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九頭龍

 ライラは返事を待たずに座り込み、地面に右手で触れて目を閉じた。


「わしらのことは気にせず、はよう出るんじゃ。どうにかなるもんじゃないわい」


 灰色の角の頭が慌てて声をかけるも、ライラは目を閉じたまま集中している。

 目に見えて魔法を使っている様子もなく静かで、何も見えないことに頭たちはさらに混乱した。


「核見つけました。ちょっといじっちゃいますね」

「なん……じゃと……」

「スキルいっぱい頼んでおいて助かりました。これで大丈夫だと思います」


 呆けている頭たちに向かって、達成感のある笑顔で告げるライラ。

 いったい何をしていたのか、何がどうなったのかも見えない頭たちは、揃って首を傾げた。


「……何をしたのか、教えてもらえるかな?」


 戸惑った声を絞り出す緑色の角の頭に、ライラが地面から淡く輝いた石を取り出して見せる。


「核が完成する前に別の要素を入れて、結晶化させました。ダンジョンもどきの状態なので、この結晶を使えば空間を自由にできます」

「え?」

「壁を動かして外に出るとか。元々巣穴だったなら、好きな階層を増やして住みやすくしたり、食事になる魔物を出したり? えっと、漏れてる竜の魔素をダンジョンもどきが吸って、魔物を出して、食べて魔素を出して、魔物を……って、自給自足の巣穴生活みたいな」


 先程より呆然とした頭や、驚いた頭も気にせず、ライラはもしかして魔物が餌じゃなかったかなどと別の心配を始める。そんなライラを見て、頭たちはそれぞれ何かを諦めたような声を漏らした。

 悩みの原因が、ただの便利道具になってしまったのだ。


「とんでもないことをするね。でも……助かったよ、ありがとう。お礼になるものがあればいいのだけれど」


 緑色の角の頭は、ライラにかからないよう溜息を吐く。


「わしらの鱗でも剥がすかのお?」

「お! 牙でもいいな!」


 灰色の角の頭と青色の角の頭は、自身が素材になると知っていて提案する。それを聞いて、ライラは慌てて首を横に振った。言葉にされると痛々しい。


「お礼なんてそんな、えっと、ほら、私も外に出やすくなりましたから」

「我らが礼をしたいという気持ちを、受け取ってはもらえないだろうか?」


 しょんぼりした紫色の角の頭が、目だけ動かしてちらちらとライラを見る。


「だからって、剥がすとかは痛そうで……。あっ、改めて自己紹介から始めるっていうのは……その、どんなことができるかなって」

「そうだね」


 緑色の角の頭だけがライラに寄り、他はすっと首を並べる。並んだ顔は、胴体を見なければ別の個体と言っていいほど、表情に個性が主張していた。


「私たちは九頭龍。この世界では竜族になるね。そちらから見て一番右の私は、風の力が強いかな。錬金術とされるものも使えるよ。緑の角で覚えてもらうしかないかな……首ごとの名前は決まっていないからね。緑の、とかそのまま。翡翠と呼ぶ人もいたけれど」


 濃い緑の大きな翡翠に見える角は、つい見惚れてしまうほど美しい。他の頭から、真面目野郎、学者もどきなどと呟く声がする。それは仲が悪いわけではなく、長年続いた友人のような雰囲気だ。


「右から二番目のわしは、灰の、錫、くらいかの。石や金属のことなら得意じゃよ」


 気さくな老人といった口調で、器用にぱちりとウインクをするので、より人間味があるように見えた。他の頭が言うには、灰のは新しい物が好き。のんだくれだと笑われていた。


「三番目の儂は、茶の、琥珀。後ろに小さい緑の角もあると言われたんじゃがのお。大地の力で、植物のことならおまかせじゃ」


 灰のと同じように気さくだが、少し落ち着いたように感じられた。ただ、こちらものんだくれと言われて、酒が好きなのは他も同じと返している。


「…………」


 次に四番目の頭がパチパチ放電しながら頷いた。


「ああ、こんな時まで無口でごめんね。黄の、私から説明するよ? 四番目の黄のは、雷の力、光の力。山吹と呼ぶ人もいたかな」


 無口だけど雷の音で感情表現しているのかな、とライラは思った。緑のが話すと、いいよ、そうだよ、と返すようにパチパチ反応するからだ。


「真ん中の我は、紫の、藤。我のことは、おじいちゃんと呼んでくれてもかまわない。毒も薬も作れる」


 老紳士だが少し謎の優しさを見せている。自分の解毒剤だろうとか、普段の威厳を忘れているとか、色々言われても笑っていた。紫のは寂しがりの一面もあるため、久しぶりに話せて嬉しいのだ。


「右から六番目、赤の、緋色。火の力だ」


 こちらは繊細、真面目。そう言われているように、静かで落ち着いた、少し堅い話し方をしている。


「七番目! 青の、瑠璃、水ならまかせろ! 赤のみたいに繊細なのは苦手だけど、氷もいけるな!」


 声は幼くないが、隣とは真逆をいくかのように、若く子供っぽい印象が抜けない。長生きしているから力の調整ができるようになっただけで、大雑把なため昔は今より酷かったという。


「八番目、白の、真珠。病気や怪我を治せる……。今更だけど、落ちた時に痛めたところがあれば、隠さず言ってね。必要ないかもしれないけど」


 おとなしいが気が弱いといった感じではない。皆の回復担当だが、すぐ治るなどと放置する雑なところもある、と困り顔を向けられていた。


「最後に、黒の、濡羽、黒曜。困ってるとは言ったけど、何とかなるなんて、本当にありがとう。僕は精神に干渉したり、闇の力が強いから、最初に心配させておいて一番力になれないかも」


 爽やかな口ぶりだが申し訳なさそうで、言い出した自分にできることが少ないと気にしている。目立つのが苦手でも、お礼ができるなら別だと黒のは思っていたからだ。

 それぞれに得意な力を使って、ライラに適性がある魔法を教えるか、困っていることを解決するか。どういった方法ならばお礼ができるか、彼らも話しながら考えていた。




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