牢獄と絶対零度その2
[素直に別世界から来たって話したらどうですか?
ワンチャン、痛い奴扱いで見逃して貰えるかもしれませんよ]
確かに痛い奴扱いされると思うが、そんな事で見逃して貰えるとは
到底思えねえからパスに決まってるだろ。
なんて事を思っていると、隊長が口を開く。
「体の件もそうだけど、それより先に聞きたい事があるんだがいいかい?」
「………答えられる範囲ならな」
[ケンさん、墓穴掘る可能性がありますから考えて答えた方がいいですよ]
んな事言われんでもわかってるって。
ここでうまい事言って、出して貰えるようにするさ。
「まずは……名前を聞かせて貰えるかい?」
「………ケン・ミヤモトだ」
話し方がなんか尺と言うかなんというか気になる。
変に棘々してる言い方よりかは良いんだけど、これはこれでなんか嫌だな。
なんというか、子供扱いされている気分だ。
「ではケン君…君はリキュル氏…畑の持ち主の老夫妻と会って、
話して畑仕事を手伝った。これは間違いないかい?」
「……ああ、そうだ」
「次にその時君は彼らに自分は旅人だと言ったそうだね」
「………ああ」
あの老夫妻から聞いていたのか……
いや、夫妻は畑をぶっ飛ばされたんだ。聞いて当然だよな。
俺の答えを聞いて、口に手を当てて考える隊長。
何か引っかかる点でもあったのか?
「どうかしましたか、隊長」
「いや……少々情報の頭の中で整理していただけだよ。
さて、次の質問をさせて貰おう。君は老夫妻に会う前にフォントフォレストで
誰かを助けたりはしたかな?」
フォントフォレスト……?
地名だってのはおおよそ予想はつくが、そこまでしかわからない。
どこの事を言ってんだ?
[フォレストってついているって事は森ですかね?]
森か……森で助けた誰かって、あの二人の事か……。
助けた事は助けたが、何故その質問をするんだ?
怪しいが、やった事は人命救助みたいなもんだし悪い事は起きないだろう。
「ああ…確かに助けはしたぞ」
「………続いての質問なんだけど、君はなんでそんなところにいたんだい?」
「なんでって……そりゃ、その近くしゅっし―――」
[あッッ…!!!?ケンさん、その理由はダメです!!!そこの森周辺に集落はありません。
だって、転送場所は人目につかないところなんですよ!?]
……………そういや、そうだった。完全に忘れてた。
ミスった、かんっぜんにミスった……。
取り消したいが、口に出した以上は既に後の祭りだった
「フォントフォレストの近くに集落は存在しないはずだが……?」
敵を見るかのような目で睨みつけ、戦闘態勢に入られる。
マジでミスった……これはもう逃走しか手がねえんじゃねえだろ。
ゆっくりと拳に力を込めて、壁へと手をかける。
後はちょいと力を込めればこの程度の壁なら壊せるな、後は隙をつくだけか…。
「……ラオージュ、君はどう思う?」
「一応、正体こそまだわかってねえが、坊主が思ってたようなもんじゃねえ
ってはわかったな。俺ならこんな、しょうもねえボロの出し方するやつを
スパイや工作員に起用しねえ」
「洗脳やマインドコントロールはどうなんだ?」
「あれはかけた者の魔力が無ければ機能しねえ。
で、ある以上は魔力のかけらもねえ間抜けに賭けるのは不可能だ」
「しかし、そうなると通信の方はどうなる?あれはなんなんだ?」
「魔力がない上にスパイや工作員じゃねえってると、本当にひとり言か
ボケてるだろうな」
風野郎に言いたい放題言われる。
言い返したりしてやりたいが、さっきと同じようにの墓穴掘りそうで
無暗に口を開けん。
「そうなると余計に彼の正体がわからなくなりましたね」
「ああ、彼が素直に正体を話してくれるしか……」
魔法陣を展開して、ページを捲るかのように指を動かす隊長。
動きが止まり、再び口元に手を当てて考えてるようなしぐさを取る。
「?……どうした、アーシェ」
「リキュル氏からの報告の中に彼はまるで魔具を見た事が無いようだったと
いうものがあるんだ。その報告を最初に聞いた時は農業用の魔具を見た事がない
と言う意味だと思ってたんだけど、先程確認した報告のまとめには
どうやって動かすかなどを聞いたと書いてあるんだ」
「……隊長、それはおかしくないでしょうか?この世界で生きている以上
魔具そのものを見た事ないなんてありえないはずです」
「ああ、記憶喪失はさっきの発言からありえねえし、山奥で暮らしてたとしても
知らないはあり――……いや、待て………」
「……どうした、何かわかったのか?」
「わかったっつーか……あー、辻褄って言うかこれなら全てに納得出来るわ。
こいつ、多分――――」
風野郎は他の二人ではなく、こっちに顔と指を向けてその理論を述べる。
「―――別世界の人間じゃねえかな?」
[え…………ッ!?]
