守りと新たな命
俺一人ならば即突撃して切り抜けてもいいが、他にいる以上下手に
突っ込んで危険に晒すことは出来ない。出来れば、向こうから来てほしいのだが
向こう側も下手に突っ込んでも返り討ちに合うのが分かってくるのか中々来ない。
互いに警戒を崩すことなく睨み合いが続く。
相手側の魔術なのか能力なのかは知らないが、冷気によって気温の低下を感じる。
まずいな、このままだとこちらが不利だ。
相手はこちらが消耗するのが狙いか?頭を使いやがる。
こうなったら、無理やり攻め込むかなど考えている矢先
「お前たちご苦労であった」
その声を聞いた氷狼達はこちらへの警戒を解いた。
誰だ…?
声が聞こえた方へ目を向けるとそこには一人の少女がいた。
いつの間に現れた、こいつ。
「そうか、貴様ら…ルーヴの民か」
「…知ってるのか、シャル」
「あぁ、獣の姿を持つ獣人の事だ。テレパシーを使用できる定住しない渡りの民
らしい。私自身実物を見たのは初めてなんだ」
「正確には獣の姿が本来の姿でな。この姿じゃないとお主ら警戒するじゃろ?」
「…少なくとも私の中では人以外は話さないイメージがある。
獣に話しかけられれば警戒はせずとも動揺はするだろう」
「そういう事じゃ。この姿も子供の方が警戒を解きやすいと聞いたのでな。
このような姿を取ってみたのじゃが、どうか?」
「どうかだの警戒を解きやすいだの油断を誘っているのか敵意は無いのかどっちだ?」
彼女?はまだ一言もこちらの味方とも言っていない。
親しくしておいて油断させて襲い掛かるなんて事はあり得る。
用心深く行くべきだ。
「後者じゃ。だからその敵意を解かれよ。異なる世界の者よ」
異なる世界の者だと…俺がこの世界の人間じゃあないって知っているのか。
まぁ、俺の魔力は無に等しいからそれで気づいたのかもしれんが。
油断こそ出来ないが、ここは相手への信頼を得るためにも警戒を緩める。
が、最低限いつ来ても対処は出来るようにしとかないとな。
「で、お前らは何で俺達の前に現れた。意味がないわけじゃあないだろう?」
「理由は複数あるが、まずは大蛇殿へ近づかないでほしい事からじゃな。
あやつは今我が子を守ろうと神経を張り巡らせておる。
もう少し、長くて次に日が昇るまでには生まれるじゃろうて。
それまではそっとしておいてやってほしい」
シェシュルの言う通り本当に子を守っていたのか…。
「確かに互いに被害が出ないというのならそれに越したことはあるまい。
が、やつはいつまであそこにいる?それ次第ではその頼みを聞く事は出来ない」
「生まれ次第本来いたであろう場所に移動する、あやつもそう言っておった」
「待て、本来いた場所だと?それはどういう意味だ」
「それについては今から話す。やつは本来このようなところに住む者ではない。
この場所に連れてこら…いや転送させられたのじゃろう」
転送だと……。一体誰がなんのためにやったんだ?
「て、転送ですか!?あ、あの大きさのものを転送させるなんて相当な大きさの魔具
と多大な魔燃石が必要ですよ!?」
「それについてじゃが、本来の生息していた場所を探索したところな」
「は…こちらですね。長」
「うむ、これらが多数発見された」
そう言って小学6年生ぐらいの少年がすっとあるものを差し出してきた。
それにしてもこいつら子供の姿ばかりだな…。
「こ、これは……魔燃石の残骸……!?こ、これが多数あったって事は間違いなく
人為的に行われたはずです。で、でもなぜ…」
「あの大蛇の戦闘力、そして子供が生まれるまで動かないと言う事を利用して
意図的に道を封鎖していたという事か。そして、あの巨体だ。軽く動いた程度で
道は瓦礫で埋もれて封鎖されるだろう」
「仮にそれが本当だとしても、して何になるのよ」
「こ、この道はラルックドッシュへの最短ルートですよ。と、通れないともなれば
ノーヌミールから来る食糧の多くが届かなくなりますよ。か、仮に届いたとしても
その分手間がかかっているため値上がりすることになります」
兵糧攻めとは随分と陰湿な手を使いやがる。
空腹ってのは最高の調味料だが、最高の苦痛でもある。質が悪い事この上ない。
「しかし…貴様たちはなぜそれを私達に伝えた?貴様らの目的はなんだ」
「理由は一つ。人々の衝突を…戦争を避けたいのじゃ。今の人の力で戦争なぞすれば
戦火が我らにも…いや、この世界の生物全員にも降りかかるじゃろうからな。
この世界に生きるものとしてそれは避けねばならん。だが、人の争いを我等だけで
は止めれぬ。ならばどうするか考えた末、貴様らの国ノーヌミールじゃったか?
に加担すると決めたというわけじゃ」
「しかし他にも国はある。何故私達の国にしようと思った?」
「人々の長達を観察した上でお主らの長に力を貸すべきと我らは決めたのじゃ。
じゃが、決めたと言ってもあやつを守るためにわしはそばを離れられん。
どうするべきかと思ってたところにお主らが来たわけじゃ。特に長のそばに
おったものがおったんでな。こうして伝えさせて貰ったというわけじゃ」
こうして伝えてくれたのはシャルのおかげか。
たまたま、王子が同行を頼んでなかったら、忠告されていただけだったわけか。
運がいいというかなんというか。
突然、山の方から何かがパキパキと割れる音が鳴り響く。
その音から遅れて産声が聞こえてくる。
「生まれたようじゃな。良かったよかった」
蛇の方は頭を上げ、子がいるであろう場所を見つめている。
「これで、あいつはあの場所から移動するんだよな」
「あぁ、そう言っておったからのう」
子供の声が聞こえなくなると蛇はこちらに顔を向ける。
「……そうか、もういらぬと申すか。……何、礼などいらぬとも。
元よりこちらの勝手でやり始めたのじゃ。気にする事もあるまいて」
テレパシーで会話しているのか。彼女は一人で会話を続ける。
「子が落ち着き次第この場を離れるそうじゃ」
「これでやつはあの場を離れるわけか。…いや、待て。あの道は使えるのか?」
「残念じゃが瓦礫で埋もれて一人が通るのがせいぜいじゃろう」
「……そうか。すぐに復興の準備を進めないといけないな。
その準備もあり、あやつも移動するんだ。私達も戻らないか?」
「あぁ、あいつが移動するならここにいる意味は無いからな。戻るか」
討伐を命じられたと言っても、討伐理由が理由なだけに移動するのなら王子も文句は
言わんだろう。それよりも一刻も早く道の修復をした方が無難だろう。
「俺らは国に戻るけど、お前らはどうするんだ?」
「そうじゃな、お主らについて行くかの。加担すると言ってもまだお主らに伝えた
だけでお主らの長には伝えておらんからな」
「なら、乗ってくか?」
「気にせんでよいぞ。我らの本来の姿でならあの程度の距離を駆け抜ける
ぐらい問題ない」
一旦別れ、俺達は馬車を止めてあった場所まで戻る。
いやはやまさか戦わずに終わるとはな、意外だった。




