一人目の頂点その2
「な、何もやってねえし、ステルスだなんて俺知らねえよ」
「……あくまで白を切る気か…」
「し、白なんか切ってねえ!!本当なんだ、信じてくれ!!」
「黙れ、お前のような裏でこそこそと動く事しか出来ない卑怯な雑魚が…!!
白を切り続けるんならここで始末するまでだ」
………卑怯な雑魚だと?
こっちが下手に出てりゃ良い気になりやがって……。
[ちょ、ちょっと、ケンさん。落ち着いてください。
騒ぎを起こしたらあの街に入れなくなるかもしれないんですよ]
そんな事知った事か……!!
あそこまでボロカスに言われたんだ。
流石に仕掛けにはいかないが仕掛けてくるなら叩きのめすのみだ!!
いつ、仕掛けて来ても言い様に重心を変えて備える。
さっきまで言いたい様に言っていた野郎が剣をその場で振り下ろす。
その瞬間、風を切る音が聞こえた。
…………まさかッ!?
その場から即座に右へと飛び退くとさっきまでいた場所が切り裂かれる。
やっぱり、飛ぶ斬撃とかそういう部類の攻撃だったか。
爺さんの耕うん機で音を聞いてなきゃ、反応が遅れて被弾していたかもな……
「この距離で避けるだとッ!?」
「兄貴の魔術を避けるだなんて……」
二人が避けた事に驚いている隙に間合いを詰め、すぐさま拳を握り締めて
攻撃してきた方を仕留めにかかる。
「ッ!?兄貴!!危ないッ!!!」
が、弟分らしい方が手を前に突き出した瞬間に拳は見えない何かに阻まれる。
まるで鉄の壁を殴ったかのような衝撃が全身に響く。
何だこれは……こいつ何をしやがった。
これがどういったものなのか調べてみたいが今はそんな事している場合じゃない。
すぐさま、飛び退いて距離を取る。
「アンジュ、さっきのが何かわかるか?」
[ケンさんの攻撃を防いだのは魔力で出来た壁ですね。
彼らの前方に多量の魔力反応があったので間違いないです]
「魔力の壁か……見えねえってのが厄介だな」
「何を独り言を言ってやがる。たまたま避けただけで勝ち誇ってんのか」
兄貴って言われている方が舐めた事を言いながらこちらに剣を向けて、
同じように攻撃をしてくるが、さっきと同じである以上は余裕で避けれる。
後はあの魔力の壁をどうにかするかだが……。
色々試すよりかはここはせっかくついている便利なサポートを使うに限る。
「アンジュ、魔力の壁ってやつはどういう性質なんだ」
[性質ですか…えっとですね、構造からして打撃での破壊は困難だと思います。
ですが、衝撃自体は通りますのでケンさんの手を広げて撃つあれなら
貫通できるんじゃないかと踏んでます]
「確かに衝撃が通るってならいけるな、あんがとな」
さっきのを避けて確信したが、どうやら直線的な攻撃しか出来ねえみたいだ。
ならば、見えなくとも起動を予測するのも動作もない。
追撃も起動を予測できるため、横へと跳んで躱してそのまま一気に接近する。
「兄貴、危ない!!!」
さっきと同じように魔力の壁を貼って防ごうとしてくるが今回は無駄だ。
壁が貼られる位置を予測し、踏み込んで掌底を放つ。
掌底自身は防がれるが、掌底の衝撃は魔力の壁を貫通して兄貴と言われていた方を吹っ飛ばす。
「ッハ!!……ガハッ!?」
「あ、兄貴ッ!?そ、そんな……!?」
兄貴と言われている方はバウンドする事無く吹っ飛んで木に叩きつけられる。
軽く痙攣をしているところを見るともう動いてくることはなさそうだ。
そんな事はさておき、尻もちをついている兄貴と呼んでいた子分らしい奴へと近づいていく。
「ひ、ひっ!?」
ではないの方は恐怖で顔を歪ませて必死に逃げようとしているが
無慈悲に踏んで動きを止める。
別に舐めた口を効いていた方は動かなくなったし、こいつをどうするか。
口封じのために二人とも消すってのもありっちゃありだが
別にそこまでする程じゃねえから条件飲ます程度でいいか。
「おい」
「ひぃ……い、命だけは……!!」
「そっちから絡んだ上に仕掛けておいて、都合いい事言ってんじゃねえよ。
だが、こっちの条件を飲むなら命だけは助けてやる」
「聞く!聞く!聞きます!!だから、どうか!!命だけは!!」
涙をボロボロ流しながら命乞いをしているではない方。
自分らから仕掛けておいて、このざまは流石に情けなさすぎる。
だが、それでも同情はしない。
しっかりと口封じの条件は飲んでもら―――
[ケンさん、8時の方向から魔術による攻撃が来てます!!すぐにしゃがんでください!!]
「何ッ!?」
すぐにしゃがみ、その飛んできた魔術を避ける。
その魔術は真横にあった林の木をすべて切断した。
なんだあれ、さっきのと範囲違いすぎだろ………!?