「…………ッ!?」
は…………別……世界………だと?
なんで、わかった。なんでその単語が出て来た!?
師匠ですらそこまでたどり着かなかったってのに……
まさかの単語に俺は面を喰らい、アンジュは言葉を失う。
「貴様、本気で言ってるのか!?それは机上の空論だろ!!」
「あくまで机上の空論であって、別にありえないって否定されたわけじゃねえぞ。
現に他の世界に生物がいた以上は同じように人がいても不思議じゃねえって
結論出てるんだ。それに考えてもみろ、今までの謎も別の世界の人間ってなら全て納得いくぞ」
「だが、魔力が無いと言うのはあり得な―――」
「………いや、生物は進化の過程で不必要なものは切り捨てて行く。
彼の世界では魔力そのものが不必要となっていれば自然と使わない魔力を
生み出さない体へと変化していくはずだ」
「だろうな、そして坊主の顔見てみろよ。まるで「なんでわかった!?」って顔してるぜ」
「………ッ!?」
予想外すぎる出来事に顔に完全に出てしまっていた。
別世界の人間なんて研究価値激高の存在だ、研究材料として非人道的な実験とか
される可能性も十分にあり得るし、別世界からの侵略者だって
思われる可能性も十二分にある。弁明するか!?
いや、俺が異世界人だって線が濃厚になって来てんだ。
ここは逃げだした方が………
「で、坊主。どうなんだよ」
「………ッ!!」
風野郎の一声のせいで二人の意識が完全にこっちに向いてしまった。
これじゃあ、つける隙もありゃしねえ……
「……どうって何がだ?」
「んな事、お前が本当に異なる世界から来た存在かどうかだよ?」
「………ふっ、んなわけねえだろ。予想外な言葉が出てきて動揺しただけだ」
「見ろ。やは―――」
「じゃあ、話は変わるが極術師ってどういう意味か言ってみろよ」
突然来た言葉に固まる。
今、ここでこの言葉を持って来るかよ、こいつ!?
完全に終わった話だと思って油断していたってのに。
どうする、なんて言えば良いんだ!?
「………どうした、何故すぐに言えない?」
「ッ!!!…いや……」
「坊主、知らねえんだろう?極術師ってのを……」
「………ッ!!」
女騎士のこの反応から一般常識クラスのものであるのがほぼ確定した。
やばい………さっきの出身地ミスと相まってこれは詰んだかもしれん。
「教えてやるよ。極術師ってのはな、国々が認めた各属性の頂点に
位置する魔術師に当てられる称号の事だ。常識だぜ、坊主」
残念だったな、と言わんばかりの笑みを浮かべる風野郎によって
完全に万事休すの状態に追い込まれる。
この弁明の余地もねえ状況どうする?どうすれば切り抜けられる……!!
「極術師を知らないとなると記憶喪失が現実的だが
しかし、反応を見る限りは記憶喪失だとはとても思えない。
そうなると残る可能性は異なる世界の人間だと言う事になるな……」
「そうなるが、先に言っておくことがある。
ケン君、私達は君に対して危害を加えたりするつもりはない。
ただし、君が危害を加えようとしない事が大前提だけどね」
「………口ではどうでも言えるだろ?」
「ああ、いくらでも言える。言えるからこそもう一度言おう。
私は君が思うような事はしないとも」
そう言って、俺をじっと見つめてくる隊長。
俺には嘘を言っているようには見えないが……
[とても嘘を言っているようには見えませんが、うーん……]
……アンジュもそう思うなら信用してみるか。
ただ、完全に警戒は解かないでおくが……
「……わかった。その言葉、信用する」
「ありがとう、信用してくれて」
俺の言葉を聞いて優しく微笑む隊長。
この顔を演技でやれたら、間違いなくハリウッドで主演が出来る。
そう思えるぐらいに邪気の感じられない優しい顔だった。
「坊主、言いたい事は他にあるが、一つだけ確認しときたいんだが……」
風野郎は魔法陣を展開して、指を動かしながらこっちを見て
「お前は別に侵略のための先兵……とかそういうのではねえんだよな?」
突然言われた一番言われると不味い言葉。
一瞬で心拍数が上がるような、喉元が熱く焼けつくような感覚に陥る。
が、違うなら証拠がなくてもはっきり言うべきだな。
「!!………ああ、そんなんじゃねえよ」
そう言う俺を風野郎は魔法陣と交互に見つめてくる。
もしや、心拍数とかで嘘ついているかどうかとか測ってんのか!?
