考えていると
「……ケホッ…ゲハッ…!!」
せき込んで吐き出す声が聞こえる。
もう治ったのか、流石に早すぎるだろ。
「…オエッ……ハァ…ハァ……?」
「もう目が覚めたか。なんてでたらめな再生能力だ」
「ッ!?……お前ッ!!」
「待て待て、俺にもう戦う意思はない」
動く片手をあげて戦意が無いのを伝える。
癪だが、このままじゃあいずれ俺が致命傷負って死ぬだけだ。
そんなクソゲー付き合ってられるか。
不毛から脱するべく戦闘を終わらせるしかない。
「戦う意思がないってどういう事?」
「そのまんまの意味だ、俺にお前と争う気はない」
「あ、争う気が無くても私にとってお前はみんなの仇だ。だったら……」
「だったら、なんだ。首をはねるってか?
斬れば間違いなく大量の血が出るぞ。
ここ斬った時の返り血で吐いてたお前が耐えられるかね」
「うっ……!!」
それを聞いて思い出したのか口に手を当てる少女。
「お前、血に慣れてないんだろ。無茶するなよ」
「……ッ!?う、うるさい!!お前達に殺されたみんなの仇のためだ!!
血なんてこ、怖くない!!」
「それにさっきから仇、仇って…
お前は俺がみんなを殺した所を見たのか、その証拠はあったのか?」
「ないけど、王子様がそうだって…ッ!!」
「ないのに人が言ってた事を信じて人を殺そうとしたのか、お前は」
あっさり詐欺に引っかかるやつだ、こいつ。
やっぱり騙されてたんだろうな。
「だ、だって……!!」
「だってもあるか。ったく…大事な人殺されて仇を打ちたいって
気持ちはわかるがそういう時こそ冷静になるべきだ」
「………そうなの?」
「あぁ、そういう時は怒りや悲しみで正常な判断が出来なくなる。
からこそ、冷静になるべきだ。
深呼吸して、頭を冷やして考えてみたらどうだ?」
そういうと彼女は大きく息を吸って息を吐く。
殺そうとしていた相手の事を鵜呑みにして実行する。
こっちとしては楽でいいんだけど………こいつの事が心配になって来た。
「……で、でも、あの人達の事を私は疑うなんて…」
「そうやって思考停止するんじゃない。こういう時こそ考え―――」
話そうとしたところで脳内にアンジュの声が響く。
「ケンさん!!前です、前方に魔力反応が!?」
前だと……!?そう思ってみるが何もいない。どういう事だ?
そう思っていると前方に魔法陣が出現して光線の様なものが一直線に飛んできた。
なっ……!?
躱せるかどうかギリギリだが、こいつは避けれるのか?
どうせ、あの光で回復するだろうに放っておけなかった。
こいつを左に引っ張って俺も同じく左へ躱そうとするが
その迷いのせいで光線が俺と少女を貫く。
互いに胸を貫かれ、倒れる。
「ガハッ……カッ…ァァァ!!」
痛みで声を上げるが肺をやられたのかまともに声が出ない。
声の代わりに血が口から零れる。
肺をやられたせいで呼吸がおかしくなる。
それでも体にカツを入れて起き上がるため、手足に力を入れる。
「オエッ……ゲハッ…」
何度も息を吸うが満足に酸素が回ってない気がする。。
口からボタボタと垂らしながら前方を見ると逃げたあの王子が歩いてきていた。
真正面からとは……舐めてやがる。
「ゲハッ……てめえ…………!!」
「貴方に当たるのは実に幸運でした。今のあなたなら私でも勝てそうですからね!!」
そう言うと王子は魔法陣から四足歩行のキメラを召喚する。
…4体か……厄介な……。
一匹のキメラが意気揚々と口を開けて突っ込んで来た。
舐めてんじゃねえぞ!!
震脚を繰り出し、その勢いのまま掌底をキメラを吹き飛ばす。
ザクロのように四散して吹き飛ぶキメラ。
「……恐ろしい男だ、その傷でこうもあっさり……」
「ゲホォッ……!!」
衝撃が体に響いたのか口から血が零れるが気にしないで王子へと突っ込む。
体が動く時間の間に葬るまでだ!!
他のキメラも襲い掛かってくるが、一体は回し蹴りで半身を蹴り飛ばす。
次のキメラは手刀で一刀両断する。次に突っ込んできたやつへ拳を握りしめて…
[ケンさん、光線が来ます!!避けてください!!]
アンジュの声が響いたと同時にキメラを貫いて光線が俺の腹部を貫く。
しまった……さっきやって来たじゃねえか……!!
流石に胸と腹に風穴空くのは無理だ……。
足から力が抜けて倒れる。そして、口から血が溢れ出す。
[ケンさん!?それはまずいです!!もう体が持ちません!!]
「…ッハッ…………て、てめえ……!!」
足に力を入れようとも震えるだけで力が入らない。
心臓が動くだけでも痛みが駆け巡り、傷口から血が溢れ出る。
腹の穴から血以外も垂れ流れている気がした。
腸でも飛び出ているのかもしれない。
空気を吸い込んでも酸素を取り込めている気がしなかった。
「チェックメイト…普段のあなたならせめて致命傷は回避するはず。
しかし、胸の傷があなたを焦らせたようですね」
「……グ…ガハッ……ずっとこうなるのを……待ってたって…わけか」
「えぇ、争いを起こさせる以上は不確定要素は排除せねばありません。
よってあなたにはここで消えて貰いましょう」
王子は指に光を集める。
くっ……動け!!動け!!動け!!動け!!動け!!動け!!動け!!動け!!動け!!
こんな勝ち誇ったやつをこのままにしていていいのか!!