破壊された光景に目を奪われていると突然突風が吹き荒れ、その場にいた3人を吹き飛ばす。
一気に爺さんの畑近くまで吹っ飛ばされる。
クソ……どっからだ。どっから攻撃してきやがった。
周囲を見回してみるが、人影一つ見当たらない。
本当にどっから攻撃してきたんだ、開幕見当がつかねえ……。
「アンジュ、攻撃してきたやつがどこにいるかわかるか」
[えっとですね、そこから10時の方角ですけど……まだ、詳しくは――]
アンジュが言っていた方向から風を掻っ切る音が聞こえる。
即座にその場から飛び退くと地面が斬撃音と共に深く切り裂かれた。
こんなん喰らったら絶対死ぬ、100%死ぬ。
意地でも躱さないと……
そんな事を思っていると、いくつもの風を切って突き進んでくる音が聞こえた。
即座にバク転し、すぐさま横へと跳んで襲い掛かってくる魔術を避ける。
クソ………攻撃が見えないせいで下手に突っ込めないから防戦一方だ。
どうにか打開しないと……
「アンジュ、まだ相手の場所を特定出来ないのか!?」
[もうちょっと待ってくださいね……といました!この先、約2km程―――]
何か、風を切る以外の音が聞こえて来た。
何の音かはわからないが、明らかに風を切る音以上にやばい気がする!!
すぐにその場から離脱するべく走り出す。
絶対にこの場にいるのはまずい、そう俺の第六感が警報を鳴らしている。
[ッッ!?不味いです!!今すぐにその場から離れてください!!]
「言われなくてももう動いてる!!それより何があった!!」
[その相手がいる場所から強大な魔力反応が―――]
アンジュの言葉を遮るかのように強大な破壊音を立てながら竜巻が突っ込んできた。
林を荒地に変え、木を掘り返し、岩を削り取り、土を巻き上げ
周りにあるすべてを飲み込まんと吸い込んでいく。
吸い込まれまいと竜巻から逃げるべく走り出すが
竜巻も俺を逃がさんとばかりに吸引力を上げて行き、一瞬体が宙に浮く。
「なッ!?」
[ッ!?]
自分の中の時間が止まり、全身から冷や汗が一瞬で噴き出る。
死の一文字が頭の中を駆け巡り、思考が停止しそうになるが即座に
宙を蹴って自分自身を地面に叩きつける。
かなりの勢いで激突したがために、ギャグマンガのように
地面にめり込んだがこれで良い。これならしのぎ切れるはずだ。
[あ、危なぁ……ケンさん、絵面は酷いですけどそれを維持してくださいね。
下手に動くと吸い込まれて死にますよ]
「言われなくてもわかってる……ッ!!」
隣の木が竜巻の吸い込みに耐えきれずにバキバキと音を立てながら
引き抜かれ、竜巻に飲み込まれていく。
こんな光景、特撮でしか見た事ねえ……。
巻き起こされる天変地異のような光景に冷や汗を流しながら、耐えていると
破壊の音が徐々に小さくなっていき、吸引力も下がっていった。
[竜巻が縮小していってます。なんとか耐えしのげましたね]
「ああ、なんとかな……」
顔を上げて後ろを見ると土は巻き上がり、地面はえぐり取られ
ずたずたになった木や岩が辺り一面に散乱していた。
これから先、こんな事出来るやつらとやりあう事になるのか……。
[………どうしました、怖くなりましたか?]
「そんなわけないって言ったら嘘になるが……それよりも
相手はなんで追撃してこない?何をしてやがる」
[確かに生きてる以上は追撃してきそうなものですが、何故でしょうか]
「………そういや、あの絡んで来た二人はステルスがどうたら言ってたが
もしや、俺はレーダーのようなものでは確認出来ないのかもな」
[さっきまでは視認出来るから攻撃して来たけど、今は自身の攻撃で
視認が困難な状態になってるから攻撃出来ない……その可能性はありますね]
「俺の現在位置がわかってないってなら……近づくチャンスだな」
この隙に近づいて、一撃叩きこんでやる。
[え………?もしかして、やり返すつもりですか?]
「当たり前だろ、こんだけやりたい放題やられたんだ。
一発撃ち込まなきゃ気がすまん」
このまま尻尾巻いて逃げるだなんてごめんだ。
反撃のチャンスがあるなら反撃あるのみだ。
[はは、すっかりお師匠さんの考えに染まっちゃってますね……引くわー…]
「色々言いたい事はあるが置いておくとして、相手はどこにいる。
あれが来る前の言い方からして位置は特定できてんだろ?」
[出来てはいますけど……頼みますから、死なないで下さいね]
「頼まれなくても死なねーって。それより場所はどこだ?」
[ケンさんから見て、ちょうど土煙が上がってるから見えませんけど、
切り立った崖のような場所があって、そこから狙撃していました。
現在、動いていないようなので右側から回り込めば視認されずに相手に近づけるはずです]
「わかった、右側からだな……。相手に何か動きがあったら報告頼むぞ」
[わかってますって、私を信用して下さいよ]
「仕事中に酒飲んでいびきかいて寝てるやつを信用してって言われてもなぁ」
[まだ言いますか!?お願いですから忘れてくれませんか?]
アンジュをからかいつつ、右側から相手がいるその高台へと向かって行く。
散々やりたい放題やってくれた落とし前つけさせてもらうぞ。