そうなると超やばい。今、結構心臓バクついてるってのに……
[ケンさん、平常心です。落ち着いてください。頼みますから落ち着いてくださいよ!?]
慌てさせんな、馬鹿!!
アンジュのせいで余計に心臓の動きが速くなる気がした。
これは……………やばいか?
「………違う、みてえだ。疑って悪かったな、坊主」
「あ、ああ……」
なんとか最大の危機は回避できたようだ。良かった、良かった。
「敵じゃねえってわかった以上、一つ聞きたい事がある。どうやってここに来たんだ?
行き来の方法はわかるのか?」
「……いや、俺もわからねえんだ。気が付いたらって感じで……」
俺は送られただけでその辺の事は全部、アンジュがやってくれたからな。
俺にはさっっっっっっっぱりわからん。
「わからねえのか、そりゃ残念だが、坊主の謎も解けたわけなんだ。
ここから出してくれよ」
「いや、まだ出すわけにはいかない。二人に聞くべきことがあるんだ」
「俺もだ……?内容はなんだよ」
俺と風野郎にって事は大方、戦いの後に関してだろう。
俺がやったのは崖だけだし、大目に見て貰えないかな?
てか、そうであってほしい。
「簡単な事だ、争ったのは君達二人のだけなんだね?」
「そうだな。で、付け加えるなら勝ったのはこいつよ、こいつ」
………は、何言ってんだこいつ。
「いや、あの後俺もすぐに倒れたんだ。引き分けだろ」
「なーに言ってんだ、お前の蹴り受けた時点で俺は意識飛んでたんだ。
じゃあ、先に意識飛んだ俺の負けだろ」
「あれは不意打ちみてえなもんだ、現にお前があの場所にいなきゃ
俺に手立てはほぼなかったぞ」
「マグレを含めてが勝負だ。それを含めた上で敗者が素直に負けを認めてんのに
それを否定するとかふざけてんのか、お前は」
「なんでそんな事で言い争うんだ、貴様らは…」
そんな事だ……?
こっちとら反則に近いものと運含めて、あの結果なんだ。
あんなの勝っただなんて言えないんだよ。
「二人とも落ち着いてくれ。ともかく、第三者の介入無しでの結果だったんだね?」
「ああ、そうだ」
「そうなるな」
それを聞くと隊長は再び、魔法陣を展開し指をスライドさせていく。
前から思っていたがめちゃくちゃSFチックな仕草だな、これ。
「じゃあ、聞いていくけど、リキュル氏の畑を吹き飛ばしたのはどっちだい?」
「あー、俺俺。竜巻でゴリっとな」
「やはりそうか。では、シェールの丘を破壊したのは?」
シェールの丘?知らない単語のせいで何のことを言っているのかさっぱりだ。
「こいつよ、こいつ。素手で派手にやりやがったのよ」
「破壊後から予想はしてたけど、やはりそうか。
じゃあ、君をあの状態に負いやったのも素手でやったというわけか……」
「あの状態だ?」
「私は直接見てはいないが、死んでいても同然の状態だったらしい。
確か、ここに状態の報告がえっと……内臓複数破裂、出血多量、腹筋断裂、
全身打撲、左肩粉砕骨折、背骨はへし折れ、それから……」
「よー、生きてんな。俺」
「そんな君を救出した副隊長含む隊のみんな、そして妹にも一言言っておいて欲しい」
「そうか、ねえちゃんらが助けてくれたのか。あんがとな」
「………まぁ、良い。が、彼女にはしっかり感謝の意を伝えておけよ」
「わかってるって……」
聞いてる限り、相当な深手……と言うより生きてるのが不思議レベルの
大怪我だったみたいだが、それも魔術ならば綺麗にあと一つ残さず治せるのか。
さっきの魔法陣と言い、実は俺がいた世界よりも高度な文明なのかもしれない。
このまま話を聞き続けて情報収集したいところだがいい加減、ここから出たい。
「盛り上がってるところ悪いんだが、俺はいつになったら出れるんだ?」
「ああ、すまない。すぐに出してあげたいところなんだけど
まだ聞くべき事あるんだ。それを聞かせてくれないか?」
「………内容はなんだよ?」
「まず、君はこの先どこに行くか決まっているのかい?」
「…………いや、特に決まってはないな」
「それなら、私達にその力を貸して貰えないかい?」
意外な発言に面を喰らう。
力を貸してほしいって事はようはスカウトって事だろうが
普通、俺みたいなどこの馬の骨かわからねえようなのをスカウトなんてするか?
「悪いが、名前も知らねえ奴らに仲間になる気はない」
「なら……名乗らせて貰うよ、私の名前はアーシェ・シオナン。
よろしく頼むよ。ほら、副隊長も……」
「はい、私はシャル・フワロだ………何を黙っている、貴様も名乗れ」
「へいへい……俺はラオージュ・ルラーファってんだ。まぁ、よろしく」
意外なまでにあっさりと名乗ったな。
うーむ、さっきの言い方をした以上名前を知ったというのに
断ったらなんか感じ悪いと言うかなんとも言えないって感じだ。
もしかしたら、墓穴掘ったかもしれん……。
「名乗ってくれたのはありがたいけど、なんで俺に力を貸してほしいのか
その理由を聞かしてくれないか?」
「ああ、もう知っているかもしれないけど、この世界は現在、国々の格差
が深刻な問題になっている。その結果、3つの国が良くない道へ進もうとしている」
「良くないか……戦争でも起こそうってところか?」
「ああ、それを防ぐために現在、援助などで少しでも格差を埋めようと
尽力しているんだが、彼らはそれでもなおその道へ進もうとしている。
このままでは戦争が起こるのも時間の問題だ。ならば、どうするか…」
「……国力を上げる事で牽制しつつ、援助を条件に交渉するとかか?」
「そうだね。そして、そのために我が国の最高戦力の一人である彼と渡り合った
君の力を貸して貰えないだろうか」
てっきり魔王の様な侵略者がいて、それから世界を守るのが目的だと思っていた。
こうまで、ややこしいものを解決だなんて俺一人じゃ不可能だ。
だが、この協力を飲めば俺が出来ない事は隊長がやってくれるだろう。
それを考えると手を貸すのが賢明だが、その話が事実だと決まったわけじゃあない。
もしかしたら、騙されて、利用されるだなんて十二分にありえる。
半信半疑、信じ切らず、完全に心を許さずに様子を見ながら対応していくか。
「わかった、俺で良いなら手を貸す」
「そう言ってくれて、ありがとう。ケン君」
そう言って牢の合間から手を伸ばして来る隊長。
完全に信用してるのか、それともタダの馬鹿か……。
どちらにしても、ここは握手をして信頼度を上げておいた方が良いだろう。
俺も手を伸ばして握手をするとその手が一瞬だけだが冷たかった。
なんだ………今のは?
「しかし、隊長、良いんですか?
こんな事を勝手に決めてしまっては彼らが黙ってませんよ」
「なに、しっかり説明すれば彼らもわかってくれるさ」
彼ら?……決め事に対して黙ってないって事はおおよそ大臣とかそんなところだろう。
確かにこんなどこの馬の骨かもわからん奴を強いからってスカウトしました
とか言い出したら俺も黙らないと思う。
「はははは、王代理ってのは大変だな。アーシェ」
「そんな事はないよ、むしろ、私の未熟が故に迷惑をかける事の方が多いぐらいだ」
ん………?
「王代理……だ?」
「ああ、私はこの国、ノーヌミールの王子兼王代理、そして騎士隊隊長なんだ」
「……………盛りすぎだろ」
[なんですか、この全部乗せマシマシみたいな肩書は……]
次男系麺類でも乗せないぐらいにマシマシだぞ、その肩書。
「ははははは、よく言われるよ」
笑いながら、隊長……マシマシ王子は牢の扉にに触れて何かをすると
金属がこすれる音を鳴らしながら扉が開いた。
「やっとかよぉ……あ~~ッッ!!」
伸びをしながら、立ち上がる風野郎。
俺も寝ていて多少は体が固まってるかもな……。
固まってる体をほぐすために軽く肩を回すとゴキゴキと良い音が鳴った。
そんな事をしながら、風野郎が出て行くのに続いて俺も牢から出る。
さて、力を貸すとは言ったが何をするべきなのか……
「ケン君、悪いけど少し私達に着いてきてくれないか?」
「別に良いが、先に理由を教えてくれ」
「この後すぐに彼を連れて、報告会議に出ないとならない。
その時に君の事を報告するつもりだから、来てほしいんだ」
「そういう事か、わかった。ついてくよ」
「ありがとう」




